司法修習生の給費制が廃止された裁判所法が成立したのは今から5年前である。日弁連はそのことにはかねてより絶対に反対であると主張を続けてきていた。その反対の意見の重みから,その施行期日は5年後に先延ばしされていた。その期日が今年の11月1日だったのである。なぜ,司法修習生に給費が支払われる必要があるのかという議論は,司法のあり方の根本問題であり,単に生活保障ことだけから議論をするとなかなか了解がえられない。そんなこともあり,今年の春ごろまでは,マスコミも含めて,日弁連が自分の利益のために主張していることのように受け止められ,理解をえられるところに至らなかった。しかし,ここにきて,その問題はどのような法曹を育てようとしているのか,司法のあり方と深く問題のあることだとの問題の核心について徐々にではあるが理解を得られるようになって,マスコミの論調にも変化があった。
国会では,与党民主党の部門会議では給費制維持の合意が取れていた。自民党では反対の結論であったが,給費制維持に積極的に動いていた公明党との距離を測りながら最終的な判断をじっと見極めをしていた。そんななかで,裁判所法の改正の施行期日が到来して,給費制廃止が確定した状況となった。しかし,この法律が現実に適用となるのは11月28日からである。私も,この28日から新しい修習生の指導担当を引き受けることになっている。そこで,27日までにこの施行期日をさらに1年変更する法改正を行って対応するという合意が民主党,公明党,自民党でなされたようである。
公明党は,強く給費制維持を主張してきた。その主張に民主党も部門会議レベルでは賛成してきたという状況があり,公明党との関係からこれに賛意を表明することになった。それらの状況をみた自民党はいったん反対の表明をしながら,公明党と民主党の距離が近づくのを警戒して,今回は公明党に近寄り,賛同して給費制維持に動こうとした。しかし,給費制この1年だけであるという限定つきの賛同である。最後まで国会情勢との関連でどうなるかはわからない。危うい綱渡りの政治状況のバランスのなかでその行方が決まるという状況である。日弁連は体質的に政治との距離を常に保ってきているが,政治との関連は無視できない,いやむしろ政治そのものと深く関わっていることを思い知らされる出来事となっている。