離婚訴訟は地方裁判所ではなく,調停,訴訟との一貫した流れのなかで家庭裁判所で手続きがなされる。今日は,調停手続きを終え,訴訟になっている事案であって家庭裁判所で協議離婚をするという和解が成立した。もう,30年近い婚姻生活を継続してきていて,子どもたちもそれぞれ成人に達している。この婚姻生活の存在はそれぞれの当事者にとっては重いものがある。妻の立場であった依頼者は夫との婚姻生活そのものには全く未練はないものの,家族であった重み,今後の経済状況を考えるとなかなか決断することができなかった。
事前に相手方から示されていた条件は,一般的にみればとても有利な条件であった。そのことはわかっていても,気持ちがすぐに受け入れることができない。そのジレンマがよく理解できるだけに今日は依頼者に裁判所に出頭してもらって裁判官の冷静な意見を聞くことによって考えを整理してもらう機会をつくることにした。相手方は弁護士だけの出頭であった。この日に和解が成立するところまでいくとは私は考えていなかった。率直な気持ちを裁判官に話すように促した。
依頼者は,調停の段階で男性の調停委員からたびたび「だんなさんはよくもててうらやましいな」と言われたことで傷つき,落ち込んだとのことであった。夫の不倫関係が原因となって離婚調停となっているときである。自分の立場を全く理解してもらえないつらさと,逆に責められるような雰囲気でとても調停で話をすることはできなかったと言った。そしてその後に私のところに相談にきて私には記憶がないのであるが「あなたが悪いのではないよ」との一言で救われるような気持ちになってこの席にくることができるようになったとのことであった。何気ない一言が,人を傷つけ,人を救うことになると改めて思い知らされた。法律相談の際の一言にも傷ついて相談にきている人であるということを気遣いながら相談しなければならない。今回は,意識していなかったがいい方向での対応だったようでよかったが,いつ逆の対応となってしまうかも知れない。裁判官は,その場で裁判所の調停委員が不快な思いをさせてしまったことを謝罪していた。
こうして離婚することに同意したのであるが,相手方は本人の出頭がなく弁護士だけの出席であるので,和解による離婚成立とはならない。和解によって協議離婚をするという合意を成立させて訴訟を終了することができた。依頼者の方が直接裁判所にでてきて,裁判官に思いをぶつけたことが良かったのかもしれない。