弁護人の役割

2008年8月14日

今日,国選の刑事事件を担当した。控訴事件であり,一度も被告人と打ち合わせをすることができず,しかも被告人欠席のままの判決であった。控訴事件では,被告人が出頭していなくても,弁護人がいれば公判は開くことができる。結果的には,単に判決言い渡しが有効になされるために,そこにいたと言うだけのことであった。

1審では,私選弁護人がついていた。詐欺事件で一部の被害弁償をしていた。執行猶予中の事件であり,規範意識の乏しさを指摘されて実刑判決となっていた。当然,このまま判決が確定すれば執行猶予は取り消され,前刑と今回の刑とをあわせて務めなければならなくなる。執行猶予期間もあと6ヶ月ほどできれる状況にあった。私選弁護人によって控訴手続きはしたが,控訴審では直ちには私選弁護人はつかなかった。しばらくして国選弁護人が選任された。国選弁護人による控訴審がはじまろうとして期日指定があると私選弁護人がついて,期日変更がなされた。新たな期日の直前になって,その私選弁護人は突然辞任してしまい,弁護人不在となって予定されていた判決期日は延期となった。そんなとき,私が国選弁護人に選任されたのである。その国選弁護人の打診を多くの弁護士が拒否した後のことである。

私は,まずはそれまでの事件記録を裁判所に閲覧に行って事件の概要を調査し,どのような弁護活動か可能か検討した。何を勘違いしたか,被告人は保釈中であるにも関わらず,拘留中であると思いこんでしまっていて,拘置所まで面会に行ってしまった。普通は国選に選任されると被告人からすぐに連絡があるはずであるが,連絡がこない。そこで,打ち合わせの必要があることを当方から手紙で連絡をいれた。それでも連絡がないので,再度の連絡をいれた。このままでいけば,次回期日には実刑の判決が言い渡されるのは間違いないことも知らせた。

被告人から連絡があったのは,今週の月曜日である。私選弁護人を依頼したので,打ち合わせにはいかないとの電話での連絡であった。その電話がなされた直後,裁判所から連絡があり,新たに私選の弁護人選任届けが出ているが期日変更は却下しているので,国選弁護人は解任しませんと言う内容であった。つまり,被告人,私選弁護人が出頭しなくても私が出頭して,判決をだすと言うことであった。

そして,きょうは私選弁護人も,被告人も出頭していない。私だけが出頭して,被告人欠席のまま判決の言い渡しであった。私は,被告人が私選弁護人を選任した経緯も,ここに出頭していない理由も全く知らされていないので,今日の判決期日は延期し,何らかの手続きが可能か否かが明確になった後に,公判を開いて欲しい旨の申し立てをしたが,検察官の反対意見を確認したうえで,判決となった。通常は,私選弁護人が選任されれば国選弁護人は解任される。そうされないで,有効に判決の言い渡しをするためにだけ,法廷にでたことになり,何となく釈然としない気持ちである。弁護人の刑事手続きによる公的職務とでも位置づけられるのであろうか。そして,私選弁護人の期日を先延ばしにしようとするばかりの訴訟活動の適否が問われる場合ではないだろうか。

判決が言い渡されて,すぐに検察庁が被告人の勾留のための連絡をとり,被告人も判決委至った事態を認識した。そして,被告人から,「お世話になりありがとうございました。法廷でも私の立場で意見を言ってもらったようで感謝します」との電話をいただいたことには,救われる思いがした。但し,私選弁護人は既に休暇にはいっていて連絡がとれないとのことであった。こうして,「法テラス」から私に支払われる今回の弁護料は,今日の判決期日の出頭の日当3000円あまりだけである。

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