一瞬のためらい

2007年8月9日

高校生,中学生の3人の子ども,妻と両親7人で生活していた。少し経済的に無理かなと感じながらも家族がともに暮らせる家を購入した。そのことによって,家族の絆が強まり,仕事への励みになると思ったからだ。しかし,仕事は順調に伸びることはなかった。大手企業の下請けの下請けである。ぎりぎりまで価格は抑えられる。収入の伸びを予測しての住宅購入計画は破綻していった。そんななかでの負債整理の相談であった。なんとか住宅を残す方法はないか,今後の収入の増加は見込まれないか,いろいろと検討したが困難であり,夫婦での破産宣告しか方法はないようであった。このままだと夫婦の関係も破綻しそうだと相談の途中でふともらした。しかし,ゼロからのスタートによってこの困難な状況のなかでもう一度再出発することが可能なことも話した。夫婦の経済基盤をもう一度立て直すことに夫婦の関係もしっかりと築けるようになるのではないかと話して最初の相談は終わった。「少し先が見えるきがします」といいながら方針は決まったという雰囲気であった。

今日は2度目の相談であった。妻は前回の時も冷静な表情でときおり夫の顔をみながら決断を促している様子であったが,今日も安心しきったような表情で余裕さえあるような静かな感じであった。破産宣告の手続きに必要なほとんどの書類を既に準備していた。債権の内容についてもそれぞれについて整理されていた。破産宣告申し立てを決断し,債務整理をすることとしたのであった。正式に事件として受任する場合には,事件の受任契約書を依頼者との間で交わすことになる。この契約書を作成し,依頼者に押印をしてもらう段階になって,じっと署名の箇所を見つめながら手が止まった。そして,「これで手続きが始まるのですね」と一瞬の時間をおいて妻の顔をみつめ,妻が少しの笑顔を見せて頷き,署名を始めた。その一瞬に家族のために購入した住宅のこと,懸命に仕事を頑張ってきたが下請けであるが故に収入が伸びることのなかった悔しさ,経済問題をめぐる妻とのやりとりなどなどそんなことがよぎっていたのに違いない。思い切ったようにそこに署名をして「これから頑張ります。よろしくお願いします」と挨拶をされてでていった。人生の重要な時期を迎えている子どもたちのことも気遣いながら,頑張らなくてはとの強い決意をして帰られたのだと思う。

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