ある相談機関からの突然の相談、独り住まいの老人の未公開株詐欺の相談であった。振込をするときに、金融機関窓口で大丈夫ですかと聞かれたそうである。しかし、勝手にしっかりしたところだと思ったから振り込んでしまったようである。すぐに周辺の人の話を聞いて騙されたと気づき、いろいろと手を尽くしたがあきらめをえざるをえないと今ではそう思っている。電話だけのやりとりでここまで人を信用させるその話術はたいしたものだ。このような状態で確実に被害回復できるとはとても言い切れない。やっても無駄かもしれないというしかない。
この相談を受けてまもなく、こんどは既に投資詐欺被害事件として受任をしている人からの電話である。既にしている警察への被害申告と当方への被害救済の委任とをやめたいとのことである。その人のところへ弁護士を名乗る者から100パーセント取り戻してあげるとの電話があったとのことである。この人のところには前にも未公開株の上場時期をめぐって会社の顧問弁護士を名乗って振込を催促する電話があった。その弁護士となのる人が本当に弁護士かどうか検索して調査したところそのような弁護士はいないことがわかっていた。今度は国際弁護士だから日本の名簿には載っていないとの説明があり、それを信じるというのである。それが、明らかに詐欺でであり、まさに二次被害にあおうとしているのだと説明しても、そのなんの根拠もない電話1本を私の説明よりも迷いを示しながらも信用してしまうのである。
この人は、いかに荒唐無稽なことを言っているのか順序だてて話しても迷いながらも、最後には私への事件の依頼を取りさげるといいはるのである。またまた新しい被害が目の前で発生している。大きな損をした人が1分の望みにすべてをかけようとする人の心理特性によるもと考えざるをえない。これをプロスペクト理論というものとして経済行動学の観点から論じ、これを民事事件の過失相殺理論に適用できないかという議論が我々弁護士のグループの間で議論が始まっている。今の実務とはまだまだ遠い議論かと思っていたら、裁判官の研究論文にこの取引被害事件におけるプロスペクト理論に触れているものが発表されていた。こうした事件で、この理論を積極的に裁判でも利用していく価値がありそうだと思わされた。