朝は,広島のホテルで目を覚ました。このホテルの向かい側は広島美術館であったので,入館した。常設展の他に野田弘志展が催されていた。はじめてはいった美術館であったが,円形状の建物で,円の中心から放射線状に展示室が配置されているおもしろいつくりであった。鮮やかにはえる庭の緑の中心にでんと安定した建物が描かれていたゴッホの「ドービニーの庭」は印象的であった。どんよりと曇って冷たそうで不安なヴェラマンクの「雪景色」はどこかで以前みたことがあったと思ったのだが,記憶違いかもしれない。野田弘志の絵はデジタルハイビジョン写真よりも本物に近いと言ってよい写実を極めた作品であった。ドクロなどを数多く書いていたが,白くペンキで塗られた壁の前に裸婦がうずくまるようにして不安な目をして転がっているような絵があり妙な気持ちで鑑賞した。観て廻っていたところ,最後の展示室で作者が自分の作品を入館者に解説しながら鑑賞していたところに出会った。少し解説を聞いたが,本当は書きたくない対象の絵を画家として生きていくために売れやすくするために描くことを選択せざるをえない現実があることなどを話していた。どうも花はもともと描く対象とすることは好まない方のようであった。
岡山に帰って,夜は岡山ポリフォニーアンサンブルの演奏会にでかけた。ルネッサン期の英国音楽とバッハのカンターター23番などが演奏された。バッハのカンターター23番は,バッハがトマス教会に音楽責任者として就任する時の試験のために作曲されたものであるそうだ。礼拝の前後には,その日の説教の意味を音楽的に表現するためにバッハが作曲した音楽が演奏されていたようである。昨年,このライプチィヒにあるトマス教会を訪問することができた。ルターのニコライ教会のすぐ近くにあった。トマス教会では当時は毎週の礼拝の都度,バッハ作曲の新曲を聴くことができていたのだから本当に贅沢な世界である。今日の演奏は「いざ,罪に抗すべし」(カンタータ54番)と「汝,まことの神にしてダヴィデの子よ」(カンターター23番)の説教に対応する曲である。バッハは音楽によって説教をしていたのである。リコーダー,パイプオルガンのクラシックな音色とともに18世紀のトマス教会での荘厳な礼拝を想像しながら時を過ごした。
「芸術の秋」を味わった。