速記官

2009年3月13日

裁判員制度に合わせて,最高裁は膨大な経費をかけて音声認識システムをつくりあげ,デジタルデーターとして裁判員の評議に利用する計画を進めている。先ほど東京地裁でその利用のお披露目があったようであり,それをみてきた弁護士のレポートがあった。方言にも対応することができるとのことであるが,機械による翻訳なのでやはり間違いはある。この利用は調書としてではなく,評議を行うときに,記憶喚起のために法廷でのやりとりを録画したDVDのインデックスとしての使用だけのようである。そうすると,聴覚障害者の人が傍聴人にいたり,裁判員になった場合には,法廷での音声言語によるやりとりを認識することができない。しかし,法廷でのやりとりがそのまま文字でスクリーンでうちだせるようなシステムになれば,問題は解決するはずである。

最高裁は現在速記官を養成することをやめている。裁判所の速記官は,絶滅危惧種となってしまっていて,その復活の可能性がほとんどない状況になっている。現在は,法廷での証言の速記録は録音テープを外部業者に翻訳させて作成されている。岡山でも速記官の配置された法廷をほとんどみかけたことはない。法的専門知識をもって,その場にいて速記するのと,外部業者委託による翻訳とではその速記の内容の正確性には微妙な違いがある。法廷のやりとりを簡易に外部委託することの問題点は見過ごせないものがある。その絶滅危惧種の人たちは,私費を投じて,速記タイプの内容を即時にスクリーンに映し出す機械システム「速人くん」を開発し,これを仕事の上でも使用している。速記録調書も目の前で作成することも可能としている。これこそ,裁判員制度に生かせる素晴らしいシステムではないかと思う。例え聴覚障害者であっても,文字情報でそのやりとりを理解することができる。評議の時に直ちに文字情報になった調書をみて,証言を確認することもできる。

しかし,最高裁は,こうしたことのできる技術者である速記官の養成をしないと言い続けている。「司法の合理化」は人権侵害の大きな危険をはらんでいると言える。私の事務所には長年裁判所の速記官を務められた方がスタッフにいる。私が弁護士になったときは,既に速記官であった。担当する事件の弁護士のところに事前に記録をチェックして速記をするうえで問題となりそうな情報について尋ねられることもあった。事件の概要を理解した上で,速記にのぞみ,法廷で証人がうなずいただけであっても「うなずく」とコメントはいっている。音声認識システムではとうていなしえないことである。

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