検察審査会のもっともな結論

2007年7月13日

裁判に市民の声をということで始まるのが裁判員制度だが,検察に市民の声を反映させる制度は古くからある。委員会のメンバーは裁判員同様選挙人名簿から抽選によって選任される。私もその抽選で選ばれたとの通知をもらったことがあるが,司法関係者ということで資格がなく,結局選任は取り消された。検察審査会は,検察官の不起訴処分について意見をいうことができる制度である。強制力はないが,検察審査会で不起訴不当との意見がでれば,検察庁は慎重に再度その処分が適正であったかどうかもう一度慎重に検討することになり,極めて重要な役割を持っているといえる。

実は,今日,私が関係していた交通事故に関して不起訴不当との判断が検察審査会でなされた。事案は,交差点をゆっくりと右折していたところ直進車が猛スピードで通り過ぎようとし,その右折車に衝突して,自らは左斜め前の歩道から家屋の建築現場につっこんでその建築業務をしていた人を死亡させたというものだ。この右折車両の女性の運転手が起訴され,猛スピードで直進し,現に人をはねた男性運転手は不起訴となった。普通の右折と直進車との関係であればそれでもいいかもしれない。私は右折車両の運転者であった女性の刑事弁護を担当した。近くのコンビニで防犯用に設置していたビデオを警察が押収したとの情報があったので,裁判になってこの証拠の存在を確認し,テープの鑑定結果を証拠として提出させた。この録画テープには、事故の経過が写されていたのである。右折車両がゆっくりと右折を開始しているのに直進車は交差点に入るわずかの距離の間にスピードを相当あげて交差点に進入した様子がよくわかった。弁論は,本件事故の原因は非常識なスピードでしかもスピードを上げながら交差点を直進していた方こそその責任を問われるべきであると弁論した。精一杯,当方の責任は軽いことを強調したのであった。もちろんそれは執行猶予判決であった。この裁判を担当していたときから,法廷においても90キロ以上のスピードがでていたことをわるびれる様子もなかった直進車両の運転手が,なぜ起訴されないなのだろうかと不審に思った。判決においても裁判官はこの直進車の過失も大きいことを指摘していた。

今回の検察審査会が不起訴不当の判断をしたことは極めて常識的な判断であると納得ができる。この判断は,この事件だけでなく他の事件においても検察官に与えた影響は大きいだろう。裁判員裁判においてもこうした社会一般人の常識によって,疑わしきは被告人の利益にという刑事裁判の基本に立ち戻って,適正に判断されて誰もが納得できる裁判が実現されることが期待されている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

Links

Calendar

  • 2024年5月
    « 5月    
     12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031