弁護士会館で行われる法律相談担当日であった。70歳以上の高齢者の方3名を含む5名の方の相談を担当した。それぞれたわいもないといえばそれまでだが,そんなに深刻な事案はなかった。
87歳の方の相談があったが,既に30年も前の出来事についての相談で,それは時効ですよというと「前に聞いた弁護士さんも同じことを言われました。これで納得がいきます」というのである。30年前というと今30歳の人が生まれた時の話である。本人はそんなに昔のようには話さない。もう10年や20年の違いはたいした違いではなくなっているのである。私と同学年のある同業者の話であるが,ことし60歳になり,その住んでいる地区では60歳から老人クラブにはいるそうである。その人の父親も現在その老人クラブにはいっていて親子で老人クラブとか。この年になると20年ぐらいの年はどういうことはなくなるようだ。そして,この相談者は車を運転して帰るとのことであった。本人は危険とは思っていないようであるが,この年で運転されるとかなり危険度は高いとみなければならない。思わず無事で帰って欲しいと願った。
40歳前のお坊さんから友人関係のことについての悩みの相談があった。どこか自信のなさそうな感じのかただったが,まじめで温厚そうな方であった。法律家がお坊さんから人生相談を受けるという図はちょっと滑稽ではないか。でもちゃんと会話にはなっていた。明るい顔で帰っていかれたので,私でも役割が果たせたかなと思っている。
私の妻と同年齢の女性の方の相談は娘さんの婚姻に関する相談であった。婚姻すると夫の氏を名乗るのが当然だと疑いもなく信じている方であった。家制度と戸籍制度が結びついていた時代が長く,なかなかこの「家」の感覚から脱却できないようである。氏は家族単位の呼称にしかすぎないという感覚が完全に行き渡るにはまだ時間を要するようである。ただ困るのは,こうした感覚の人が家庭裁判所の調停委員をしている人の中にもかなりの割合でいると言う現実である。