危ない公訴時効の廃止

2010年4月9日

公訴時効の廃止が国会で審議が始まった。
公訴時効は,犯罪があってから一定の期間までに公訴しなければならないという制度であり,この期間を経過すれば起訴されなくなるという制度である。殺人罪など死刑にあたる罪については25年とされている。平成16年改正で15年から25年にに延長されている。長期10年以下の罪に該当する場合は5年とされている。今回の廃止の議論は,DNA鑑定などの科学捜査技術の進展や「被害者の権利」を尊重すると言う観点からだ。

しかし,いくらDNA鑑定技術が進歩したからといって,その結果だけで有罪とすることはできない。25年も経過して,DNA鑑定の結果何らかの事件との繋がりがわかったとしてもそのことだけで有罪とすることはできない。改めて被告人の供述や他の客観的な証拠の検討,収集が必要となってくる。そんな,不十分な追加の捜査も不可能となっている状況は,えん罪を生む可能性をたかめるだろう。何よりもこれだけの時間が経過してなお被告人に死刑を求める権利を認めるのだろうか。死刑にしてもなおその遺族の方の気は済まない。もし,死刑によって被害者の権利が実現すると考えるとすればなんと人とは残酷で恐ろしい野蛮な動物であろうかと思う。

名張毒ぶどう酒事件は,DNA鑑定などの科学捜査技術の向上によって,危うく死刑えん罪事件を再審無罪と導くことに向かっている。時間の経過による科学捜査技術の進歩は,こうしてえん罪を防ぐことにこそ十二分に活用されることがあっても,えん罪をつくるために活用されることがあってはならない。平成16年改正で既に公訴時効は,一度延長されている。これ以上の公訴時効廃止論議は,えん罪の危険性を増すばかりであると言わざるをえない。

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