老後の資金を騙されるようにして持っていかれた。家の建築は任せて欲しいとお金を先に受領しながら,自分の事業資金の支払いに先に充てて,家の建築をしないまま代金を返さず,家の建築もしないのである。そこで,依頼者は「騙された。何とか返してもらってくれ」と悲痛な訴えで相談にきた。このような事案で騙されたといっても,詐欺事件としての刑事事件で処理することは難しい。初めから騙す目的で,嘘のことを言って金銭を出させたということを立証する必要があるが,初めからの意思であったかどうかは多くの場合,その人の内心のことであり,それを客観的に証明することが困難であるからだ。しかし,依頼者は「騙された。嘘を言ったのだから詐欺だ。警察に捕まえてもらう」などと言い続けるのである。
回収は困難かもしれないが,法的支払い義務を確定させる意味では民事訴訟を提起することも意味がないことはない。今日の相談者の場合も,回収には結び着かないこともあることをあらかじめずいぶんと説明して訴訟を提起した。訴訟で判決をとったが支払いがなく,やむをえず給与の差し押さえをした。差し押さえをするやいなや,その勤務先を退職した。給与の差し押さえも効を奏さなかった。依頼者はいったい裁判所は何をしているのかと苦情を言おうとしたので,もう一度裁判の仕組みを説明した。詐欺に遭って騙されたのに,裁判までして勝ったのに,勝って強制執行までしたのにどうして大切な老後の資金を手元に取り戻せないのかと納得がいかない。そんな説明に今朝ほどは時間を費やされた。私はこのような人の場合,ホームレスに1000万円の債権を持っているよりも,公務員に10万円貸している方がその債権の価値はあるでしょうという話をするなどして説明している。しかし,まずは,感情が先走りなかなかこのことが理解されないのである。