岡山弁護士会館に行けば「弁護士マップ」という冊子を備え付けていて,希望すれば無料でもらえる。岡山弁護士会の全会員の顔写真と名前,取り扱い業務などが記載された名簿のようなものだ。かつて,弁護士は一切の広告は禁じられていた。事件依頼を勧誘するようなことをしてはならないと言う趣旨だ。一方,弁護士に依頼したいという市民にとってみれば,弁護士に関する情報が全くないなかで誰に依頼すべきか考えなくてはならない。このことが,弁護士へのアクセスの障害となっているのではという考えから「弁護士マップ」の発行に踏み切った。情報量は少なく,単に名簿程度の意味しかないものではあるが,全国にさきがけた取り組みであり,なかなか評判がいい。その後,弁護士の広告が解禁となって,電話帳,新聞広告,なかにはラジオコマーシャルまでしている人もいる。
午後1番の武富士相手の過払い金返還請求訴訟の第1回口頭弁論手続きを終え,弁護士会館に寄って事務所に帰っていたときであった。会館前にある強い日差しがあたっていたバス停のベンチに座り,「弁護士マップ」を片手で広げてつかみ,もう一方の手で携帯電話を耳にあて懸命に電話をしている40歳ぐらいの男性がいた。おそらく,なにやら急ぎのことで法律事務所に次々と電話をしてすぐに相談にのってもらえる弁護士を探しているようではあった。その人とは目が合わないように急ぎ足で前を通り過ぎた。こういう人の相談というのは実は避けたいと思う事件が多いのだ。裁判所に何らかの用務で弁護士に相談もしないで行き,あわてて弁護士に依頼したいと思うようになったか,ほんとうはそんなに急ぐことでもないのに本人だけは一刻も待てないかのように考えての相談であったりする。無理難題が持ち込まれるケースが多いのだ。おそらくいろんな事務所に手当たり次第に電話をしているに違いないのだ。こんな相談はできれば断りたい。まさか今電話しているのは私の事務所ではないだろうかとも思ったりもした。
事務所に帰り,荷物を置いてほっとしたところ,事務員から「先ほど電話があり,今,弁護士会館の前にいるが相談に乗ってもらえないかとのことでしたので,これから予定が空いているようでしたので受けました」とのことであった。そうだ,さっき見た人だったのだ。やはりちょうど私の事務所に電話をしているところであったのだ。不吉な予感というのはあたるものである。相談は自己破産を受け,免責の手続きを終えたばかりであり,離婚をして親権者が母親となっているがなんとか自分に親権者を変更することができないか,養育費の減額はできないかなどのことであった。特に相談にこられて困る事案ではなかった。相談を終え,「少し落ち着いて考えられるようになり,生活に光を見る気持ちになりました」と言われて帰っていかれた。なにも解決はしなかったはずであるが,自分の置かれている状況を冷静にみることのできる契機にはなったのだろうか。