和解で事件が終了した。ほんとうにいろいろある社会の背景を背負いながら,それでも双方がそれなりに満足できる内容の和解であった。会社からのいわゆる整理解雇であった。本人はこの解雇にはとうてい納得はできなかった。社員寮からは退去の求める訴えがなされた。仕事がない。収入がない。住居を変わろうにも転居の費用だけでも大変である。この不景気のおりに,60歳を超えた人にやすやすと仕事があるわけはない。
半年ばかり,争ってきた。解雇の有効性を争うことが,これからの仕事のありようから考えてもベストの選択とも言えない。裁判で争いながらもなんとか再出発の道はないものかと模索してきていた。生活保護の受給もやむをえない選択であった。しかし,やっと住む場所を確保できた。新しい仕事探しにも集中することができるようになった。こうした決断ができたときに,今回の訴訟は,速やかに寮を明け渡し,新しい仕事に就けるように一歩前に進むことであった。
不景気,整理解雇,生活保護,就職難など社会問題を背景に抱え,訴訟のうえでも勝てたと評価できる内容ではないところで和解して終えた。今日の結末を本人に知らせると,明るい声で感謝の言葉があった。一番に事件が1件解決したことは私も嬉しい。依頼者の方がさまざまな問題を抱えながらも少しの希望もって暮らせることができるようになったことは嬉しい。地味な事件ではあるが,その人の重大な人生の一コマに役にたてたのではないかと,ほっとした気持ちを味わった事件であった。