司法修習生の給与

2010年6月11日

司法試験に合格すると,現在では1年間の司法修習期間がある。我々のころは2年間であった。その2年間は実に多くの経験をさせていただいた。検察,裁判,弁護修習が全国の各配属庁であり,修習の始まりの4ヶ月間と最後の4ヶ月間は東京での合同の修習であった。何の権限もそして責任もないが現実の実務に携わり,自由に物事を考えることのできる期間であった。その間は,給与が支給され,法曹が国家のために公費で育成され,公的使命と役割を強く自覚させられることでもあった。

しかし,この法曹育成のシステムが大きく性格をかえようとしている。司法修習の期間は既に1年間に縮められている。極めて不十分な修習で実務につく結果となる。さらにこの司法修習の期間の給与制は今年の11月から廃止になる。給与なしで1年間を司法修習に専念しなければならないのである。大学の法学部を卒業し,高い授業料を支払って法科大学院を卒業し,司法試験に合格しても給与もでない司法修習をしなければ法曹資格が得られない。これらの経済的負担に耐えられる者だけしか法曹の道を歩むことができなくなってしまう。現に多くの法科大学院の卒業生が数百万円の借金を抱えているとのことである。やっと法試験に合格して司法修習生になっても給与もでなく,さらに借金を重ねることになるのである。その人たちが,人権を擁護し,社会正義実現のために働く高い理想を持ち続けることのできる法曹となっていけるのか,極めて疑問である。そうなれば,国民の人権・民主主義の危機でもある。

今,日弁連を中心に,この司法修習生に対する給費制を廃止することなく継続すべきであるという運動を全国的に進めている。この問題は,法曹となっていく者の意識にも大きな影響を与え,国民の人権保障にも影響が出かねない問題である。しかし,単に給与の支払いをするべきだとの主張では,なかなか問題の本質を理解してもらえないことがこの運動の難しいところである。

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