訴訟費用

2008年7月3日

依頼者から,「裁判に負ければ相手方の弁護士さんの費用を支払わなければならないのですよね」とか「裁判に勝ったのだから私のかかった弁護士費用は相手方に請求できますか」などという質問をよく受ける。これは,判決書には「訴訟費用は,○○の負担とする」という記載が必ずあるからである。

ここでいう,訴訟費用は,弁護士の費用のことを指しているのではなく、訴訟を通じて当事者が負担した訴状に貼付した印紙代とか,出頭した証人らの日当,交通費とか,裁判所に提出した書類の提出費用とかが法律が定める一定の基準に従って算出される費用のことである。通常は,紛争になった価格に比べれば,これを計算してもあまりたいした費用にはならない。そんなことから,裁判に勝っても負けてもほとんどの場合,訴訟費用については請求しないまま終わっている。これには,訴訟費用の確定を求める別途の手続きをしなければ,強制執行の対象とすることができないなど手続き的にも面倒であるということが背景にある。

弁護士費用を敗訴者に負担させるべきか否かについては,先の司法改革論議のなかで論議され,経済界の強い意向のなかで弁護士費用を敗訴者が負担することを内容とする法案が国会に上程されるところまでに至ったが,敗訴者負担制度は,結局は敗訴の危険を常に負担できる人しか裁判をすることができなくなり、弱者に厳しい制度であるという世論のなか,廃案となった。新しい判例を勝ち取っていくことは常に挑戦的であり,敗訴する危険がある。経済的弱者は,敗訴の危険がある場合は,相手方の弁護士費用まで負担しなければならないことも考えておかなければならず,訴訟を萎縮してしまう結果になる。国会にこの法案が上程されたとき,この法案の廃案を目指して,日弁連内に敗訴者負担問題対策本部ができ,私はこの事務局次長としてこの問題に関わった。反論の実証的な論拠を構成するために、オランダ、ドイツの実情についてなど海外調査にもでかけた。政府提案で国会に上程されながら,廃案となったのは極めて珍しいケースである。この運動の中心に関われたことは,私にとって思い出だけでなく,民主主義の力を信じさせてくれるものであった。

きょう,このことを話題にしたのは,当事務所の事件で,勝訴判決を得て,その訴訟費用が数百万円になる事件があり,それをきちんと回収すべく,ほとんど手続きがなされることのない,訴訟費用確定の手続きをしたからであった。弁護士になってまだそんなにたっていないころ,一度だけ訴訟費用を計算して請求の手続きをしたことがあったことを思い出すが,おそらく一度も請求したことがないという弁護士が多いのではないかと思う。

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