当会の岡本貴夫先生がご逝去された。岡本先生のところで,弁護修習を受けた。もともと倉敷にご自宅があり,倉敷の裁判所にでかけることが多くあり,事務所が留守となることが多かった。車の免許を取るのも修習の一環だと,運転免許の試験を受けに行くことは大目にみてもらっていた(教習所に行かないで,直接公安委員会の試験を受けたので,司法試験の受験回数よりは多く受験した)。司法修習は,私が二代目であった。先生がまだ40代のころである。
弁護士で,車の免許をもって車を運転するという人はあまりいなかった。そのころ先生はブルーバードに乗っていた。麻雀が好きであった。当時,遠藤周作の「狐里庵先生」の随筆集を読んでいて,突然笑い出したり,この本がトイレに置いてあったりしていた。今の弁護士の執務状況と比べれば,ずいぶんとのんびりしていた雰囲気があった。
修習が終わるときに,短冊を渡され,一言書いていけと言われた。私は「法学を学んだ意義を確かめたい」と書いた。この短冊は,しばらくは先生の机の上に置かれていた。私が弁護士になって,先生のところにお邪魔したときにも置かれていたのをみた。「法学を学んだことの意義」は,未だに自分に問いかける言葉である。1ヶ月以上も前のことであろうか,先生がその古い事務所があった場所に立たれていて,じっと空き家になっている建物を見つめられていた姿を見た。