憑依俳句」カテゴリーアーカイブ

虹と指サック

虹と指サック

虹と指サック

例外のほうが多いわ枯木に紐
とことわに春待つ顔の社員証
平凡な鱶であったよ桃色の
年度末進行ゆるく指サック
腕章のうれしくおそろしく四月
梅雨茸や患者らしさを保てない
漢数字としての京よ苔に花
睾丸のしんなりうごく油団かな
白南風や敵地に髪をふくらます
天井があなたには床アイスティー
極暑にて怨霊色の口紅を
昼寝しているのは正社員のひと
颱風のなみだぶくろにさしかかる
箱庭に空ひろすぎる彩虹旗

風味Z佳

風味Z佳

ウイルス性感染症が原因と見られる特殊神経疾患は都市部を中心に規模を拡大しており政府は各自治体に臨時診・所を・・感染・の隔離と治・・・・る・・を・・・・し・

鰻寄せられゼリーのなかをややうごく
フェンスごと屍を焼いている遅日
産声即断末魔となりぬ桜蕊
はらわたを指に巻き首に巻き風薫る
吐瀉物のやさしき色や土砂降りに
噴水の水に歩みて飽きぬなり
苔に花そとにとまどうアニサキス
墨色に蓮はつぼみのまま朽ちぬ
日盛の骨を咬まるる重さかな
舐めても吸っても歯茎しかないですよ

四代目中村地球三郎第一句集『宙乗』より

四代目中村地球三郎第一句集『宙乗(スペースフライト)』より
静かの海野外劇場公演
六方のいまさらながら着地せり
勘九郎兄さん
通信や紅筆鳥渡(ちよつと)宙に置き
言ひ伝へによると十一月三日
このそらに星またゝかぬライカの忌
ほろぐらむ夢のあなたを手にかけてしんと明るむ愛といふもの 穂崎円・訳
しらじらとほろぐらみたる褌かな
第十三アルカトラズ刑務所慰問
地表灼けて客席に千人の俊寛
勘太郎くん
父さんにパパにダディに紙の薔薇
定期健診
春日傘ゆつくりもどす骨密度
ネオ・コトヒラ名物ジンリキシャ
車夫(ドロイド)ピッと応ふる春の商店街
半減期の先にも歌舞伎はあるだらうか
初雪の予報うれしき防護服
名跡を継ぐといふこと
二十光年てふ大向ふより “Накамурая”

この作品は「現代詩手帖」(思潮社)2017年8~10月号連載の誌上アンソロジー企画〈川口晴美と、詩と遊ぶ〉の最終回「男だけの世界」のために、中村地球三郎丈憑依状態により制作されました。稀人舎『Solid Situation Poems』でアンソロジー全作をお楽しみいただけます。

穂崎円氏の作品は共有結晶文庫からどうぞ。

「はつかねずみと人間」はイケメン訳の高村版を読むべし!

家畜を見るためにヤギ牧場に吟行しました

『庫内灯3』の「海外文学海外文学感想文BL俳句」に参加しています。

今回わたしが取り上げたのはジョン・スタインベックの「はつかねずみと人間(Of Mice and Men)」。

小柄で頭の切れるジョージと知的障害を持つ怪力の大男レニーは二人で農場を渡り歩く労働者。彼らは自分たちの土地と家を持つことを夢見ていましたが、それがあと少しで叶いそうになったとき、突然悲劇が訪れ夢は潰えてしまいます。

そもそも海外文学でBL……というお話をいただいたときに真っ先に思い出したのがこの作品なのですが、最初に読んだのはおそらく小学校高学年か中学生の頃です。読み直してみようと新潮文庫の『ハツカネズミと人間』(大浦暁生訳)を取り寄せてみたところ……

レニーの一人称が「おら」!
ドラゴンボールかよ!!

謎方言が気になってストーリーに集中できないので図書館で『スタインベック全集4 はつかねずみと人間<小説・戯曲>』(高村博正訳)を借りてきました。

よかった。高村版では二人とも「おれ」だし話し言葉が自然だ!

(大浦訳)
「ジョージ……おらのがねえよ。なくしたにちげえねえ」
そっとつぶやくと、がっかりして地面に目を落とした。
「おめえ、初めから持ってねえんだよ、バカだな。おれが二枚ともここに持ってる。おめえになんか労働カードを持たせておけるもんか」

(高村訳)
「ジョージ––おれのがない。きっと落としたんだ」とそっとつぶやき、がっくりして地面に目を落とした。
「おまえは、はじめから持っちゃいないんだよ、ばかだな。おれが両方ともここに持ってるんだ。おまえに労働カードを持たせておくはずがないだろが?」

おわかりいただけたでしょうか。
高村版レニーは少年のようでかわいらしく、高村版ジョージはそこはかとなくイケメンなのです。レニーへの「もうしょうがないなあ(おれが守ってやるぜ!)という雰囲気が滲んでいはしまいか。「ないだろが?」のあたりとか。

スタインベックはこの小説で “give me” → “gime” など、農夫たちの話し言葉を音のまま記述することを試みたそうで、大浦版はその日本語での再現を目指したものだとは思いますが、ジョージが「おれ」なのにレニーが「おら」なんて、レニーにだけ特別なキャラ付け(漫画などによくある、特定のキャラだけが特徴的な話し方をするやつ。ラムちゃんのだっちゃ口調、孫悟空のオッス、オラ悟空口調など)を与えているようで嫌です。ラフな話し言葉にとどめている高村版のほうが好感が持てます。

また、あとがき・解説では翻訳者それぞれのスタンスの違いが明確に分かれています。

ジョージがレニーをリンチから救うために射殺する結末の場面は、何気ない動作や言葉をとおして、ジョージのやるせない気持ちが切実に伝わってくる。(訳者あとがき/大浦暁生)

残酷な私刑(リンチ)から親友を救うために、ジョージはレニーを「安楽死」させます。いちばんしたくないことをせざるをえないジョージのいたたまれない気持ちに同情する読者もいるでしょう。しかし逆に、生きる権利を奪われたレニーに対してはどうでしょうか。最愛の、もっとも信頼していた親友に突然うしろから殺されるレニーの運命とその扱いに疑問を感じる人も多いはずです。(訳者解説/高村博正)

(ごめん、いま引用でサラッとネタバレしたけど、どうしようもなく追い詰められた状況でジョージが相棒のレニーを殺してしまうのです。)

一方的にジョージの側に感情移入して鑑賞する大浦氏に対し、殺される側のレニーに目を向ける高村氏。高村氏はスタインベックの作品を原作とした映画や舞台公演を可能な限り観ているスタインベックオタク(推定)ですが、強者の立場に立ちがちなスタインベックの姿勢に対して非常に批判的です。愛ゆえの批判を感じます。『はつかねずみと人間』を読むなら、もうぜったい、高村博正訳の全集をおすすめします。あたくし思いますに、イケメンとはヒューマニストのことなのよ!

ただし流通してません。ぜひ図書館で読んでください。

手紙魔まみ、ゆゆのおるすばん

手紙魔まみ、ゆゆのおるすばん

皆既日蝕。兎の尻を抱きしめる
はるいちばん薬袋に貼る切手
ゆゆです。姉は出掛けています。春の星
あたたかし盗聴器のようなタンポン
銀河系共通言語シャ・ボンダ・マ
ゆゆの苺、つぶさないでって云ったはず
ゆゆの髪、洗わないでって云ったはず
宇宙船。ほら。虹色が非常口。
重力の弱い地球へ桜しべ
黴び方がとても上手ね、まみの爪
風は死んだの。虫歯、こじらせて
水中花とミジンコたちの愛でした
油蝉があれば海まで行けたのに
妹型昼寝装置としてゆゆは
マリリンのM まみのM MM忌
つけまつげにささる来世の流れ星
甘噛みの、まみの歯形の、腐る桃
糸電話料金未納通知かな
マンホールの蓋がつめたい朝ですね
ばつ、くちづけ、ウサギのくち ×××

小料理いしはら

小料理いしはら

取り皿のいちばんうへに豆の花
月朧ジップロックを揉みに揉む
すりこぎのひこばゆるまでひとを恋ふ
前掛けがハンカチがはりなのは内緒
春の果て白身魚を白くせり
きもぐれんすつらぐれんすと泣きにけり
巻き簾干しませ虹のあるうちに
舌を透くべつかふ飴や桜桃忌
「別れたら蠅取リボン換へにきて」
だし巻きに巻かれる前や大夕立
歌ふのは嫌ひおくらの揚げ浸し
刃を入れてくらげに水とそれ以外
「ささがきにされたいやうな汗疹です」
「後朝の毒消売はゐないのよ」
月涼し菜箸の先ささくれて
仏蘭西へ泳いでゆける割烹着


「フィクションのなかの食」アンケート企画より

みのはちのすせんまいぎあら春愁  榮猿丸『点滅』

ミノ・ハチノス・センマイ・ギアラはホルモンの部位名。牛の第1胃から第4胃までを列挙している。ひらがなの丸い形状は臓物の丸みそのものだ。薄桃色と灰色の生肉に囲まれた憂鬱。「よっしゃ焼肉食うぞ!」という高揚感はすこしも感じられない。

すいくわバー西瓜無果汁種はチョコ
鶏唐揚に敷いてパスタや夏の暮

榮猿丸は、日常生活で見過ごしがちな風景を巧みにすくいあげる。彼の食の句はなぜかいつも美味しくなさそうな気配を漂わせていて、面白い。


初出『別腹』第七号(平成二十六年五月五日発行)

卒業論文

卒業論文

卒業論文

小夜時雨司祭の混ぜるヨーグルト
体温計くわえれば来る大天使
冬晴や尼僧両手でマイク持つ
伏線を回収できぬ狸の死
女子寮や蛇口の下に柚子まわる
寝酒酌みかわす東方三博士
しあわせに電気をつかうクリスマス
明け方のユダは湯婆抱きしめる
初日さす論文検索データベース
下着ずらして元旦をたしかめる
初鏡風の足りないドライヤー
行間に白い兎を飼っている
葛根湯ぬるし口頭試問怖し
卒業したい卒業したい酢茎噛む
白無垢を着ているような風邪ごこち
友情の果てに豆乳鍋爆発
冬ぬくし端から錆びる缶バッジ
院生のストッキングの迷路かな
なぞなぞを出しては潜るかいつぶり
寮監と神父ぶつかる冬の虹
 

ルッカリー

ルッカリー
 
ルッカリー
 
極東の冬あたたかく休園日
ガラパゴスゾウガメ鳴くや午後は雨
いかなごをひとすじ銜え愛妻家
だれそれのとつぜん不在竹の秋
ぺんぎんに歩く自由や斑雪
春の昼ひよこまみれになりやすい
万愚節擬卵のようにわが子かな
柵を舐め桜吹雪を食み麒麟
鉄柵に園児はさまる日永かな
行く春のゴム長靴をつつこうか
 
 

プロローグ

プロローグ

腐女子の章

ピノキオに精通のある朧かな
柳絮舞ふ昼を低音ボーカロイド
図書室にポーズ集あり百千鳥
雄乳(おつぱい)を塗るにマゼンタ風薫る
柏餅じやうずに剥いたはうが攻め
雲丹の棘つまみ上げたる誘ひ受け
餌奪ひ合ふ琉金の雄と雄

事務員の章

あぃまぃにメエルを返し山笑ぅ(*´ω`*)
わたなべのなべがわからぬめかりどき
メーデーになんの予定もない予定 _(:3 」∠ )_
先々代社長像あり水を打つ!
冷房のよくきいている段ボール
ひさびさの定時退社や白日傘♪
ひややっこ社内恋愛とゎちがう。。。

家庭教師の章

燈下親し文章題が解けるまで
大西日さいころ切れば展開図
蜩(ひぐらし)やけんかの傷を見せてくれる
おとなりの猫にバッタをあげている
ダンゴムシ用筆箱のあるらしき
なまぬるき葡萄いただく時間かな
秋暑し声を合わせてCHA-LA HEAD-CHA-LA

ショップ店員の章

マネキンを回れ右
あらゆるかたちを四角くたたんであげる
顧客名簿の澄子は母
試着室につけまつげが生えてる
ロッカーの傘黴びてペイズリー柄
掃除のおばちゃんがくれた飴にがずっぱい
ノルマ届かずあのへんが天の川

S嬢の章

初夢の龍に首輪を与えたる
熊の子のおなかせなかの縫い目かな
   昭和三十六年一月二十八日、絵師伊藤晴雨没
晴雨忌や宿のかみそり剃りにくく
冬深し蝋の温度をたしかむる
ガーゴイル氷雨を吐きて笑うなり
ひとを吊るほそきちからや星冴ゆる

地廻り

地廻り

地廻り

俎板にある掌の涼しさよ
ネオン街に連れてこられて葛餅は
傘もらうためのパチンコ梅雨長し
桜桃の種のピンクが灰皿に
若楓まぶし胸倉つかまれて
夏山に茶箪笥ほどの穴を掘る
青葉木菟置いた荷物が持ち上がらぬ
すこしずつ逃げるみみずの抱き枕
川床に長く取り出す財布かな
明け易き法治国家に歯を磨く
逃げるように導くように浮いて来い
覇王樹に匕首をさす不眠かな
夕涼みこれは小銭を入れる箱
生命保険証書あたらし糸蜻蛉
秋高し車体にうつる他人の妻
銀漢は眼窩を満たすには足りぬ
泡風呂に乳暈すべる良夜かな
任侠やハンカチーフをよく濡らす
満月が助手席からは見えるのか
吾子の髪みじかき指をもて洗う