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俳句の「意味」を聞かれると困りませんか?

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自作の俳句の「意味」を聞かれると、わたしはとても困る。
最近はそんな機会もめっきり減ったけれど、俳句をやっているひととして俳句を普段読まないひとに接するとき、その初対面の日にうっかり自作の句を見せるはめになった、そんなシチュエーションで相手がこう言うことがあるじゃないですか。

「へええええ、独特の雰囲気がありますねー。で、意味は?

意 味 は ・ ・ ・ ?

意味なんかねえよ!
俳句に意味なんかあってたまるかよ!
そんなに意味がほしけりゃ新明解国語辞典読んでろよあれは読み物としておもしろいんだよわたしの俳句よりよっぽどおすすめだバーカバーカ!

という気持ちは胸にそっとしまって、こういうシチュエーションの対処法についてすこし考えたい。

先日、YouTubeに上げた佐々木紺さんの俳句を鑑賞する動画でも言いましたが、
俳句を読んでわからないって思うときって大雑把に言うなら次の2パターンがあると思うんですよ。

(1)俳句に使われている単語の意味がわからない場合
(2)単語の意味はわかるのに、俳句全体読むと意味がわからない場合

(1)は、
穀象の群を天より見るごとく 西東三鬼
を例にとれば、「穀象」はパッと見て意味がわからないひとも多いだろう。わたしも俳句以外で出てきたら一瞬なんのことかわからないと思う。
穀象(こくぞう)は米びつの中に育つ小さな虫(コクゾウムシ)。一人暮らしのひとが久しぶりに炊事をしようと米びつを開けたら中で小さな命が育まれていて「ウヤァァァッ!!!」となるやつだ。夏の季語。
国語の授業なら「ごとく」も説明してもらえるだろう。比況の助動詞「ごとし」の連用形で口語訳するなら「ように」ですよ、って感じで。
つまりこの句は「(私は)コクゾウムシの群を天の上から見下ろすように(見る)」というような「意味」で、更にそこから膨らませて神が天の上から人間を見下ろすイメージを読み取ってもいいと思う。ムスカ大佐の台詞を思い出すのもいい。
とにかくこの句の意味を聞かれた場合は「穀象」だけ説明すれば「ウヤァァァッ!!!」となって伝わるだろう。

(2)は、たとえば
エスカルゴ三匹食べて三匹嘔く 金原まさ子『カルナヴァル』
を「わからない」って言われたようなとき。「嘔く」はたぶん「はく」なんだけど「はく」と読ませるのは一般的な使い方ではない。それでも「嘔吐」の「嘔」なので意味はわかる。だから意味を聞かれると「ええっと、エスカルゴを、みっつ食べて、みっつとも吐いちゃった、ていう意味です……」という同語反復で答えることになってしまう。
こういう難しくない単語で構成された句で「意味」を聞かれた場合は、納得してもらうためには「どう読んだら面白いか」「どう鑑賞するか」を話さなければいけない。

サイゼリア行ったときのこと考えてほしいんですけど、お料理のエスカルゴって数えるときふつうは「一個、二個」って数えますよね? 「三匹」って数えることで動物であるということ、いかにもカタツムリ〜! ってかたちが強調される。そこがまずちょっぴり気持ち悪い。つぎに「三匹嘔く」についてですけど、吐瀉物って形がなくなるから普通は食べたものの個数なんかわからない。それなのに「三匹嘔く」って書いたことで、蛇のように丸呑みしたものがそのままの形で吐き戻されたような異様な雰囲気が醸し出されています。三匹のリフレインと字余りのリズム感が心地よく、詠まれている内容はグロテスクなのに爽快。という感じでわたしは読みました!

と言えばおそらく「へ〜」と一応は納得した顔をしてもらえるはずだ。

俳句の季語はとっくに死語だったりニッチな詩語だったりするので(1)は非常によくあるわからなさ。(2)は、口語的な俳句でよく発生する(坪内稔典とか)。
(1)の場合の説明だけでわかってもらえなかったら第二ラウンド(2)のスタートだ。
誰かに俳句の「意味」を聞かれたとき、難しそうな単語があれば単語の意味の説明から入り、つぎに鑑賞を語るのが自分の中では定石である。

と、これは他人の作った俳句の話。

自作について「わからない」「意味は?」という反応がきた場合には、すごく困る。まず、わたしは難しい言葉をあまり知らないので(1)は季語の説明程度で事足りるとして問題は(2)のように鑑賞を語らなければいけないとき。

「いや、俳句は情景を書くものなので景色に意味がないように俳句にも意味はないんですよ。ちょっとあんたカメラロール見せてごらんなさいよ。このタピオカ持ってる写真、意味はありますか? ないですよね? じゃあこっちのマリトッツォは? 意味なんてないですよね?」

などと詰め寄っても感じが悪いだけである。いい印象を残したい。丁寧ないいひとだと思われたい。あわよくばかしこくてかっこいい俳人のふりがしたい。
しかし、自分の俳句を他人が読むように鑑賞するのは難しい。

軽自動車も猪も無事ですか 石原ユキオ

この句に対して「意味は?」と聞かれたとしよう。意味は「軽自動車も猪も無事ですか?」って意味だ。難しい言葉はない。そのまんまだ。自作についてはつい成立背景を語ってしまいそうになるが「うちの近所は猪がときどき出没するあたりでして、とはいえ幸いなことにわたしはまだ野生の猪と遭遇したことはなく」これは身の上話だ。俳句とあまり関係がない。鑑賞……鑑賞しなきゃ……。しかし自作を「鑑賞」しようと身構えると、

ええっと……軽自動車と猪がぶつかる事故があったらしい……みたいな……//////

などとモジモジしてしまう。なんとなく恥ずかしい。こんなふうに思ってしまうのはわたしを含めて俳句を書くひとの多くが「自句自解はすごく恥ずかしい、鼻毛が出ているよりも、ショートパンツからおいなりさんが見えているよりも恥ずかしい、ぜったいにしてはならない、したり顔で自句自解した者は市中引き回しの上ファラリスの雄牛にぶちこまれ年に一度の短冊供養の火によって炙られるであろう!」とマインドコントロールされているからだ。だから無理に自作を鑑賞しようとするとなんだか変な感じになってしまう……。

でも、わたしは……俳句を普段読まないひとに……疑問を解消してもらいたいし……いい印象を与えたいんです。
なんならいっそ……俳句を好きになってもらって……俳句の世界に引きずり込みたいんです……(アッ! つい本音がッ!)。

そこで、これはわたしなりのTips的な感じなんですが、自作について「わからない」と言われたり「意味」を聞かれたりしたときは「制作意図」を話すと決めました。ここで役立つのは無印良品文体です。

軽自動車と猪の安否を気遣うやさしいことばから双方がぶつかる事故があったことをほんのりと示唆しました。
ほんらい害獣である猪は怪我をしたり死んだりしても構わないにもかかわらずわざわざ心配することにより自然なおかしみを表現しています。

ほら! これならきっと納得してもらえるはず!

ふう……。
で、わたしはなにが言いたいんだっけ。あ、そうだ。

俳句に意味なんかねーよという気持ちは変わりませんが、意味を聞くひとは言葉の上では「意味」を尋ねているようでありながらより正確に言えば「鑑賞法」を尋ねていると思えばいいですよね、というような話でした。だと思います。

※なお、今回の文章に関してはわたしが憑依系俳人であることや憑依俳句については一旦忘れて読んでもらいたい。話がややこしくなりすぎるので。

歌会のアンチハラスメントポリシーを紹介します

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Sisterlee寄稿の件と情報提供のお願い のあと、ハラスメント防止の取り組みをしている歌会について何件か情報をいただきましたので紹介します。

▼神保町歌会

神保町歌会ではアンチハラスメントポリシーが2020年2月13日に策定されています。
参加者には事前に目を通してもらっているとのことです。

ここいいな! と思った点を紹介します。

  • 「参加者の誰もが楽しく、安心して集える場を維持するため、策定されました」「誰もが経験や立場に関係なく、楽しくまっすぐに短歌に向き合える場所として維持していくために、ポリシーを定めました」と策定の目的が明確に示されている。
  • 「批評の範疇を逸脱する性的なコメントや、参加者のプライベートな事項を憶測し、踏み込むような発言」が禁止されている。これは短詩型文学の批評においては本当によくあるやつ!「わたしは作中人物じゃないですよ?」の缶バッジが必要なのは作品の内容にかこつけて作者のプライベートに無駄に踏み込む発言が多いからなんだよー!
  • ハラスメント行為に「加担したり、擁護したりすること」も禁止。これ大事。「あのひとは悪気があってやってるんじゃないんだよ」ってよく聞くでしょう? それ禁止です。(あと、悪気の有無は関係ない。たいていの迷惑行為は悪気なくなされるし、たいていの差別は差別ではなく単なる区別だと言い張るし、たいていの戦争は正義の名の下に行われるんだから。)
  • 「不適切な行為を受けたり、判断に迷ったとき」は、「近くの運営スタッフに声をかけてください」「DMやメールでお知らせいただいてもかまいません」と、スタッフが対処してくれる旨が書いてあるので安心感が強い。

▼南極歌会

南極歌会は大学生に向けた歌会の場。神保町歌会版を改定する形でアンチハラスメントポリシー策定したとのことです。「南極歌会は所属や学年などに拘らず全国の学生同士が歌会等の活動を通して交流できる場を提供することを目的として作られました」と歌会設立の目的が入っている以外はほぼ、神保町歌会のポリシーを踏襲した内容です。
ハラスメントというと年配の男性から若い女性に向けられた行為をイメージしがちですが、大学生の男性歌人から女性歌人にセクシャルハラスメントが行われた事例(ずいぶん経ちますが未解決ですよね?)もあるので、学生の参加する句会でこういったアンチハラスメントポリシーが掲げられるのは意義深いことだと思います。
教育の現状を考えると、たぶん高校までは「セクハラ」って単なる冗談のネタで、自分の行動が「ハラスメント」になる可能性なんて考えないと思うんだ。

ところで、以前紹介した現代俳句協会IT部が策定したインターネット句会利用規約は2020年10月20日なので、もしかしたら神保町歌会の取り組みが現代俳句協会にも影響を与えたのかな、と思ったりしました。
現代俳句協会インターネット句会の利用規約はインターネット句会での主催側の権限(迷惑行為を行った参加者の利用拒否や登録抹消)や投稿作品や選評の著作権はどうなるか等、いろいろなことが書いてあって、一部にハラスメント防止の内容が含まれています。いろいろ盛り込んであるせいで、読みたくなるか、読みやすいかという点ではちょっと疑問。「参加者全員にしっかりと目を通して遵守してもらう」というより、「必要なときに必要な部分を確認する」「トラブルが起きたときに対処するための根拠」というような役割の方が大きいのではないかと思いました。

これに対して神保町歌会・南極歌会のアンチハラスメントポリシーは平易な文で短く、目を通してもらいやすい。そこがとてもいいと思います。

なんかこの流れ、現代俳句協会をサゲることにより神保町歌会・南極歌会をアゲているようですが、飽くまでハラスメント予防という観点においてのみ評価しています。そもそも文字ベースのインターネット句会と対面やZOOMの歌会、不特定多数が参加するインターネット句会とある程度参加者の限られた歌会、というふうに条件はまったく違うので単純に比べられるものではないのは承知しております。
ごめんよー! 現代俳句協会が協会全体としてアンチハラスメントポリシーを出してハラスメント相談窓口を開設したらそのときはちゃんと宣伝するから!

実は、短歌に関しては、結社がハラスメント相談窓口を設けているケースもいくつかあるようですが、実際に稼働しているかどうかは結社に入っていない立場からはまったく見えない状態なので敢えて紹介することは控えています。

・相談しやすいような工夫はあるのか(相談した側が結社にいづらくなることはないか)
・開始以来、何件くらいの相談が寄せられたのか
・相談に対してどのように対応したのか、解決されたのか
・結社のメンバーが結社外の人物にハラスメントを行った場合、対応してもらえるのか

など、聞きたいことはいっぱいあるのですが、プライバシーにも関わることなので結社外には発表しない内容なのかもしれない。結社誌には報告が載ってるのかな?
おそらく、ちゃんと稼働しているとは思うのですが!
安心したいので!
「相談窓口あってよかったな〜!」というお話があれば教えていただきたいと思います。

さてさて。最後にちょこっと次回予告。
当方、俳句コミュニティから離れすぎており俳句の情報があまり入ってこないので、意を決して、お返事をくれそうな団体の方に「ハラスメント防止の取り組みをなさっていたら具体的に教えてください」という内容の問い合わせメールを送ったところです。
少し先になるかもしれませんが、お返事が届いたらこのブログで紹介しようと思っています。

というわけで、引き続き情報提供お待ちしてます!
ishiharayukio■gmail.com

※ 男性から女性への発言だけではなく、女性の言動がセクシャルハラスメントになるケースも十分あります。わたし(シス女性)自身、過去に「イケメンですね」「太った?」「痩せた?」等、互いの関係性や相手の気持ちを考えず口走ったことがあり、深く反省しております。

アラブ香油を試しました(2)

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アッター・アル・カーバの方が好き!
と最初は思ったけどしばらく使ってみるとサフワの方がおもしろい。
まず、けっこう木です。甘くてウッディ。アンバーでもあるのかな。
なんとなくすうすうしているけど寒いとこまではいかない(樟脳のような?)清涼感もある。
これは、いい寺ですよ。
新築の本堂。真新しい材木の匂いと、仏具や布に染みついたお香の匂い。
いやしかしそれでいて食べ物のようでもある。
よく乾燥した木を食べることができるならこういう匂いかもしれない。スパイスのふんだんに練りこまれた木のケーキ。
基本的に新築の寺なのは揺るぎないのですが、おいしそうなバニラを感じたり、天花粉のような粉っぽさを感じたり、いろんなニュアンスが楽しめるところがいい。

LPTさんによると「主役はアンバーとローズ」ということなのですが、素人ゆえローズがわかりませんでした。こういうときドヤ顔で “Well blended” (よいバランスでブレンドされているためにどれかひとつの香料が突出せずよく調和したひとつの香りのように感じますね的なニュアンスで英語のフレグランスコニュニティで使われているっぽい)を使いたいけど、用法合ってるのか。

あと、わたしの場合いつも5〜6時間でいなくなってしまうのですが、tanuさんのように十数時間持続させるためにはもっと多めにつけないといけないのかも。たーっぷり塗りこんだらどうなるんだろう。いま手元にあるのはお試し用0.5mlロールオンボトルなのですが、一本まるごと買って試してみたくなる。

まるごと買いたくなったらドバイから取り寄せ可とのことなのでゆっくり検討したいと思います。
→ Al Haramain Perfumes Online Shop

(そもそもドバイから取り寄せ、というところにロマンがあるよね……)

アラブ香油を試しました(1)

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ずっと気になっていたアラブ香油をこの度取り寄せました。→LPT direct
その名も「アッター・アル・カーバ」。聖地カーバ神殿の名前がついてる。「おいせさんお清めスプレー」みたいなものだと思っていいのでしょうか。

Attar Al Kaaba
※こちらのリンク先はアルハラメイン公式ウェブサイト

塗った瞬間白い服の男性&黒い服の女性の一団が思い浮かぶのかな、と思ったりもしたけれど、そういう感じでもなかった。人々が纏っている香りというのは香りのプロダクトが全部混ざったものだから香油だけで「めっちゃアラブ!」というイメージにはならないのかもしれない(ちなみにアラブのおうちではバフールというお香を家の中で焚いて衣服にもその香りが移るようにするそうです)。

とはいえ、やはり日本国内でふだん嗅ぎ慣れているような香りではないです。「外国」を感じる。
トップノートは蜜のように甘く濃厚な薔薇が強力なボディブローを打ち込んでくる。
モンタルのアントンスカフェも同じくこのボディブローを感じたので、このドスンと来るのが薔薇+ウード(=沈香)ってことなのかもしれない。ウード単体の香りがよくわかりません。お香としての沈香ともまた違うようだし……。
その後徐々に薔薇が薄らいで洗浄力の強い石鹸みたいなムスクの香りが目立ってくる。もちろん香りと洗浄力は関係ないんだけどなんか「強そう」なんだよな。強そうな薔薇石鹸。
ロクシタンのローズも「薔薇石鹸」と感じることはあるけど、あちらはとにかくふわふわとやわらかい。その代わり鬼拡散する。
アッター・アル・カーバは香油。アルコールを含まないだけあって拡散力は控えめ。時間の経過とともに徐々に強さは減衰しつつ長く長く肌の上に残り続ける。

2019年の初夏トルコに行って、どこにいってもいい香りがする(ホテルのロビーも地下鉄の車内もウエットティッシュもいいにおい!)状況を体験したのが香水沼ドボンの遠因だったような気がします。それからCelesセレクトを試し、2020年新型コロナウイルスの流行が深刻化する直前の2月にノーズショップに行き、その後順調に沼の浅瀬を歩き回ってムエット送付サービスを利用したり、試したい香水を少量だけ取り寄せたり。気づいたらLuckyScent(アメリカ)からサンプルを取り寄せ、FragranceX(アメリカ)で目当てのボトルが安く出ていないか探す日々を送っていました。香りはちょっとした旅だから、本当の旅行ができないいま、いろんな香りを取り寄せて嗅覚の小旅行を繰り返しているのだと思います。

歌集『リリカル・アンドロイド』さんに梅の香水をおすすめする

荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』 (現代歌人シリーズ29) 書肆侃侃房 

荻原裕幸さんの歌集『リリカル・アンドロイド』には梅の短歌が多いのです。
いや、340首中の10首だからめちゃくちゃ多いわけじゃないんだけど、目立つ。
「触れると梅だ」と、章のタイトルにも梅が出てくるし、濱松哲朗さんが「矛盾と異化を含んだ梅の心地良い香りに誘われて、荻原裕幸は今日も現代短歌の<夢>をリリカルに完食する」という帯文を寄せています。

というわけで梅の歌を一気に引用しちゃおう。ドーン。

優先順位がたがひに二番であるやうな間柄にて梅を見にゆく
早いものですね立春なんですねえ梅の木がその影にささやく
こどもがゐても今この人と恋をしてゐたのだらうか妻と見る梅
父に頬を打たれるやうな懐かしい痛みのなかに咲いてゐる梅
妹であることをすこしもいやがりもせずにしづかに梅園をゆく
梅とか他にも奇妙なものがほころびて動きはじめる春の心臓
影の濃い木と薄い木と見あたらぬ木があるひるの梅園をゆく
習作として描かれた絵のやうなしかしたしかに触れると梅だ
梅の匂ひにまぎれながらも端的に弱みを衝いてくるこのひとは
どの枝も外へと伸びて眠りから抜けねば梅が見えないらしい

スンッ……(想像上の空気を吸引)。
いい梅ですね……。

まずは梅の花の咲いてるところを誰かと歩く歌から読んでいきましょうか。

優先順位がたがひに二番であるやうな間柄にて梅を見にゆく

これはずるい。夢女子としては(荻原裕幸と梅見、ワンチャンあるな……)という気になれるじゃないですか。あざとい。許せない。好き。

こどもがゐても今この人と恋をしてゐたのだらうか妻と見る梅

ほら! ほら! 妻が一番なんですよ! こどもがいないことを言いながら(そしてそれによってもう子供を作るような年齢でないことを匂わせながら、その年月を経て)今もまだ妻と恋をしていることをサラッと断定しているところがすごい。しかも妻 “に” 恋をじゃなくて妻 “と” 恋をだよ。妻も自分に恋をしていると信じて疑ってない。んもう!!!

妹であることをすこしもいやがりもせずにしづかに梅園をゆく

浮気や婚外恋愛を連想させる「優先順位」の歌よりもしかしたらこっちの方が不穏かもしれない。普通に考えれば妹であることはいやでもついて回るので、いやがっても無駄みたいな気がしませんか。このひとは妹としての役割を受け入れる言動をしながらこの歌の語り手である兄(と断定します、夢女子だから)と梅園を散歩してくれているのだろうか。そうだね。梅園に来たかったのは兄で、妹はついてきてくれたのでしょう。「いやがりもせず」と書くことにより、妹であることをいやがる可能性、つまり、あに・いもうとではない関係性を選び取ることの可能性が示唆されている。薔薇園だと明るすぎるんだよな。梅園だと二月の曇天と冷たい空気がセットになって思い浮かぶ。

梅の匂ひにまぎれながらも端的に弱みを衝いてくるこのひとは

「弱みを衝いてくるこのひと」が妻だった場合、妹であることを受け入れているひと(妹かどうかわからない)だった場合、またはそれ以外……といろいろと妄想できる幅があってありがたい。梅の香りのツンとしたところが弱みを衝かれたとき胸に感じるダメージとよく響いている。断崖絶壁に追い詰めるような詰め方ではなくツボに的確に鍼を打つような指摘だったんでしょうね。いいぞ。もっとやれ!

梅と痛みを組み合わせた歌、と考えるなら物理的な痛みが登場するのがこちら。

父に頬を打たれるやうな懐かしい痛みのなかに咲いてゐる梅

物理的な痛みが登場するといっても、たとえとして物理的な痛みが引き合いに出されているわけですけれども。
これもやはり、梅の匂いのツンとした部分が描かれているように思う。頬を張られたときの、鼻の奥にダメージがくる感じ。「あ、くる!」と身構えて次の瞬間予想通りぶっ叩かれるように、「あ、おセンチになっちゃう!」と思ったとして避けられない感傷というものがあるじゃないですか。スーッ……(吸引)。

つぎにシュールな情景をまとめて見ていきたい。

梅とか他にも奇妙なものがほころびて動きはじめる春の心臓
影の濃い木と薄い木と見あたらぬ木があるひるの梅園をゆく
習作として描かれた絵のやうなしかしたしかに触れると梅だ
どの枝も外へと伸びて眠りから抜けねば梅が見えないらしい

「奇妙なもの」はほかの木の芽などではなく目に見えないものっぽい。
影の見当たらない木はこの世に存在している木なんだろうか。
触れるまで梅だと確信できない梅。
夢の中で夢の外に咲いていると推測する梅。

この梅たちが咲いているのは冬と春の境目であり、現実と非現実の境目。夢と梅って音が似てますねそういえば。

早いものですね立春なんですねえ梅の木がその影にささやく

「立春なんですねえ」の「え」のため息まじりの字余り。
話し相手が自分の影なのちょっと不憫になってしまう。この本においては梅を見に来るひとのほうはしょっちゅう複数人で来ているというのに。

さて、それではこんな梅の短歌が所収されている『リリカル・アンドロイド』さんに梅の香りを含む香水をおすすめしたいと思います。

ナイチンゲールのサンプルをカナダからお取り寄せしました。

ものすごく梅の花 – ナイチンゲール EXTRAIT DE PARFUM –

NIGHTINGALE EXTRAIT DE PARFUM
ブランド:ZOOLOGIST

トップノート:ベルガモット、レモン、サフラン
ミドルノート:日本の梅の花、紅薔薇、スミレ
ベースノート:アンバーグリス、フランキンセンス、ラブダナム、モス、ウード、パチュリ、サンダルウッド、ムスク

とてもリアルな梅の花の香りをメインに据えた香水。ここでのナイチンゲールは日本のウグイスのことです。梅に鴬。
ひと吹きした瞬間から梅の花が頭の中でパカーンと開きます。ベルガモットやレモンの効果か、トップノートには梅特有の鋭さが感じられます。そして徐々におだやかにまろやかに薔薇が登場するのですが、それでいてわりかしずっと梅々しさも継続していきます。エキストレドパルファムなので持続性があり、せつないような梅の香りとずっと一緒にいられるので『リリカル・アンドロイド』さんはきっとお気に召すと思います。

まじめかふまじめかといえばすごくまじめな香り。とても美しいけれど誘惑を感じる美しさではなく、すこし近寄りがたいような気高さがある。じゃあ誘惑を感じる香りってなんだよって話ですが、ディオールのピュアプワゾンなら裸エプロンみを感じるしニシャネのウヌタマンもハーブの王冠を被った野獣だからやばい(総攻め感)。

ナイチンゲールは液体の色がピンクなので女性用のイメージが強いかもしれないけど、香り自体は本当に梅の花なのでフェミニンなものが苦手だからといって避ける理由はないと思います。たとえば梅の花の香りがする男性を想像してください。単なる平安朝の貴公子です。ナイチンゲール、完全にユニセックス!!!(←誰かのまとっているナイチンゲールを吸いたいので強く主張しました)

ところでこの香水はカナダに本拠地を持つズーロジストというブランドから発売されており、調香師は日本人の稲葉智夫氏。
稲葉氏自身のウェブサイトで明かされているように、この香水は

かはるらむ衣の色を思ひやる涙やうらの玉にまがはむ  藤原妍子

という和歌をモチーフにしたものだそうです。

「出家していく姉に、ウードの数珠をサンダルウッドの箱に入れ、梅が枝で止めた贈り物を渡した」

という背景の説明はまるでアーサー・ウェイリー訳『源氏物語』の再翻訳版のよう。

表紙の絵(唐崎昭子さん作)も姉妹のように見えるので姉妹の物語をもつ香水はお似合いになるのではないかと。

その他、梅感のある香水を紹介します。

洗練された都会のプラム – ノマド アブソリュ ドゥ パルファム –

CHLOE NOMADE ABSOLU DE PARFUME
ブランド:CHLOE

トップノート:ミラベル
ミドルノート:オークモス、ダバナ
ベースノート:サンダルウッド、ムスク
*ノートについてはFragranticaを参考にしました。

ショッピングモールの化粧品コーナーで昨年見かけ、なにげなく試したところ梅っぽさが強くて驚いた。
ナイチンゲールと比べると梅の花らしさは劣るのですが、単体で嗅ぐと「ん? 梅じゃな!?」と感じます。

ミラベルというプラムの一種が書いてあるので、正確には梅の花ではなくプラムの実の香りなのかもしれない(ちなみに欧州にはミラベルを梅の代わりにして梅干しを作るひともいるらしい)。
ノマドアブソリュとナイチンゲールが似ているかというと似てない姉妹くらいには似てる。
たとえばナイチンゲールが地方都市の図書館に勤務する30代の内向的な姉(童顔)だとするなら、ノマドアブソリュドゥパルファムは都会で会社勤めをする社交的な20代の妹(趣味はボルダリング)です。
ちなみにこれはどちらも「シプレ」という様式に則って作られた香りであるがゆえの類似とも言えます。
それでいくと彼女たちの母親はゲランのミツコ(童顔で社交的、趣味は寺巡り、好きな果物は桃)かもしれない。

クロエノマドシリーズの棚の前に陣取ってEDP(アブソリュより薄い)やEDT(EDPより薄いかわりによく拡散する)も嗅ぎ比べてみましたがアブソリュほどの梅感はありませんでした。

高級な梅酒または梅干し – プラムジャポネ EDP –

PLUM JAPONAIS EDP
ブランド:TOM FORD

トップノート:シナモン、サフラン
ミドルノート:日本の梅梅の花、イモーテル、椿、リカー、サイプレス
ベースノート:ウード、アンバー、ベンゾイン、樅、バニラ
*ノートについてはFragranticaを参考にしました。

今回紹介するなかではいちばんメンズ寄りだと思います(Fragranticaではユニセックス〜男性用と感じているひとが多い)。そして梅の花っぽさはいちばん低くてほぼ完全に実。毎日の香りというよりはドレスアップしたとき用という雰囲気(ええ、お値段もそういうお値段です。フルボトルを買うならかなりの勢いが必要)。
ミドルノートのところにリカーと書いてありますが、トップから結構酒が強い。梅酒のような、あるいは貴腐ワインのようなとろりと甘い酒から始まり、かすかに漂うシナモン。甘く重いまま酒樽感のあるウッディが出てきて最終的には酸味が増し、ちょっとした塩気まで感じる。しょっぱい梅……梅干し……ああこれは蜂蜜入ってるあまじょっぱい梅干しだ。それでいて決してチープにも珍品にもならず、ただならぬ押しの強さでプレミアム感を出してくる。お香っぽさもあるにはありますが、日本で一般的に売られている梅の香りのお線香などのイメージとはだいぶ違います。それよりは梅酒に近い感じ。

で、そういう面白い香りなのにこれ、残念ながらディスコン。ディスコンティニュード。廃盤です。「日本の梅」じゃなくて「中国の梅」みたいな名前にしておいてくれればもっと広い層にアピールできて生き残ったのでは、と思わないでもない。

※ もし「そこまで後をひかない潔い梅の香りを好きなときだけまといたい」という場合は賦香率10%程度の武蔵野ワークスの「白梅」がいいかもしれない。

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背にマグマ | 俳句さんに似合う香水を見つけてあげる(7)


Image by David Mark from Pixabay

雪の夜の背にマグマある深眠り 正木ゆう子『羽羽』


2016年に出版されたこの句集には2011年の東日本大震災と原発事故を詠みこんだ句が収録されています。

予震予震本震余震余震予震

頻繁に揺れが続いた当時の状況は、ほんとうにこの通りだったことだろう。「だったことだろう」と書くのは西日本に住んでいる自分はニュース速報とTwitterに書き込まれる「揺れた」「揺れてる」という言葉でしかそれを感じたことがないから。【参考】御中虫『関揺れる』(邑書林、2012年)
予震と余震は音が同じであるように体感としては同じ揺れであり、小さな揺れのあとには大きく本震がくるのではないかという恐怖がある。

掘炬燵あるはずもなき仮設なり

元の家にはあった設備も仮設住宅にはない。プレハブに堀炬燵などあるはずもない。最低限必要なものですら手に入るとは限らない生活なのだから。季語として置かれた「掘炬燵」は失われた日常の象徴だ。

真炎天原子炉に火も苦しむか

夏の暑さに冷却機能を失った原子炉内部へと思いを馳せる。事故後、冷温停止状態を目指す復旧作業が続いている状況での句だろう。
(とはいえこの句自体は事故前の起きていない原子力発電所を詠んだ句としても成立する普遍的な内容だと思う。)

こういった被災地での句と、さらには母の死に関する句が収録された、なかなか重い句集の終盤に登場するのが

雪の夜の背にマグマある深眠り

なのです。

寒い寒い雪の夜、横たわる自分の下にはマグマがあり(実際にはマグマの熱は伝わらないのだがそれに温められているかのように)深く眠る。

その次に並んでいる句は、

この星のはらわたは鉄冬あたたか

というものだ。
想像上の地熱が心を温める双子のような二句です。

地震の原因を床暖房扱いとはなんたるタフネス!

でもこれって、人類はときに日常を破壊しときに恵みの熱ともなる鉄のはらわたの上に住むしかないという諦めであり、願わくばできるだけ暴れ回らず恩恵をたくさん与えてほしいという祈りでもあるのだろう。

すみません。この流れでほんと必要ないかもしれないんですけど、香水をおすすめしてもいいですか。香水どころじゃねえよ、という意見はごもっともなんですが。

超安眠! 嗅ぐタイプの安心毛布 – ベティベルソ EDP –

VETYVERSO EDP
ブランド:LABORATORIO OLFATTIVO

トップノート:カーネーション、ナツメグ、ビターオレンジ
ミドルノート:ベチバー、ブラックペッパー、ピンクペッパー、グレープフルーツ
ベースノート:シダーウッド、クラリセージアブソリュート、サンダルウッド、ホワイトムスク

爽やかに弾ける柑橘に顔を上げて太陽を仰ぐと、次の瞬間にはベチバーのいかにも根っこらしい大地の香りで意識を地面の下に運ばれる。
徐々にスパイシーになるのはブラックペッパー&ピンクペッパーなのかしら。ほんのり台湾の屋台(=八角 / スターアニス)っぽさも感じるんだけど。
ブランドの意図としては香りの舞台は中央アメリカのアンティル諸島(キューバやハイチからトリニダード・トバゴあたりまでをそう呼ぶらしい)。火山の裾野にひろがる森林をイメージした香りだそうです。
香りから季感を受け取るとすれば、どちらかというと夏です。冬ではないです。でも通年使いやすい香水だと思う。この香水とはノーズショップのガチャ「目覚めのリフレッシュ香水(※すでに販売期間終了)」で出会ったのですが、わたしはこれを嗅いでいると秒で眠くなってしまう。きっと柑橘類の香りが入浴剤(柚子湯)に似ているからだ。架空の湯上りのぬくもり、想像上の地熱と相性いいと思います、火山イメージの香りでもあるし。

+  +  +  +  +

以下は小さい字で書いておく長い余談。

わたし個人は災害に関する句はできるだけ作ったり発表したりしないようにしている。感動を取り出すために誰かの身に現在進行形で降りかかっている災難を使いたくない。たとえば自分が当事者になっている問題に関してはあたしの不幸で勝手に泣いてないで手を貸せよ、踏んでる足をまずどけろよ、と感じずにはいられないから。
なんだろ。「絵になる不幸ですね」って言われてる感じ?

わたしは正木ゆう子さんの句がめっちゃ好きなのですが『羽羽』の中だと

雀隠れの雀よそこは気をつけて
鼻綱なき自由もあはれ爆心地
人類の先頭に立つ眸なり(※「被災した子供たち」と前書きあり)

あたりは許せるか許せないか結構ギリギリの線だと思っている。「爆心地」という言葉の使い方の是非もあろうし、人間対動物、大人対子供といった力関係を考えると「えええ……それ言っちゃうんですか……」という気持ちにならずにいられない。
正木さん自身もあとがきで、
「この時期、俳句も文章も、迷いなく口にすることの難しさを常に感じてきました。特に原発事故により十万年ものスパンでものを考えなくてはならなくなったこと、人類の子孫に負の遺産を残してしまうことなど、わが時代の責任を考えると、つい口を噤んでしまいます」
と述べておられ、葛藤が見て取れる。厳密には原発事故の前から、原子爆弾を作ったり原発をどんどん建てたりした時点で十万年スパンでの問題は始まっていたのではないかと思うのだがどうなんでしょう。原子力発電は事故を起こさなくても日々放射性廃棄物という負の遺産を生んでるんじゃなかったっけ。
災害や被災地を詠むのなら自分がそれを詠む理由とか慎重な姿勢が必要な気がしてて、わたしはそれがないからもう最初っから俳句のモチーフにはしない。もちろん、ちゃんと問題に向き合いながら寄り添うように俳句を詠んでいるひと、あるいは当事者として詠んでいるひとたちもいるだろう。
こういうのは一神教のひとたちの言葉を借りれば「神様と自分との問題」みたいなものだから、わたしは自分のルールをひとに押し付けるつもりはない。わたしの態度は問題から目をそらして逃げているだけとも言える。そしてこの論理がマジョリティ側がマイノリティの言論を封殺するために使われてはいけないとも思う。
でもさ俳句って(巧拙は別として)簡単に書けちゃう、簡単に忘れちゃう。いろんな配慮をして真摯に接していかなければいけない問題を扱う場合なかなか使いづらい形態だと思う。俳句しか書けない呪いにかかってるわけじゃないんだから、こういうときは言葉を尽くして散文にしたほうがよくない? 的なことを考えるんですよね。短詩型ってどうしても省略や詠嘆をぶち込んでうっとりしてしまうから、そこからこぼれ落ちるものが多すぎると感じる。ただ、当事者が当事者として書く場合、俳句の短さは怒りや悲しみの瞬発力との相性がいいし、文脈込みで読んでもらえるから伝わりやすい面もあるよね。
あと、もしかしたらわたし災害に関しては気をつけていても、特定の職業や病気や土地その他に関して、搾取するように書いてるかもしれない。
この余談はオチがないし全然まとまってないがぐだぐだしたまま載せておきます。

書斎に犀を | 俳句さんに似合う香水を見つけてあげる(6)

父を嗅ぐ書斎に犀を幻想し 寺山修司

書犀さんとお呼びしていいかしら。
今回は突然結論ですが、書犀さんに香水をおすすめするなら唯一絶対のファイナルアンサーとしてこちら。

厳格のち溺愛 – ライノセラス EXTRAIT DE PARFUM –

RHINOCEROS EXTRAIT DE PARFUM
ブランド:ZOOLOGIST

トップノート:ラム、ベルガモット、ラベンダー、エレミ、セージ、アルモアズ、針葉樹の葉
ミドルノート:タバコ、シダー、ゼラニウム、松、アガーウッド、イモーテル
ベースノート:サンダルウッド、アンバー、煙、ベチバー、ムスク、レザー

(今回紹介するのは旧バージョンのライノセラスです。調香を見直した2020年版ライノセラスも公式サイトから入手可能です)

ZOOLOGIST公式サイトより引用

ライノセラス。ずばりという名前の香水です。
紙に吹き付けて試香するとラム酒を感じた直後にベチバーらしき土っぽさがガッツリ出てきて飲みにくい漢方薬のような苦さ。
それに加えて火をつけていない煙草の葉の香り。
これは犀のいるサバンナの土埃と乾いた草か。
そしてレザーがいます。レザーがしっかりと主張してきます。
ジャンル的にはレザー香水です。革の匂い。(※1)

「この香りで外出するとしたらどういう意図で纏ってるんだろ……?」

香水を嗅いでそういう疑問を持つことがあるのですが(※2)ニシャネの「ウヌタマン」、エタリーブルドオランジェの「トムオブフィンランド」に続いて「ライノセラス」がそこに加わりました。あ、全部レザー系か。

何、これは何、わたしは何を嗅いでいるんだろう……と思ってるうちに病院っぽい、消毒液っぽいような匂いもしてきて若干トムオブフィンランドに近づく(どちらも松が入ってる。病院っぽさって松由来なんだろうか)。

クリニックの待合室のような清潔な革の匂い、アンバーの気配。そしてずっと漂っている乾いた煙草の香り。
背中を向けた犀の首筋から友好を拒絶するように発散されている、これは詩的に表現された加齢臭だ。

それが、数時間後のある瞬間突然に親しみやすい、心から落ち着ける柔らかな香りに変わるので驚きます。
驚くを通り越して戸惑うほどのギャップ(※3)
ムスキーでほんのり甘い。
リラックス感を与えているのはサンダルウッドだろうか。

この親しみやすさは知ってるぞ。この部分に関してだけ言うならば、ALGHABRAのLABYRINTH OF SPICESにちょっと近いんだ。LABYRINTH OF SPICESはわたしにとって記憶の中の若く美しい父親(顔はレスリー・チャン)のサマーセーター、パパと二人で乗った遊園地の回転木馬、幼いわたしが手を伸ばして触れた父の顎、ぽつぽつと髭の感触。もちろんそんな父親がいたことはないのですが、なぜか鮮やかに記憶が捏造されてしまう。

おや、失敬。書犀さんのことを置き去りにしてわたしの架空のパパの話をしてしまった。
ライノセラスとLABYRINTH OF SPICESはサンダルウッド、アンバー、ベチバー、ムスク、シダー、タバコ等が共通しています。ただしLABYRINTH OF SPICESは土っぽさがマイルド。パイナップルやトンカビーン(単体だとちょっと桜餅っぽいアレ)が入って最初っから甘々です。トップノートは全く似ていません。あと両腕につけて比べると全然似てる気がしない。「めっちゃ落ち着くベースノート」という一点のみにおいて似てるのか。いやそんなことはないと思うんだけど。

父を嗅ぐ書斎に犀を幻想し

父の書斎に父はいない。そこにこっそり入ってみる。書斎に犀を幻想するのは「サイ」という音からの連想によるもの、だけではなく、書斎のにおい(書物、家具、煙草、父の加齢臭etc)からも犀のイメージが立ち上がって来たからでしょう。父親と犀が重ねられている。
書斎の椅子に父の代わりに座っている犀、というものを想像するならば、それはこのズーロジストの軍服を着た犀がぴったりではないか(自宅の書斎に仕事着のまま座るケースは稀かな、とも思うけれど)。
ライノセラスの公式設定には書斎要素は書かれていないのですが、ウッディでレザリーそしてタバコという組み合わせ、本棚に革の表紙に葉巻でしょ。偶然にも完全に書斎です。

Image by shell_ghostcage from Pixabay 

さて。唯一絶対のファイナルアンサーと書いてしまいましたが、そういえばペンハリガンのポートレートシリーズにも犀(悪い男テディ)がいました。ごめん、うっかりしてた。どこかで試したら追記したいと思います。

※1 革が香水のジャンルとして確立してることに最初驚いたわ。
※2 と言いつつ一人で行動するときは「変な匂いだいすきぃ〜! ひとからどう思われても気にしない〜!」と軽率になんでもつけてお出かけする。
※3 肌に直接つけるよりも布や紙の上の方がこの激しいギャップを感じやすいかもしれない。

能村登四郎の僧侶たち | 俳句さんに似合う香水を見つけてあげる(5)

shell_ghostcage / Pixabay

まずは『能村登四郎全句集』からの引用をご覧いただきたい。

しづかな熱気寒行後の僧匂ふ 「枯野の沖」
杉の花降らす杉山に僧入れば 「幻山水」
逃げ水に逃げられて逢ふ美僧かな 「天上華」
素裸の僧ゐてやはり僧なりし 「寒九」
坊主めくりの引き当てし僧うつくしき 「長嘯」

僧、僧、僧、僧、僧。
能村登四郎が僧侶を詠んだ句の中から特にわたしのお気に入りのものを抜粋しました。僧侶や僧侶の行動を描写した句を全部数えれば数十句。仏教つながりでお遍路さんの出てくる句まで入れると70句くらいあります。
能村登四郎先生の僧侶萌え(と敢えて言わせてくれ)は他者として僧侶を熱く見つめるだけにはとどまらず、

青滝や来世があらば僧として 「民話」
僧形を恋ふもきさらぎ初めごろ 「有為の山」
黒揚羽僧形われに似合ふかも 「有為の山」

といった僧になりたいという願望(コスプレ欲?)にまで発展し、最晩年の句集『羽化』では、

秋の滝めぐりてわれや痩法師 「羽化」

と詠んで、ついには「われ」と「法師(=僧)」の一体化を果たしてしまう。

本日は能村登四郎先生の僧侶俳句さんたちに僧侶感の強い香水をおすすめしたいと思います。

おーっと待ってくれ。
何が言いたいかわかるよ。お香でしょ?
僧侶感を満喫したいなら香水を振るんじゃなくてお香を焚くのがベストだとおっしゃりたいんでしょう?
でもちょっと考えてみてほしい。香水ならお香の香り以外の僧侶的要素も表現できるんですよ。
そう、たとえばスクーターで檀家を廻る前に飲む一本の栄養ドリンクとかね。

注:本記事ではノート(トップノート・ミドルノート・ベースノート)に関してブランド公式サイトもしくはFragranticaを参考にしています。

24時間戦う僧侶 – ピアノ サンタル –

PIANO SANTAL
ブランド:オーケストラパルファム

メインノート:ホワイトサンダルウッド、シダーウッド、火照った肌、ベルガモット、アンブロキサン、ホットミルク、キャラウェイ

寺の香り、お香の香りと言えば、サンダルウッド(白檀)。
ピアノサンタルは離れて嗅ぐとミルキーなサンダルウッドなんだけど、鼻を近づけるとフルーティな酸味が目立ち、腰に手を当ててオロナミンC(リポビタンD、リゲイン等も可)を飲み干す元気な僧侶を想像せずにはいられない。超絶いそがしいお盆、スクーターにまたがっていざ出動。
っていうかそもそも「ミルキーなサンダルウッド」って未体験の方には何言ってるかわかんないと思うんですが、「ミルキーなサンダルウッド」と言うほかない。
ブランド側が提示しているコンセプトとしては「目をさますと、ピアノの中。」たしかにピアノクリーナーでピアノを拭いた時こんな匂いがしたかもしれないが、香水に引っ張られて記憶を捏造しちゃってる可能性もある。
最初はむしろ苦手な香りだったんですが、ドライダウンが本当に美しくうっとりとしてしまう、しかも鬼拡散超持続。10mlとか15mlっていうサイズがあったら絶対ほしい。

出陣する僧侶 – サトリ EDP –

SATORI EDP
ブランド:パルファン サトリ

トップノート:ベルガモット、コリアンダー
ミドルノート:シナモン、クローブ、カカオ、バニラ
ベースノート:オリバナム、サンダルウッド、アガーウッド

サトリ -Satori- 公式サイトより引用

「同じ重さの黄金より価値のある最高の沈香木・伽羅の香り。その香りが一本の道筋となって香炉から立ち上る」と公式にも書かれている通り、すっごくリアルに再現されたお香の香り。最初に試したのは数年前、とても好きな香りではあるのだけれど自分の人生には合わないと判断して見送ってしまった。というのも、僧侶であると同時に死と隣り合わせの戦国武将みたいな雰囲気があるのです。出陣前夜、兜に焚きしめられた香、のような。
サトリを纏うなら部屋は片付いてないといけないし、仕事で勇ましく自分の意見を言えなくちゃいけない。そしてその両方がわたしには無理だ。
……と、当時のわたしはそのように思ったんですよね。
いまの感覚としては「香水は見えないコスプレもしくは合法幻覚剤と割り切って似合う似合わない気にせずに所有すればいい」ってなもんなのですが(いや、部屋は片付けろよ)。
それはさておき、能村登四郎の描く美しい(理想化された)僧侶たちにはこのハンサムな香りがよく似合います。

落飾せし皇子 – アンブルスュルタン EDP –

AMBRE SULTAN EDP
ブランド:セルジュ ルタンス

メインノート:樹脂、アンバー、ベイリーフ、ミルラ、サンダルウッド、ベンゾイン、コリアンダー他

「落飾」という言葉を知ったのは澁澤龍彦の『高丘親王航海記』「親王は翻然として落飾して」というフレーズがあったから。貴人が仏門に入ることを「落飾」と呼ぶの、かつての華やぎとそれを削ぎ落とす痛ましさ、削ぎ落とされてなお、むしろ飾りを削ぎ落とされたがゆえににじみ出る美、という感じがしてもう、なんというか、あまりにも能村登四郎じゃない……?
さてアンブルスュルタン(←発音しにくい)別名「アンバーの王」は樹脂多め白檀控えめのお香という感じで、謎のゴージャス感(異国感)がある寺です。僧侶なら位の高い僧侶。それも薄幸のプリンスが出家して年齢を重ねたような雰囲気。スクーターには乗らない。敢えて似合う乗り物を挙げるなら牛車か天竺行きの船です。
アンバーという香りがなんなのかわかっていなかったのですが(花やスパイス類と違って手近に嗅げる実物がなく、しかもアンバーというくくりの中に琥珀のイメージを再現したアンバーと抹香鯨の結石であるアンバーグリスとが相互乗り入れしてるらしくて混乱している)、このアンブルスュルタンとZOOLOGISTのイカ(合成アンバーグリス)を試したことでちょっとわかってきました。甘みとちょっぴり酸味もある築百年の木造大豪邸の書斎(日当たりがいい)みたいな感じのこれがアンバーなのね!? あったかい感じの古い木の香り。

その他、僧侶みのある香水

FATE MAN EDP – AMOUAGE –
精進カレーを作る僧侶。アムアージュの香水ってインセンスっぽい香りが結構多いらしい。『世界香水ガイドⅢ 1208』でルカ・トゥリンにカレー呼ばわりされています(ごめん、これ前回も言ったね)。
SACRESTE EDP – LABORATORIO OLFATIVO –
キリスト教の僧侶。フランキンセンス(乳香)の香り。教会のお香。鉛筆ごりごり削った感じのウッディ。
KARMA(ソリッド) – LUSH –
柑橘系がしっかり香るのになぜか「寺……」という印象を与えるラッシュマジック。ソリッドパフューム(練り香水)として持ち歩いており、前髪の乱れを直そうとヘアワックスがわりに使ったとき薬品漏れ騒ぎが起きかけた因縁の香り。液体の香水バージョンも存在します。

まとめ

今回は一句一句に香水をマッチングさせるわけではなく俳句さんたちに香水さんたちを紹介してグループ交際をおすすめするにとどめたいと思います。
余談ではありますが、僧侶になりたがるコスプレマインドは能村登四郎先生からそのお弟子さんへとしっかりと受け継がれております。

被てみたきもの羅(うすもの)の緋の僧衣 正木ゆう子『静かな水』

秋風のアラブ服 | 俳句さんに似合う香水を見つけてあげる(4)

Photo by Rumman Amin on Unsplash

詩歌のイメージに合う香水を探してくるのはちょっとしたトレンドですよ。なぜならNOSE SHOPマガジンに “百人一首” 夏の詩と香水と題して和歌のイメージに合う香水をセレクトする回があったから!
こんな僻地のブログだけどこの最新トレンドを牽引するつもりでいくわよ。よいしょ! よいしょ!(鼻フックでトラックをひっぱる絵文字)

さて、今回お招きする俳句さんはこちらです。

旅客機閉す秋風のアラブ服が最後 飯島晴子

ボーディングブリッジではなくタラップを使っているのだろう。そうだよね、風が吹いてるんだもの。
アラブ服(地域によりトーブとかカンドゥーラとか呼ぶ白い服のことだと思う)がその風になびく。
なんて絵になる情景でしょう!

言葉が並んでいる順番通りに想像するなら、アラブ服の人がタラップを降りてくるシーンということになる。
階段から降りてくる純白のアラブ服の男性。背後で閉まるドア。彼は空港ビルへと向かう。
増殖する俳句歳時記ではこちらの解釈を採っているようだ。

でも乗り込むところと考えたほうがドラマチックじゃない?
「旅客機閉す」で旅客機のドアが閉まるところを見るでしょ。それから「秋風のアラブ服が最後」だったなあ、と回想する。そして去っていく飛行機。

もうちょっと妄想を膨らませるとですね、彼は日本でひと仕事終えた後です。何か重大な任務を果たして中東に帰ってゆくところ。この俳句の視点の位置を決めるなら、人々が搭乗を待っている待合エリア内の最前列あたりがいい。ガラス越しに外を眺めていると悠々と飛行機へ向かう純白のトーブの美しさに釘付けになってしまう。彼はタラップを昇り(そうここで晴れ渡った秋空の下、頭の布が一層大きく風になびきその白はますます輝く、でも遠いからぎりぎり顔はわからない!)飛行機の中に消えていく。この句の語り手は、いや、読者であるわたしは、閉まったドアを見ながら何度もそのまぶしさを反芻せずにはいられない。

っていう雰囲気の香水を探そうというのが今回のテーマです。

ざっくり要素を抜き出すなら、空港。秋の光とさわやかな風。日本から旅立つアラブの男性。
せっかくだから中東の香水から探してみたい。

注1:本記事ではトップノート・ミドルノート・ベースノートに関してFragranticaを参考にしています。
注2:本記事では「石油王」という言葉をNGワードに設定します。中東地域の方、民族衣装着てるだけで「石油王」って呼ばれてうんざりしてるんじゃないかな、と思って。ステレオタイプよくないよね。いままで軽々しく石油王の存在を求めすぎていたと反省しています。油田の有無にかかわらず喜捨は歓迎です。

中東の地図

<登場する中東地域のざっくりした説明>
わたしのように地理が苦手な方は左上にイタリアのつま先が見えているのを手掛かりに場所をイメージしてください。
トルコは小さじ一杯分くらいヨーロッパにかかって残りはほぼ中東。トルコに拠点を置くフレグランスブランドは烏龍茶香水が日本で人気のNISHANEのほかALGHABRA、PEKJIなど。トルコ旅行記も読んでね。
UAE(アラブ首長国連邦)といえばドバイ。でも首都はアブダビ。フレグランスブランドは(前回小粋なダジャレのネタにした)AL HARAMAIN、SWISS ARABIAN、ANFASなど。
オマーンはあまりなじみのない国名だけど1930年代に日本女性と結婚して神戸に住んだ(元)王様がいたり、1970年代に皇太子がクーデターを起こして父親を追放したり、なかなかドラマチックなのでウィキペディアでご堪能ください。AMOUAGEは王様の命を受けて設立されたフレグランスブランドで、オマーンの観光名所の一つ(工場見学できる)。

アラブ服は蜜にまみれた薔薇を抱く – アントンス カフェ EDP –

INTENSE CAFÉ EDP
ブランド:Montale Paris(仏)

トップノート:フローラル
ミドルノート:コーヒー、ローズ
ベースノート:アンバー、ヴァニラ、ムスク

Montale Paris…? いきなりフランスじゃん。中東じゃないじゃん。
いやいやいやいやいや。モンタルっていうのは中東でキャリアを積んだ調香師によるブランドなんですよ!
調香師のピエール・モンタルは長年アラビアの王族の専属調香師として働いていたらしい。 モンタルの公式サイトの説明文に書いてある “Kingdom of Arabia” がサウジアラビア王国(Kingdom of Saudi Arabia)のことなのかどうかちょっとわからない。アラビア半島のどこかの王国という意味なのかもしれない。

ブランドの特徴としてよく言われるのは香りの持続性と拡散範囲の広さ。
サンプルを肌に吹いてみると、評判通りスプレーした箇所がいつまでもきらきらしている。蒸発しにくい。これがロングラスティングの秘密か。
とはいえ、このアントンスカフェはモンタルの中では比較的おとなしくて日本でも使いやすいほうではないかと思われる。

というのは、Oh My Pouchという通販サイトで試香紙を5種類同時に取り寄せた際に、アントンスカフェの香りが最初に消えていったからです。鼻を近づけて(とは言いつつきついので他のブランドよりは遠めから)嗅ぎ比べてみてもいちばんマイルド。残り4つはちょっと頭痛が起きちゃいそうなレベルで強かった。

さて、アントンスカフェの香りの感想ですが、激甘なローズから始まり、そのローズを濃厚に継続しながら杏仁豆腐の気配を秘めた生クリーム盛り盛りの激甘ヴァニラ・ラテに移行。
カフェと言われてイメージするブラックコーヒーの感じではないですね。
ほぼ薔薇とヴァニラ。コーヒーはほんの一口。終始一貫して甘いです。香水なのに太りそう。
正直なところ日本人がイメージするアラブ感はない。空港っぽさは……うーん、どうでしょう。空港で飛行機待つ間コーヒーと甘いもので一息いれることもあるし、非日常のハイカロリーな飲み物を頼んだりするのも空港っぽさといえば空港っぽさか。食欲の秋! と思えばなくはないな。
なお、この項のタイトルは例の単語をNGワードに設定した反動でBLっぽくなりました。
禁止はBL神経を刺激する。

旅するアラブ服とスパイスの微風 – ジャーニー マン EDP –

JOURNEY MAN EDP
ブランド:アムアージュ(オマーン)

トップノート:四川胡椒、カルダモン、ベルガモット、ネロリ
ミドルノート:ジュニパーベリー、インセンス、タバコ
ベースノート:トンカビーン、レザー、シプリオル、ムスク

Amouage Journey Man

Amouage Journey Man(画像は公式サイトより引用)

はい。こちらは中東で製造された中東の香水です。ただしLuckyscent(ラッキーセント)というアメリカの香水販売サイトから0.7mlサンプルを取り寄せました。
海外通販デビューおめでとうわたし!!!
海外通販は香水沼の深部で行われている禁断の秘儀と思い込んでいましたが、いざ自分で通販してみると香水沼の深部にたどり着いた気はしないのでまだまだ香水初心者を名乗らせていただきますよ。

それはさておき、肝心の香りです。

オーケストラパルファンのテ ダラブッカに似てる! というのが第一印象。
テ ダラブッカは「ダラブッカ」という中東の打楽器をイメージした香りなので似ているのは納得感ある。ただ、テ ダラブッカほど金属的な刺激を感じないような。思ったより親しみやすい香り。
トップがすごくみずみずしく涼やかな柑橘。この柑橘感はベルガモットと、ひょっとしたら四川胡椒の香りなんだろうか。涼やかという印象はカルダモンから来ているのかもしれない。
それと同時に土っぽい青い香りがする。これがシプリオルかな?
ゆっくりゆっくりフランキンセンスのウッディさが加わりお香っぽくなりやがてムスキーに和らいで……という、結構複雑な変化をします。
ところでベルガモットって面白い香料で、精油を単体で嗅いでも「あ、紅茶だ」って感じる。
アールグレイティーは茶葉にベルガモットで香りづけをするから、ベルガモットを嗅ぐと紅茶を感じてしまうということらしい。
テ(Thé = 茶)という名前を冠したテ ダラブッカは時間を置いたあとに黒糖入りの紅茶っぽくなることがあるのですが、ジャーニーはつけたての状態でアイスティーのような雰囲気を感じました。アイスティーの香りとまで言うと言い過ぎで、飽くまで雰囲気。
強めの香水ではあるけど、そこまで重くない。トップノートの清涼感は秋空を思わせる。名前も「旅」だし、なかなか似合うのではないかしら。

ルカの認めた砂漠の至宝 – フェイト ウーマン EDP –

FATE WOMAN EDP
ブランド:アムアージュ(オマーン)

トップノート:ベルガモット、レッドチリペッパー、ペッパー、シナモン
ミドルノート:ローズ、ジャスミン、水仙、インセンス、ラブダナム
ベースノート:ヴァニラ、パチュリ、ベンゾイン、カストリウム、インセンス、レザー、オークモス

嗅覚研究者で香水評論家のルカ・トゥリンというひとが『世界香水ガイドⅢ 1208』で五つ星(=傑作。五段階評価の最高点)をつけた(香水コミュニティでは)たいへん有名な逸品らしい。
嗅いだ瞬間、香りというよりも重低音を感じた。ズーーーーーーン……!
ごめん、ちょっとこの良さを感じ取るためには経験不足みたいだ。時間を置いて再挑戦します。

人工島のトロピカルジュース – グリーン ガイア EDP –

GREEN GAYA EDP
ブランド:ANFAS(アラブ首長国連邦)

トップノート:マンゴー、洋梨、アニス、カルダモン
ミドルノート:ミルク、リコリス、ウード、シダー
ベースノート:アンバー、オリス

ガツンとくるマンゴー。トロピカルフルーツのミックスジュース。フレッシュな果物からジャムやグミのような濃縮された甘さに変化していきます。健全なパリピの匂いがする。
これは成田空港でも羽田空港でも関西国際空港でもない。日本なら那覇。さもなくば東南アジア。むしろドバイの高級ホテルのプライベートビーチで傘のついたジュース(ノンアルコール)を飲んでるのかもしれない。旅客機は空を横切って、ビーチチェアに寝そべったままサングラス越しにそれを見上げてる。搭乗する気配なし。

結論

今回は、暫定的にJOURNEY MAN EDPをおすすめしたいと思います。
もっともっと似合うのがありそうな気がするのですが。空港の広い空や白い服をイメージするためには(雪のイメージや清潔さの演出に使われたりする)アルデハイドの入ったものを探すといいのかもしれない。ってかそもそも中東の香水手に入りにくいのに中東縛りにしてしまったのに無理があったかもしれない。いやしかし諦めないぞ。
今後ビシッとハマる香りが見つかったら更新します!

ほかに試した香りは?

今回の俳句さんのために取り寄せた中東地域の香水について一言ずつ感想メモを添えておきます。

Labyrinth Of Spices Extrait de Parfum – Alghabra Parfumes(トルコ)-
パイナップルと柑橘のフルーティな甘さ+ベチバーの土っぽさ。ドライダウンはヴァニラとわずかにコーヒー。個人的に懐かしい香りのような気がするけど懐かしさの正体がつきとめられない。明るくて心地よい香りだけにうっかりつけすぎて酔いそうでもある。

Fate Man EDP – Amouage(オマーン)-
概念としての朝鮮人参みたいな、根っこっぽい漢方薬の匂い。塩辛い。『世界香水ガイドⅢ 1208』でルカ・トゥリンにカレー呼ばわりされるのもわかる。わたしは嫌いじゃないよ。

Myths Man EDP – Amouage(オマーン)-
熟れすぎた蜜柑と苦い土。Lushの何かに似てる。重めのパウダリーになる。

酢つぱし | 俳句さんに似合う香水を見つけてあげる(2)

Image by marijana1 from Pixabay

香水を誰かにすすめたい気持ちをこじらせた香水初心者が俳句に似合いそうな香水を探してくる企画の第2回です。
香りの登場する俳句ということで、本日はこちらの俳句さんにぴったりの香水を探しにいきますよ。

夏みかん酢つぱしいまさら純潔など 鈴木しづ子

この句って内容的には

夏みかん 酢つぱし / いまさら 純潔など
5 4 / 4 6

と真ん中でズバッと切れてるんですよね。
まるで指に力を込めて果実を二つに割ったようなパワフルさがあります。
こんなふうに真ん中でズバッと切れる句を中間切れと呼んだりしますが、さらに字あまりもしているので、元気に暴れてる感じがする。

「酢つぱし」という表記もすごいですね。普通は「酸つぱし」と書くけど、「酢」という字をあてることで酸味が強調されてる。

この記事を書くにあたり夏みかん実物を取り寄せようとしましたが季節商品のため叶いませんでした(現在7月)。
そうだった。夏みかんは夏と言いながら春の季語なんだった。
夏みかんの収穫期は春です。
そんなわけで夏みかんの味がよくわからないまま「超すっぱいらしい」というぼんやりとしたイメージで突き進ませていただきます。
(来年夏みかんを入手して答え合わせするからね……!)

さて「いまさら純潔など」について。
省略された部分を補うならば、
「いまさら純潔なんて守っていられるか」
だろうか。
俳句の言葉を借りながら2020年に生きるわたしが言うならもう一歩踏み込んで、
「いまさら純潔なんて馬鹿げたこと言うやつまじファ●ク」
と、その「純潔」って価値観そのものを否定するかな。

この句が作られた当時(第二句集『指環』出版は1952年)は終戦後の混乱期。
「純潔」を叩きつけるように否定しなければいけないほど「純潔」が問題になる状況で、かといって「純潔」にこだわっていては死にかねなくて、力づくで奪われる「純潔」もあり、世間が「純潔」と呼んでいるものに面と向かってNOをつきつけるにはハートの強さ、高潔さが必要だったことだろう。

マッド・マックス 怒りのデス・ロードの妻たちのようにこう言いたくなる。

WE ARE NOT THINGS(あたしたちはモノじゃない)

というわけで、やっと香水の登場です。
今回は「夏みかん」にちなんで柑橘類の存在感があり、世間と戦う女性にぴったりの香りをおすすめしたいと思います。

注:本記事ではトップノート・ミドルノート・ベースノートに関してFragranticaを参考にしています。

べらんめえ! – アンセンス・アサクサ EDP –

Encens Asakusa EDP

ブランド:オーケストラパルファム

トップノート:インセンス(=お香)
ミドルノート:アイリス
ベースノート:ムスク

ブランド公式サイトの記述によると、メインノートとしてオリバナムインセンス(教会のお香)、ピンクベリーズ(って何?)、サイプレス(ひのき)、アイリス(日本ぽく言えば菖蒲)、ヴァイオレット(すみれ)、ミルラ(これもお香。ミイラ作るときも使うやつ)、ホワイトムスク(石鹸っぽい)。

「お香(アンセンス) / 浅草」と言われたら、浅草寺の境内に立ち込める線香の煙をイメージするのではないだろうか。
ところがどっこい、その予想は鮮やかに裏切られるんだな。

最初に飛び出してくるのがめちゃくちゃフレッシュな柑橘!

でもほら、上の香料見てもシトラスともレモンともグレープフルーツとも書いてないでしょ。
公式の画像にはピンクペッパーとかホタルブクロの仲間っぽいピンクの花が載ってるから、そこらへんがこの柑橘っぽさを出しているの? それともリストに載ってないだけで実は柑橘が入ってるの? この酸味はどこから来てるの? わからん。香水初心者には難しい。
でも信じて。柑橘(らしきもの)ほんとにいるんだもん。
で、その柑橘(っぽさ)と同時にスパイスも爆発してて、江戸っ子が啖呵を切るような威勢の良さを感じるんだ。
鮮烈なトップノート、酢つぱしさんもきっと気にいるはず。
ミドルノート以降はスパイシーさを残しつつ、アイリスのおしろいっぽさとムスクの石鹸ぽさで凪いでいく。
一貫して線香の煙の匂いではないんだけど、お香といえばお香。火をつける前の線香や粉末の塗香に似てるかも。

オーケストラパルファムは楽器からインスピレーションを受けた調香師が香水を作り、それをミュージシャンが音として解釈して演奏するという、コンテンポラリーアート的手法を取っているブランド。
YouTubeチャンネルから各香水のために制作された曲やミュージシャンのインタビューが試聴できるようになっており、この香水の場合は日本の琴奏者日原史絵氏が演奏を寄せています
たしかにトップノートの謎の柑橘爆発は琴の高音のキーン! とした感じに近いかもしれない。

シャワーのように浴びたい柑橘 – 4711 アクアコロニア –

4711 アクアコロニア
ピンクペッパー & グレープフルーツ

ブランド:4711

ノート:ピンクペッパー、グレープフルーツ ※時間経過による変化なし

ドンキで投げ売りされていたらすぐにお迎えするべきオーデコロン。
(わたしが買ったときは50mlが500円になっていました。)

アクアコロニアシリーズは絶世の美女になった気がしたり、戦闘力が高まったりするタイプの香水ではない。
そのかわり、肩こりや筋肉痛に塗る軟膏のように、気持ちをほぐしてリフレッシュさせてくれるものです。

酢つぱしさん、あなた世間に対して怒りを持っているはずだ。
その怒りにまかせてスプレーを押しまくってほしい。
そしてこのオーデコロンを全身に浴びてくれ。
酢つぱい! 酢つぱきもちいい!
ヒュー!
よし、ついでに冷えたビール飲んじゃお。
それからマイクロビーズ入りのソファに倒れ込んでネットフリックスで海外ドラマとか見るといいよ。

4711アクアコロニア、名前の通りオーデコロンなので、持続性も拡散性もありません。(香料の濃度で言うとパルファン>オーデパルファン>オードトワレ>オーデコロン)
同じシリーズのブラッドオレンジ & バジルは香りがもうすこし強め。でも甘すぎないオレンジ。どちらも愛用中です。
最初はいちばん小さいサイズを試して、気に入ったら大瓶を取り寄せるといいよ。
(なおこの系統が好きでもうちょっと贅沢に自分をもてなしたい方はゲランのアクアアレゴリアシリーズから何かお迎えすると幸せになれると思います。)

不潔ですが何か? – ダーティ レモン EDP –

DIRTY LEMON EDP
ブランド:ヘレティック・パルファム

トップノート:レモン、ベルガモット、ライム、シトラスリーフ
ミドルノート:ジュニパー、ブラックペッパー、イランイラン
ベースノート:パチュリ、オーストラリアンサンダルウッド
ブランド公式サイトに示されているメインノートはレモン、イランイラン、ブラックペッパー

ごめん、実はこれ試してない。
ムエット(試香紙)すら嗅いでないんだ。
でもコンセプトと広告ビジュアルがおもしろいからブラインドレコメンドしちゃう。
(香水沼界隈では香水を試さずにいきなり購入することを “ブラインド買い” “blind buy” と呼びます。)

ダーティレモンは「純潔」とかそういう次元じゃない、セックスがあっけらかんと受け入れられる世界の商品だ。
こちらの画像をごらんください。


Artist: Tony Futura | Instagram

乳房に見立てられたレモン。
片方の「乳首」に飾られたボディピアス。
明るくてエロティックでユーモラスなこのイメージは Tony Futura というベルリンに拠点を置くアーティストによるもの。
アメリカ(ヘレティックはアメリカのブランドです。)に比べたら日本はそうでもないとはいえ、セックスは昔ほど後ろ暗くないんだよね。
したいときにしたい相手とセックスすることも望まないセックスを拒否することも女性の(人間の)当然の権利だ。
それを認めさせるための戦いはいまもまだ続いているけど、少なくとも1952年から言えばいくらかましになってるとわたしは思う。だから、こう言うと失礼かもしれないけど、酢つぱしさんの作者、鈴木しづ子さんの俳句は現代の基準から言えばたいして大胆でもスキャンダラスでもないんだ。

裸か身や股の血脈あをく引き
情慾や乱雲とみにかたち変へ
娼婦またよきか熟れたる柿食(た)うぶ
コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ
遊郭へ此の道つづく月の照り

鈴木しづ子『夏みかん酢つぱしいまさら純潔など』(2009)より引用

師・松村巨湫の跋文なども含めて鈴木しづ子の句集を読むと、当時の基準でのスキャンダラスな演出(あえて物議を醸しそうな句を積極的に採用したような選句、ストーリーの成り立つような構成)を狙った形跡と、役割を演じる痛みを受け取らずにはいられない。搾取だよなーとか他人の人生の消費だよなーとか感じてしまって無邪気には楽しめない。

夏みかん酢つぱしいまさら純潔など

「純潔」っていう言葉は古臭い。
現代ではセックスした経験がないことを「純潔」って呼んで特別視しなくてもいいの。
セックスしたことで汚れるわけじゃない。
レイプもセックスワークもあなたを汚しはしない。
セックスしたくなければしなくていい。しない権利がある。
処女をほしがる奴は女を人間として見ていない。

酢つぱしさんは自分の古風なところについてどう思いますか。
個人的には、世の中が前に進んで自分が古びて見えるのは自分の手柄だと思うようにしてるよ。
微力ながらわたしがじたばた抵抗した成果がいくらか出たのだと。
だから酢つぱしさんもそう思うといいんじゃないだろうか。(いや、わたしなんかに言われなくてもあなたのほうがよっぽど影響力大きいけどさ。)
あと、このブランドのビジュアルのセンス自体も一昔前のSMカルチャーのパロディみたいな雰囲気を感じるから、ひょっとしたらいまの10代20代が見たら古臭いと思うのかもしれない。

結論

今回はどれが一番おすすめというより用途別です。
戦いに際して景気付けに2〜3プッシュいってほしいのはアンセンス・アサクサ。
風呂上がりに今日も生存お疲れ様〜! と5プッシュ〜10プッシュいっときたいのは4711アクアコロニア。
ダーティレモンは世の中かわったなぁ、というのを感じてもらえるかと思って。

自分を大切にして、パワーを回復して、それからまた世間に回し蹴りをくらわしましょう!

その他これから試したい柑橘系の香り

ユー オア サムワン ライク ユー | エタ リーブル ド オランジェ …こちらはフランスのブランドだけど、ヘレティックパルファムに近いヴァイブスを感じる。
グレープフルーツコロン | ジョー マローン ロンドン …試香紙で試した感じだとローズマリーが効いていてアロマティック。薬草っぽい癒しの柑橘。今度は肌に乗せたい。
レプリカ EDT アンダー ザ レモンツリー | メゾン マルジェラ フレグランス …特定の場所・特定の時刻の情景をイメージして香りを構成したレプリカオードトワレコレクションのうちの1本。シリーズの中では「レイジーサンデーモーニング」が人気らしい。10mlボトルがあるらしいじゃないですか。ほほう……。

<おまけ>
鈴木しづ子についての情報はKAWADE道の手帖の『鈴木しづ子』という本にざっくりまとまっているのですが、鈴木しづ子は「娼婦」だったという説に関して、その説を否定する立場で批評している文章もセックスワーカーへの差別意識にまみれたものが多く、ぶっちゃけ見るに堪えない。
救いをもたらしているのは雨宮処凛さんの文章なので気になる人はそこから読んで「あ、無理っぽいな」と思ったら放り出すのがいいと思う。わたしは全部読むのは諦めました。