むき出しのうなじが寒い

久しぶりに「らんまん句会」をお休みしました。
(前回はすべりこみで座るだけ座った。)
 
用事があったこともあったのですが、今回は主にリフレッシュ休暇です。

「道標」五月号きました。(現代詩のじゃないよ。俳句のだよ)
道標はほんのり赤くてアットホーム。
まるで某バイト先にいるみたいです。
新人特別作品として拙作を掲載していただいてます。
望月たけしさんが「空から十七文字へ ─石原ユキオ着水─」という文章を書いてくださってます。
ぎゃぼ。恐縮です。
 

今日もかやこちゃんは。

かやこちゃんはいくつも年上だがわたしの中ではかやこちゃんなのだ。かやこちゃんはいつもひらひらしている。ひらひらしていることと厳しく誠実なことを表面上であれ両立させているかやこちゃんは驚異だ。かやこちゃんは決して自分ではお茶を煎れない。かならずわたしに入れてって言う。甘えたいのだな、と思って煎れてあげる。ちがうんだけど、甘えたいのだな、と思いながら煎れてあげるのはきもちよい。かやこちゃんは管理職だから、ひらひらで管理職なことは並大抵ではないから、なめられない工夫のひとつとして、お茶を煎れなかったり、机の上を整理整頓しすぎないようにしている。かやこちゃんをかやこちゃんと呼んだ男が左遷されたのは数年前。まだわたしの机の上にグラムロックな輝きを放つ穴開けパンチが鎮座する前の話だ。リプレイス屋さんの落としていったものと思しきクリップで書類を挟んでかやこちゃんに渡したら、「私物の使わぁでもクリップのーなったらアスクルしてえーけん」と言われた。リプレイス屋さんの落とし物です、と言ったら「そーなん」といかにも興味なさげだった。今日のひらひらは、ミニスカートの上に少し長いすけすけのひらひらがかぶったみたいなデザインでちょいマーメイドめなラインが悩ましい。かやこちゃんはいいにおいがする。足を組み替える度に、資料の山に手を伸ばす度に、小さなお花の形をした分子が空気中をくるくる舞う。それがアルコールのにおいをごまかすためだと気付いているのは社内広しといえどもわたしひとり、だといいな、と、手渡しついでにかやこちゃんの指にちょっと触れてから自分の机に戻るわたしなのだった。

普通に普通

放射性廃棄物と呼ばれたいのか、ミリオンダラーベイビーと呼ばれたいのか、いまいち方向性が定まっていない石原です。こんばんは。
今日は久しぶりに、普通に普通の日記を書こうと思います。
 
「赤目四十八瀧心中未遂」、ものっすごく面白かったです。とってもエンタテイメントだったです。それは誇張しすぎだろう、っていうところも含めて好きです。どういうお話かというと、ボロアパートの一室で臓物をさばいて串に刺す仕事をしている男が語り手で、そのアパートは売春宿になってたり彫師と息子と超絶美人の愛人が暮らしてたりして、尻の穴から油が垂れる日々なのです。よくわかりませんね。読んでください。かなり手に汗にぎりました。やくざ映画の好きな方にもおすすめできます。ジャパニーズホラーが好きな方にも、つげ義春が好きな方にもおすすめです。
 
最近バイト先のPCと複合機が新しくなったわけですが、まだ使い方がよくわかりません。東京に白紙のFAXを何枚か送りました。電話がかかってきたので謝りました。送るべき書類がちゃんと送れているかどうかは確かめておりません。大丈夫です。山より大きい猪は出ません。マイペンライ。
 
置き薬屋さんが新人研修らしくて、薬箱置かせてくださいって来られました。研修つらそうだな。置き薬のお兄さんはなんでみんな男前なの? なんでみんなおにい系なの? 陥落(=置かせてあげる)寸前でした。
 
詩人です、現代詩書いてます、というハッタリをやめたのはやはり正解だったと思います。
 
オンラインゲームにちょっとハマりそうになっています。荒廃した東京が舞台の某ゲームで挙動不審な「みかちゃん(仮)」がいたら私かもしれません。苦戦していたら助けてあげてください。
 
第二回週刊俳句賞、私は谷雄介さんの作品を選んでたんだな。芸達者な人に対して「上手い人より云々」ってコメントしちゃった。。。。

冬萌え。

暖房やあなたは紐の多い服
 
おじさんは生きてって言う冬の蝶
 
朝礼の真中を進め砕氷船
 
冬眠や父は微妙に膨らんで
 
着ぐるみの覗き穴から初景色
 
袖口がほんのり臭い春隣
 
妹の傘に傘の絵春浅し

黒鳥 春季号(平成20年4月1日発行)掲載

花粉とエレクトロニカ

 ガラスに頭をもたせかけて、片目を掻きむしりながら、片目で地面を見ていました。
 センターラインに規則正しく並ぶ粒が、対向車のヘッドライトに照らされる。凸にも凹にも見えるけどたぶん凸なんだろう。
 車体の振動が響く頭蓋、右から左へ、左から右へ、電子音が行き来し、小刻みに歯が震え、一つにつながり、溢れ、その一部は鼻水と一緒に小さく漏れる。客はここに一人だ。一番後ろの長いシートに座っている。運転手は律儀に停留所を知らせる。その声はNHKの再放送か何かに出ていた劇作家のなんとか氏に似ている。なんとか氏は若くして亡くなった人で、顔は思い出せるのだけど名前は思い出せない。運転手の後ろに掲げられたとまります標示の上には「故障中」の紙が貼られている。
 
 花見でした。アサヒスーパードライのサーバーを担いだもう若くない茶色い髪の男たちが、若い娘を見つけてはビールを飲ませていました。それはアサヒのキャンペーンなのか、それとも新手のナンパなのか、彼らの身なりから考えるとキャバクラ嬢のスカウトでもしそうだが、まさか花見にスカウトもあるまい、いや、このご時世だから、あるいは。
 
 次は、池の内、池の内です。
 
 向いていない、というのが慣れの問題だとしたら、慣れる前に人生が終わってしまう人もいて、慣れるまでにどれほどの時間がかかるかということを適性と呼ばざるを得ないと思うので、あなたは人間であることに向いていない、少なくともおとなであることに向いていない、明日からペンギン村で三輪車をこいで暮らしなさい、誰かがそう言ってくれるといい。
 ICカードをかざして、会釈をして、バスを降りた。

三谷と花粉症の復讐

PCの入れ替え作業をした、髪の固そうな、色白の、口元の幼い、剥げた靴、あまり高そうでないスーツ、眼鏡、伏し目、びっしりと睫毛。三谷は結局まだこの机の下にもぐっていて、太股のあたりに三谷の頭が揺れている。かぶっている。ぶつかっていない。通り抜ける。オンラインゲームでキャラクターが二人同じ場所にいる状態。三谷はせわしなく動く。脂肪の乗りすぎた丸い膝から三谷の睫毛が見え隠れする。立ち上がった三谷、スヌーピーの絵のついたマグカップでコーヒーを飲む部長を通り抜けて複合機の前へ行く。戻ってくる。また膝に潜る。三谷はNPCですか、MOBですか、MOBならnon-activeですか、activeならとても嬉しい、覚えたての専門用語で、ここに見え隠れする三谷を、私は見極めたい。昼休みにかかってきた電話は「石原さん、映画に出られたんですね、きっかけは? ああ、なるほど、観に行きますからね、試写会みたいなのはもう、3月に? そうですか、これからは肩書きに女優って書けますね、いろいろあると思いますが、家元もお年だから、よく冗談でおっしゃるけど、あと数年と覚悟されてます、石原さん、どうかお華はやめないで、頑張って、続けてくださいね、絵の方もね、大作にどんどん挑んだらいいと思うし、頑張って、」。私が三谷を増やすように石原を増やす人がいる。石原の立派なところは元の三谷と増やした三谷の区別がつくところ。元の三谷がここに現れたら、きっとすぐにわかる。石原は偉いよ、ほめてよ、三谷。NPCかMOBの三谷。きっとPCじゃない三谷。
 
新品のキーボードは私の打つ日本語をいちいち押し返す。限りなく拒絶に近い弾力。

去りゆく三谷と花粉症

花粉症らしき症状はいつの間にか治まってしまった。ただの風邪だったのかもしれないし、甜茶をバスタブぐらいの量飲んだからそれでかもしれない。新年度である。新しい上司が真ん前に座っていて、三谷がリプレイスしたPCは元気よく動いている。三谷たちが去った後、私の机の周りにいくつか落ちていたものがあった。その一。水色で透明、何かのキャップらしきもの。長さおよそ3センチ、幅およそ8ミリ、厚さおよそ3ミリ。スーパーボールと同じような素材でできていると思われる。その二。およそ1センチ角の黒いゴム状のもの。PC本体、おそらく床に接する部分についていたのだろう。その三。プラスチック製のクリップ。ばね式のクリップではなく、ゼムクリップ状。きれいな黄緑色。PCのデータを入れ替えたりLANケーブルを引きまわしたりする仕事のどこかでこんなビビッドな文房具が必要になってくるのだろうか、それともただの趣味か、あるいはずっと前、私の前にここで働いていた若い女性が落として、PCの下に入り込んでそのままになっていたのか。その四。数字を書いたメモ。ピンク色の大判のふせんにゲルインクのボールペンで「19」。19は私の誕生日だ。土手の桜は七分咲きといったところ。肉の焦げるにおいがただよってくる。三谷、三谷、三谷って呼びかけたけど、三谷はもういい。ごめんね、三谷。私の中で三谷を増やして、見渡す限りの三谷だらけにして、三谷という三谷を飼い馴らして、撫で回して、噛みつかれて、噛みつかせて、涎とか鼻水とかいっぱいぐじゅぐじゅにしたから、もういいんだ。三谷っていう潮はもう引いてくれていいんだ。三谷っていう季節は過ぎてくれていいんだ。三谷っていう書類はシュレッダーにかけてもらってかまわないんだ。ずぶぬれの三谷、ありがとう。傷だらけの三谷、ありがとう。血だらけの三谷、ありがとう。骨が見えてる三谷、なんか引きずってる三谷、真っ黒な三谷、ありがとう。三谷の焼けるのをいっぱい吸い込んで、三谷の散るのを見て、三谷がこけて三谷に叱られる、三谷に溺れる三谷を救助する三谷。大音響で通り過ぎる三谷を掲げた三谷のアジテーションも、もういいよ、三谷。

粗野、小火。

鳥雲にアイロン崖下ルーデンス

キュビズム芽キャベツ脅迫的求婚

ずんべらぼんで維持する牢獄や朧

暴飲暴贖罪四温にじむ産婆だ

母音なる子音やしかとかぎろえり

ふり返る花曇りるるぶれ茶筒

金堂む海市求むる涙・情・恨

胸々しき野仏や艶、粗野、小火や

下血に菫ほどほどにしときなれ

黒潮や老体りくらぶれどベンツ逆突

銀山雪崩る唐獅子ボンビージャ

早春やぷぬりぽんぱるぺろみバス

馬並の鈴生りのほにゅうびん春蚊

茫洋タルタルす定期地獄の刑期

坂咲く枕木るど凡そわ乎

妙薬の切れ目微動だに卒塔婆

蟲(笑)

萵苣や繁茂墳墓独房の孤児

V%V V%V V%V

仔猫にギャル語ろくすっぽんたる革靴
 
 
第17回「大朗読」(2008年3月22日)にて
ウロボロス高校第三演劇部として朗読

何人も我をキャッシュする勿れ

二段重ねのそれはもうどうにもこうにもお花見弁当なのでありました。明らかに着色されている蕗のビビッドなグリーン。三色のあられ状のものがまぶされた海老の天ぷら。菜の花の瑞々しく濃厚な涙が出る味付け。それらの上に散らされている薄いもの。それはれんこんだかなんだかよくわからない白っぽい切片のぐるりがピンク色で桜の花びらをかたどっているのでした。
 
 
おとなになると自分のお金では食べられないものを食べることができます。
食べることができるときには、食べないことはできません。
 
これは学舎を巣立って行かれるみなさんには是非知っておいていただきたいことです。
 
 
大学からパンフレットに出ませんかという連絡が来たりするのですが、卒業後定職につかずふらふらしている、それも夢やら目標やらがあって定職につかないのではなく、ややこしい仕事をしたくないから定職につかない、フリーターなのでわりかし余る時間がある、暇があるので俳人や詩人のまねごとをしてみる、まねごとをしているうちにそっちの用事が増える、用事が増えるので就職活動する気がなくなる、以下無限ループという状況に陥っている人間ですので、ロールモデルだとかカタログの商品写真だとかにはめっぽう向かないように思います。正直に書いてもらえればいいですが、私がさも立派な人のように脚色されるのは不本意ですので、ありのままをお話して判断していただこうと思います。
 
 
山桜が咲いていました。
咲いたそばから散っていました。
はかないです、弱いです、がんばってます、きれいです、みたいな。そういうのは嫌いです。
ソメイヨシノの、しぶとく図々しい感じも嫌いです。
花見という行為のどこかにひとかけらの風流さでもあるのなら……いや、そもそも風流というのが図々しいのではないですか。
嫌いだ。捨てたい。こんな身体、どこかに捨てたい。それを発情期と名付けて、啼いて、産むことのカタルシスは知らない、知りたくない、何も残したくない、残す価値もないのはあんたらのほうだ、ひとりよがりなあてつけ、何人も我をキャッシュする勿れ、きっと通じない、赤い紐を引きずる、泥にまみれて、爪がにじむまで畳を、仮想のDドライブ奥深く、昔々あるところに女優になりたい少女がいました、彼女の母親がかつて舞台に立っていたから、顔を知らない父親、演出家なのだと聞かされていたから、どこからが作り話で、君のために書いた役だなんて誰にでも、やりたいあなたと傷つくのが趣味の、ご利用ください、お気をつけてご利用ください、自己責任でご利用ください、報われぬかすばかり吹きだまっている、この春の闇に、山桜が咲いていました、咲いたそばから散っていました、自分の物ではない掌で確実に効率よくお願いしたい、お互い様です、お世話様です、何卒お願い申し上げます、どうか。