岡山の司法修習生の実地研修中に海上保安庁のヘリコプターが墜落するという事故があり,当初の発表に司法修習生の研修のことが伏せられていたために,事故の結果の重大性とともに公表をめぐって大きく報道で扱われている。
この司法修習は岡山地方検察庁での日程のなかで行われている。司法修習生の身分は最高裁判所に所属し,各実務地の地方裁判所に配属され,その各地方裁判所から委嘱を受けて一定の期間,地方検察庁,弁護士会が修習を担当していることになっている。その意味では,今回の件は岡山地裁,最高裁とも情報を収集し,対策を協議しているはずである。37年前に私も岡山地方裁判所に配属となり,岡山地検で収集中に海上保安庁の修習があった。そのときは,海上保安庁の職務内容などについて講義を受け,少しのあいだだけ巡視船に乗せてもらっただけであった。この場所から児島競艇場にいき,ここではスリ犯検挙とレース管理と舟券の仕組みの話を聞き,舟券を実際に購入したりすることを経験した。「連勝・複式」とか初めて聞く言葉の意味を知ることができ,実務家となってもすぐに事件処理に役立った。
地検の修習では,事件処理に関して地検が様々な機関と関係が職務上あり,実地研修の材料には事欠かない。私も,取調,起訴か不起訴かを決める決済など本来の検察実務を行うのはもちろんであるが,事件後の死因解明のための死体解剖,パトカーの夜の試乗,列車試乗,自衛隊の見学,酒税のことに関してビール工場での税務署長の話など多くのことを経験した。司法試験に合格したばかりの状況のなかで,こうした社会の生の事実に触れておくということは大切なことだと思っている。今回の海保のヘリコプターのデモストレーションが,地検からの修習のための企画要請に対して過剰なサービスを提供しようとして,そのことが事故の遠因といえるようなことになっていないことを信じたい。
私たちのころは,この司法修習期間は2年間あった。そのうち,16ヶ月間は,各地の地方裁判所に配属となる。その中の4ヶ月間は検察庁での修習であった。今の制度は修習期間は1年間になっている。1年間であれば,机上の修習だけでほとんど費やされて,いろいろと体験することは大きく割愛されてしまっている。今回の海保修習はそのなかでの貴重な体験のひとつであったと思う。さらに,この1年間の司法修習の間は修習専念義務があるがこの11月からの修習生には給与は支給されない。法曹への道は,裕福な経済的余裕のある者だけに開かれているというゆがんだ法曹養成の制度となってしまいそうである。