花粉とエレクトロニカ

 ガラスに頭をもたせかけて、片目を掻きむしりながら、片目で地面を見ていました。
 センターラインに規則正しく並ぶ粒が、対向車のヘッドライトに照らされる。凸にも凹にも見えるけどたぶん凸なんだろう。
 車体の振動が響く頭蓋、右から左へ、左から右へ、電子音が行き来し、小刻みに歯が震え、一つにつながり、溢れ、その一部は鼻水と一緒に小さく漏れる。客はここに一人だ。一番後ろの長いシートに座っている。運転手は律儀に停留所を知らせる。その声はNHKの再放送か何かに出ていた劇作家のなんとか氏に似ている。なんとか氏は若くして亡くなった人で、顔は思い出せるのだけど名前は思い出せない。運転手の後ろに掲げられたとまります標示の上には「故障中」の紙が貼られている。
 
 花見でした。アサヒスーパードライのサーバーを担いだもう若くない茶色い髪の男たちが、若い娘を見つけてはビールを飲ませていました。それはアサヒのキャンペーンなのか、それとも新手のナンパなのか、彼らの身なりから考えるとキャバクラ嬢のスカウトでもしそうだが、まさか花見にスカウトもあるまい、いや、このご時世だから、あるいは。
 
 次は、池の内、池の内です。
 
 向いていない、というのが慣れの問題だとしたら、慣れる前に人生が終わってしまう人もいて、慣れるまでにどれほどの時間がかかるかということを適性と呼ばざるを得ないと思うので、あなたは人間であることに向いていない、少なくともおとなであることに向いていない、明日からペンギン村で三輪車をこいで暮らしなさい、誰かがそう言ってくれるといい。
 ICカードをかざして、会釈をして、バスを降りた。

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