無罪弁論の事件でしたが

2010年12月3日

交通事故の業務上過失傷害,道交法違反事件に関し,罰金50万円の略式裁判に対して正式裁判を申立ていた国選事件であった。交通事故を起こしてしまったのは認めている。そして,その責任があることも争っていなかった。しかし,その交通事故の発生に気がつかなかったために,事故の申告が遅れたというものであった。交通事故の発生に気がつかなければ申告義務もないではないかと道交法違反については争ったのである。被告人も,自分の行為をひき逃げと言われることには納得しがたいと争ったのである。

今日の判決は,この争った道交法違反事件についても有罪判決で,罰金50万円のままであった。論点は2点あった。ひとつは,交通事故について認識がなくても申告義務があるのかと言う点と,どの時点の申告義務を問うのかということである。前者については,具体的事故についての認識はなくてもその本質的なところについての認識があれば足りるとの判断で,自分の車の異常を認識したのだから事故の認識が無くても事故の本質的な部分についての認識があるといえ,申告義務は発生しているといい,その発生時期は事故がおきたかもしれないことを認識したときであり,本件の場合は事故から数十分経過した後のことを判決理由で述べていた。そうであれば,公訴事実そのものの記載とこの判決理由との間には整合性がない。いい加減な略式命令の正しさをなんとか維持しようとした無理な認定であると言わざるを得ない。

しかし,いずれにしても罰金30万円か50万円の違いにしか過ぎない。経済的負担はこれほどの違いしかないが,けっしてひき逃げをしたわけではないと主張する被告人にとっては今日の判決には納得しがたいようであった。私も,実にいいかげんな公訴事実の記載をそのまま罪となるべき事実として認めてしまっているこの判決には納得できない。判決理由にのべる事実関係を認定するのであれば,別の公訴事実にならなければならない。少なくとも公訴事実の変更がなされて審理される必要があったのではないかと思っている。

弁護人としては,控訴するべきだと思っている。被告人にとっては,控訴すればまだ刑事裁判の被告人として裁判手続きにさらされることになる。その負担を考えれば一概に控訴すべきだとも言えない。被告人にもそのことを伝えて,控訴するか否かこれからの控訴期間のあいだ考えていただくこととした。

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