隕石からとりだされた糖分でしのいでいる

 庭の水道工事をDIYする。地面にははがきほどの大きさの四角い穴が二つあり、それぞれに蛇口を取り付けるのだ。穴には鉄製の蓋があり、それを開けると風船のように大きくふくらんだクリーム色のゴムパッキンが水の気配をさせてふるえている。そのクリーム色のふるふるをホームセンターで買ってきた蛇口でおさえこみ、固定する。作業中にゴムパッキンを傷つけてしまったのか、たしかに少し雑に扱ったのでいやな予感はしたのだが、小さな噴水のように間歇的に水が吹き上げている。大きくふくらんだクリーム色の風船状のゴムパッキンを取り付けたのは母で、それ自体が間違っていた可能性がある。

 
虹 – 橋 – 川 – 彼岸 – お供え – 菓子 – 蟻 – 行列 – ラーメン – 暖簾 – 縄 – 自縄自縛 – ドグマ – アラン・リックマンのおしり
 
 恋人の家は川の近くで、堤防があり、土手の草が枯れているからまだそんなに春ではない。
 
 そんなにたいせつな恋人でもない。

DOTS

[1]
 
赤い水玉の、草間彌生から借りてきたような赤い水玉のショッピングモールの、赤い水玉のトレンチコートを横目に、駐車場の手前、エントランスの赤い水玉のタイルの上で柔軟体操をしていると、赤い水玉のM子さんが赤い水玉の枝毛を気にしながら赤い水玉のピンヒールで歩いてくる足音が赤い水玉。赤い水玉のわたしの日傘をひろげて干していたら、赤い水玉の風が吹いて、青い車のたくさん走る道まで飛ばしてしまう、赤い水玉の車が停まっている上を。道へ出て車にひかれたら赤い水玉でなくなってしまうので、わたしのだいじな日傘をわたしは追いかける、赤い水玉のM子さんに笑われながら。M子さんは水玉赤子さんの頭文字なんでしょう、そうでしょう。

[1] http://www.d-mc.ne.jp/blog/575/?attachment_id=908

予期しない理由で終了しました

 
幅の広いリボンで縛られていた手首は球体関節人形のそれと似ている。
中は空洞ではない、やわらかい、冷たくない、ざんねんなことに、回復してしまう、にんげんふうのものに戻ってしまう。
道具は重要ではない。
前の痛みが消えるより早くつぎの痛みがくること。
それを続けることで、ある瞬間から、痛覚の外側に存在し、床で呻く物体を冷静に観察することができる。
首を絞められて咳き込む。
粘膜にベルトが当たって叫ぶ。
のどの奥に肉を詰められて涙ぐむ。
与えられた刺激に一定の反応を返す、
「インタラクティブなガジェットなんです」
意識の上ではにっこりと微笑んでわたしの管理下に置かれていないオブジェを紹介することができる。
声帯は犬のようにクゥという音を出しているので、発話することはできないけれど。

3月5日

 
シュガーハイという状態のような気がして、ウイスキーを薄くして飲んだ。
 
夢のなかで、珍しくちゃんと買い物ができた。
 
(いつもはたいていお金が足りなかったり、品物が消えたりするのだ)
 
わたしの夢の土地にはラブホテルとショッピングモールと古着屋が多くて、交通手段は電車と船。
 
自動車はほとんど走っていない。自転車は一台も見たことがない。
 
怖い夢を性的な夢に変えるわざを覚えたので、覚醒するのがまたすこし苦手になった。

伊予柑を湯船で剥いて、凹型の真っ赤な椅子に種を並べる。

 入浴剤のファンタっぽいにおいと柑橘類の酸っぱいにおいが混ざってもミックスジュースのにおいにはならない。という発見を伝えたいが、風呂場から脱衣所を通ってベッドまではわりと遠い。
 浴室の壁面のテレビをつけるといきなりアダルトチャンネルでハーフかクオーターの女優が似合わないセーラー服で股間をいじられていて、しばらく見て、乳首があらわになったところで切った。
 かたいバスタオルでいい加減に身体を拭いてベッドへ戻ると、デート相手は女子高生のようなスピードで携帯電話に何かを打っている。何気なく覗いてしまってそれが別の女に宛てているものだと気づく。語尾が、「ですにゃ(・ω・)」だったから。
 料理を食べ終わった後にカロリーの高さと添加物についての説明を受けてしまったような気分、いや、それに加えて厨房をゴキブリが這い回っていたことと調理人の頭から金田一耕助並みのフケが飛散していることと彼がトイレに行っても手を洗わなかったということを知らされた感じ。予想の範囲ではあるが、敢えて知らされたくはないことだ。
 デート相手は悪びれもせず、王様のように笑って腕を差し出した。
 手枕にはやわらかすぎる腕だ。

guca3完成間近。

電子書籍guca3が、もうすぐ完成します。

内容はこんな感じ。→gucaブログ

おさらいしておくと、電子書籍というのは、パソコン、iPhoneやAndroidなどのスマートフォン、もしくは電子ブックリーダーなどで読める本のことです。会社なんかで、会議資料としてPDF形式のものが社内メールに添付されてくることがありますが、要するにそれとほぼ同じものです。

つまり、パソコンやスマートフォンからこれを読んでいるひとなら、基本的にgucaの作る電子書籍は読めます。

問題は、どこで買うかです。

guca1・guca2はPubooというサイトを通して販売していますが、 買い方がわからないとよく言われます。
わたし自身、Pubooで電子書籍を買うことがあるので、ちょっとややこしいのは、わかります。
ごもっとも。

いちばん簡単なのは、gucaメンバーに直接会って、300円お支払いいただいて、後からメールで受け取る方法。

対面販売です。

今回は、3月10日のハイクラブ@空き地で、対面販売を予定しております。

そこで、なんですけど。

これ、需要があるのかどうかちょっと聞いてみたい。

たとえば、ですよ。
携帯電話(スマートフォンでない携帯電話)でtwitterやこのブログをチェックしてくださっている方で、パソコンは持っているけどインターネット環境にないという方。
インターネットからダウンロードできないけど、CD-Rを郵送してくれるんだったら欲しいな……♪
というような方は、いらっしゃいますでしょうか。
この場合、お支払いについては、郵便局の振込用紙を同封して、料金後払いという形になると思います。
面倒くさいインターネット上のお手続きなし。

「ほしい、ような気がするなー……」の声が即お買い上げ決定というようなことは全然ありませんので、
お気軽に、コメントなり、メール ishiharayukioあっとgmail.com なり、twitterのメンションなりしていただけたら、幸いです☆

ラベンハムの子

さいきん、わたしにはこどもがいて、四つか五つぐらいの男の子なんだけど、名前がまだないので考えている。
そんな高価なもの誰が買い与えたんだろう――ラベンハムらしき緑色のキルティングジャケットを着ている。
彼の悩みは、わたしがときどき焼く「スコーン」と、「スコーン食べたい」と言った彼にわたしの母(つまり彼にとっての祖母)が与えた「すこーんぶ!」(都こんぶ)との関連がよくわからないことである。
よくわからないことはおとうさんに聞いたら解決してもらえると信じているが、おとうさんには滅多に会えない。
おとうさんには帰るべきおうちがあるので。
今度はおうちのないおとうさんを探すね、と言うのだが、彼はそのおとうさんがいいらしい。
わたしの知る限りでは、おうちのあるひとと彼は血がつながっている。
彼にとって重要なのは、おとうさんはウルトラマンと仮面ライダーのすべての歴史を知り尽くしているということである。
おとうさんの高い高いは滞空時間は短いかわりに、わたしよりかなり高いということである。
おとうさんはほかのおとなと会話するときと同じ口調で彼に話しかけるということである。
おうちのあるひとと彼がふたりでいるときに「お孫さんですか」と聞いてきたよそのおばさんに彼は「長男です」とこたえたが「ちょうなのー。おまごちゃんなのねー」と誤解される、そして憤慨する、泣く。
ラベンハムの袖口は涙と鼻水でずるっずるのちかぴっかぴだが、わたしはそれをクリーニングに出してやることはできない。

脳内髭神父

こころを穏やかにしようと脳内の聖堂に小さな告解室を設けて髭の神父様を置いてみたところ、その男がオネエ言葉でまくしたてるのである。
 
「あんたね、『やさしいのね』ってのやめなさいよ。
 なによ『やさしいのね』って。
 あれでしょ、トイレに書いてある『いつもきれいにご利用いただきありがとうございます』
 あれとおんなじようなもんでしょ。
 通じないわよ。絶対通じないわよ男には。
『やさしいのね』って言い続けたらやさしくなるなんてドリィィィミィなのよ。
 あんたみたいなバカは水に『ありがとう』って言い続けて
 いっぺん水あたりで腹下してみたらいいんだわ。
『ふざけんじゃないわよバカヤロウ!死んじまえ〜!!』
 ってね。こっちが正しいわよ。
 またぐら蹴っ飛ばして言ってやんなさいよ。
 聖書? 旧約の雅歌のとこでも読んでなさい!
 あーやだやだ! しめっぽい女って嫌!
 女が女の腐ったようになっちゃったらおしまいよ!」

セコムのひと

春の水なりまんまるく飲み下す
人形の靴はぺたんこ春一番
順番に化粧を落とし鳥雲に
施錠するセコムのひとや春時雨
くちづけて銅像の頬あたたかし
北窓開くおしゃれに禿げる
春眠し指をいっぽんずつかじる
肉球を押したら山が笑います
いそぎんちゃくちいさくひらくアプリかな
模範囚のごとく歩みて卒業す

(平成23年7月31日発行『逸』第29号掲載)