三谷と花粉症の復讐

PCの入れ替え作業をした、髪の固そうな、色白の、口元の幼い、剥げた靴、あまり高そうでないスーツ、眼鏡、伏し目、びっしりと睫毛。三谷は結局まだこの机の下にもぐっていて、太股のあたりに三谷の頭が揺れている。かぶっている。ぶつかっていない。通り抜ける。オンラインゲームでキャラクターが二人同じ場所にいる状態。三谷はせわしなく動く。脂肪の乗りすぎた丸い膝から三谷の睫毛が見え隠れする。立ち上がった三谷、スヌーピーの絵のついたマグカップでコーヒーを飲む部長を通り抜けて複合機の前へ行く。戻ってくる。また膝に潜る。三谷はNPCですか、MOBですか、MOBならnon-activeですか、activeならとても嬉しい、覚えたての専門用語で、ここに見え隠れする三谷を、私は見極めたい。昼休みにかかってきた電話は「石原さん、映画に出られたんですね、きっかけは? ああ、なるほど、観に行きますからね、試写会みたいなのはもう、3月に? そうですか、これからは肩書きに女優って書けますね、いろいろあると思いますが、家元もお年だから、よく冗談でおっしゃるけど、あと数年と覚悟されてます、石原さん、どうかお華はやめないで、頑張って、続けてくださいね、絵の方もね、大作にどんどん挑んだらいいと思うし、頑張って、」。私が三谷を増やすように石原を増やす人がいる。石原の立派なところは元の三谷と増やした三谷の区別がつくところ。元の三谷がここに現れたら、きっとすぐにわかる。石原は偉いよ、ほめてよ、三谷。NPCかMOBの三谷。きっとPCじゃない三谷。
 
新品のキーボードは私の打つ日本語をいちいち押し返す。限りなく拒絶に近い弾力。

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