GM破綻

2009年6月2日

1世紀の歴史を持つ自動車メーカーGMが破綻した。破産法の適用ということであるが,日本でいう民事再生法のような手続きである。まさに20世紀の世界の工業のトップ企業としてアメリカの繁栄を象徴するものであった。自動車ほど人になじみ,成熟した「物」はないのではないか。始まりは馬車からであった。4輪で丸いハンドルがつき,エンジン,動力を伝えるシャフトなど基本的な構造は今も変わらない。今では単なる移動手段だけではなく,快適に温度調節された空間ですてきな音楽を聴き,行き先はきちんとナビをしてくれる。ついでに行く先々の様々な情報も収集できる。完全なプライベートルームである。運転する緊張感だけはどうしようもない。あとはこの緊張感を和らげてくれる自動運転装置でも発明されれば,「完成」である。これもそう遠くない日に実現するのではないか。こんなにすてきなものを世紀を代表する産業として作り続けてきていたのである。

しかし,いままでも何度かこの危機はあった。かつて,米国の消費者教育事情を調査するために東ミシガン大学を訪問したときに,デトロイトに滞在した。その時はホンダの車のうえで,ダイナブックがハンマーでたたき壊されている写真が新聞に掲載され,ジャパンバッシングが激しかったときである。デトロイトの住宅街では家の前に「For Sale」の看板があちこちに立てられていた。デトロイトの街を象徴するあの高層ビルも人は閑散としていた。街には昼間から飲んだくれている人が路上にたむろしている姿もみえた。すさんだ空気が流れていた。デトロイト川を隔てた対岸は,カナダのウインザー市であった。そちらに渡ってみると,太陽の光が急に穏やかで暖かく感じられた。車椅子の人を介護しながらのんびり買い物を楽しんでいる人など,デトロイトと全く異なる空気を感じたのである。

なにかが,人の心までもむしばんでいたと考えるしかない。景気の悪化が人の心をすさませていたのだろうか。対岸のウインザー市の空気とのあまりの違いにそれだけではない何かが人の心をむしばんでいたのでないか思った。今のこの経済危機を迎えてデトロイトの人々の心はどのような状況になっているのだろうか。再建への希望とそのことが人類に役立つことであるという誇りをもって,人々がこの苦しい時を乗り越えて欲しいと思う。

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