「マチベンのリーガルアイ」にこんな書評をいただいた。書いたのは,同期の福岡の弁護士。一日に1冊以上の割合で書評を書いて発表している。相当ボリュウームのある本から楽しく軽く読める本まで,ジャンルを問わない。いつ,どのようにして読めるのだろうか,その能力がうらやましい。彼は,自分でもまた多くの本を出版している。出版が趣味だとも言っていた。私の本は,ブログの中から編集者が適宜抜き出して掲載したので,実はどの原稿が掲載されたか本人の記憶があいまいになっている。細かいところまで読んでの今回の書評をいただいて,私自身が思い起こされたこともあった。この書評のなかで「セルフのうどん」とはなんだという指摘があったが,これは岡山限定の文化なのだろうか。岡山ではよく見かける方式のうどん店である。
「著者:河田英正、出版社:文藝春秋
私と同じ団塊世代の弁護士です。岡山で弁護士会長をつとめ、法科大学(ロースクール)で教え、消費者問題に取り組み、オウム真理教と果敢にたたかいました。還暦を機に、そのブログを本にしたものです。毎日のエネルギッシュで地道な活動に触れ、頭の下がる思いです。
刑事事件で、裁判官に対して「寛大な処分をお願いする」と言ってしまったことを後悔します。いつもは言わない言葉だというのです。ええーっ、私は、よく使いますが・・・。
判決は裁判官にお願いして出してもらうものではない。法の見地から適正妥当な判決がなされるべきものであり、弁護人はその判決はどうあるべきか、被告人側からみた意見を主張すべきなのである。「裁判長さま」とか「判決をたまわりたい」など、卑屈な言い方はやめよう。これには私もまったく同感です。
「上申書」という書面もおかしいですよね。「お上」に恐る恐るモノ申すということでしょう。冗談に「お上(かみ)」と言うのは許せますが、本気で言ってはいけません。国民が主権者であり、主人公なのです。裁判官も公務員の一人として、公僕にすぎません。
天衣無縫とは天女の羽衣のように純粋に自然な流れのこと。私は知りませんでした。
あちこちの裁判所を駆けめぐるため、昼食はコンビニでおむすびを買って運転しながらほおばることもある。もう少し時間があるときは、回転寿司やセルフのうどん店に立ち寄る。えっ、セルフのうどん店って、何のことですか?いずれも待ち時間ゼロで、すぐ食べられるからです。私は、最近ダイエットにはげんでいますので、昼食を抜いたこともあります。お茶で我慢しました。昼はおかずだけにしています。パンもパスタもやめています。
クレサラ事件、つまり、たくさんの借金をかかえた人の相談に乗るのは疲れる。このように書かれています。実際そのとおりです。この本を読むと、弁護士の仕事って気苦労が多く、疲れてしまうものだということがよく分かります。著者は夜7時から示談交渉したり、土曜も日曜も相談に乗ったりして、気の休まる暇がないようです。私は夜に人と会うのはしていませんし、土・日は完全に事務所を閉めて休み、示談交渉もお断りしています。
2歳ほどの子どもを連れてやって来た借金の相談。終わったとき、その子どもは「どうもすみません」とはっきり言って頭を下げた。親のいつもの仕草をまねたのだ。このくだりを読んで、悲しい思いをしました。子どもが、いつのまにかサラ金の取り立てに対して親の言う言葉と態度を覚えてしまったのです。
坂本弁護士一家がオウム真理教(現アーレフ)に殺される3日前、著者の前に上祐史浩と青山弁護士がやって来た。著者が「オウムはカルトである」とコメントしたことの撤回を求めてのこと。1989年11月1日、上祐は著者に対して「おれは優秀だ。優秀なおれが洗脳なんかされるはずがない」と言い切ったとのこと。なんと傲慢なモノ言いでしょう。オウム真理教は坂本弁護士一家を殺害しておいて、ずっと否認していたのですから、許せません。
いかにも誠実な著者の人柄がにじみ出ている本でした。読み終わって爽やかな気分に浸ることができました。ただ、表紙の絵がちょっと厳しすぎる表情なのには違和感があります。私の知る著者はもっと柔和な印象なのですが・・・。
(2007年12月刊。1429円+税)」