裁判官は判決でのみ回答

2007年12月15日

薬害訴訟をめぐって大阪高裁で和解協議がなされている。しかし,このような場合にも既にこの段階では結論がでていると思われる判決内容を当事者にあかすことはない。和解協議の場では,当事者は示される和解案をみて,判決に対する裁判所の考えを推測して和解に対する態度を検討することになる。裁判所も,微妙に「心証」を示しながら当事者双方に和解を促すなどする。通常は,当事者のこのあたりの見極めが大切な和解の時の交渉となる。

今日は,午前中,広島地裁で商品先物取引に関する損害賠償請求事件に関して,午後は岡山地裁での自動車の修理代金をめぐる不当利得返還請求事件に関してそれぞれ和解手続きがあった。広島の事件は,既に証拠調べを終了し,双方が最終準備書面をだした後の和解手続きであった。いきなり裁判官から1300万円の一括支払いでどうですかとの和解案が示された。かつその理由として当方に5割以上の過失相殺は存しない場合であると和解案の理由を述べられた。かなり明確にその心証を明らかにされた。当方は2100万円ほどの損害に対して1650万円を切っては和解しないと和解の最低限の条件を述べた。それに対して裁判官はその金額はただちに不当であるともいえない金額だと思えるとの見解も示された。ここまで,明確に言われるとなまじっかのところで和解する気にはなれない。相手方が1650万円で和解できるか否か検討することになった。これで飲まなければ判決だ。微妙なやりとりのなかで,かなり結論の見えてきた事件である。

午後の岡山地裁の事件も既に証拠調べを終えた事件である。この事案は,証拠調べの始まる前から裁判官が和解したどうかとの打診を当方にしてきていた。当方は本件については支払い義務がないと主張している事案であり,その場合に和解で支払えとの和解勧告であるから,裁判官は判決になれば当方が敗訴となることを明らかにしているようなものである。このような場合,いかにして当方の主張にもみるべきところがあること,控訴までしても争う結果となることなどを印象づけしながら訴訟進行をはかることになる。本件では最終段階では6割の額でほぼ合意が得られることになった。敗訴を前提での和解協議であり,代理人としては,これで判決よりも有利な条件で解決できることになると考えるのであるが,依頼者にとってはなかなか納得できないところがある。このような場合は,和解解決が紛争解決の方法としては極めて有利な条件であると依頼者を説得することが代理人としては重要な役割となる。

しかし,いずれの場合にも裁判官は判決に至る途中で,明確に結論を述べることはない。和解においては当事者はその「心証」を推測しながら,依頼者にとって最善の道を選択することを助言するのが代理人の役割である。簡単なようで,判決に至らない段階で自分の依頼者に納得してもらって和解を成立させるというのは結構難しいことである。

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