当会には病気腎移植を受けた会員がいる。きちんとした仕事のできる有能な弁護士である。彼は長い間人工透析を受けてきていて,仕事にもずいぶんと影響を受けていたが,腎移植後は顔色もよくスポーツもこなし,元気で仕事をしている。。そんな彼がいることが縁で病気腎移植を実施したとして非難の矢面にたたされているいわゆる「瀬戸内グループ」の万波医師(弟)らの話を聞く機会が得られた。rnrn人工透析の生活がいかに過酷なものであるか,そして生きることにいかに制約を受けることになるのか改めて実情を知らされた。生体腎移植の効用とその機会の少なさについての話がまずあった。そのうえで,一定の危険があってもそれを十分に理解した上での病気腎移植の有効性についての話が続いた。私は,それまで病気腎移植についてはいくつかの疑問をもっていた。rnrnまずは,病気の腎臓を治療して移植して使えるのであれば,他人に移植するのではなくその人に戻してやるのが患者にとって一番の治療ではないかとの疑問である。しかし,この自己移植がなされる場合は極めて少ないそうである。それはまずは腎臓を取り出し,それを移植場所に再度戻すことが患者にとって大きな負担となり,危険であるというのである。若い患者であれば検討できてもある程度年がいっていれば,危険性の方が高く選択できないとのことである。取り出す手術は簡単でも,再度戻す手術は患者の負担が大きくて選択できない場合が多いとのことであった。rnrn腎臓は2つあるが,一つを取り出した場合の機能についてはどの程度の負担となるかとの質問に対しては,ほとんど影響がないとのことであった。腎臓はかなりの余裕をもって働いている臓器とのことである。こうしたことを考えるのであれば,病気腎移植にはなんらの問題がないように思われる。しかし,やはり私は,臓器移植そのものに常に不可避的に問題となるドナーとレシピエントとの関係は解決されていないと思われた。rnrn今日,話をきくことができた万波医師は,ドナー側の医師である。つまり取り出す側の手術を担当する医師である。ドナー側の医師であると言われたときに,単純に取り出される患者の主治医のことかと思ったがそうではなさそうなのである。受け取る側の事情にも通じている医者でもあり,弁護士で言えば双方代理的な要素があることはぬぐえない。瀬戸内グループの人たちが懸命に患者さんの側にたってインフォームドコンセントを尽くしてきていることも十分に理解できた。しかし,この医療が一般化されていくなかにおいては,制度的にこの十分なる説明と当事者にとって公平で必要な治療であることが確認されることが保障されるシステムが必要であると思われた。そうでなければ,命が金で買われることになったり,取り出される側の患者さんの利益が無視されたりすることがおきる可能性が残ることになるからである。和田心臓移植の問題をこの分野でも起こしてしまって,臓器移植の信頼を失ってはならないと思った。万波さんたちの意欲と患者さんたちへの大きな貢献を否定しているわけではないが,閉ざされた世界で行われることの危険性を感じた次第である。
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病気腎移植と万波医師
2007年4月13日
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