かやこちゃんはいくつも年上だがわたしの中ではかやこちゃんなのだ。かやこちゃんはいつもひらひらしている。ひらひらしていることと厳しく誠実なことを表面上であれ両立させているかやこちゃんは驚異だ。かやこちゃんは決して自分ではお茶を煎れない。かならずわたしに入れてって言う。甘えたいのだな、と思って煎れてあげる。ちがうんだけど、甘えたいのだな、と思いながら煎れてあげるのはきもちよい。かやこちゃんは管理職だから、ひらひらで管理職なことは並大抵ではないから、なめられない工夫のひとつとして、お茶を煎れなかったり、机の上を整理整頓しすぎないようにしている。かやこちゃんをかやこちゃんと呼んだ男が左遷されたのは数年前。まだわたしの机の上にグラムロックな輝きを放つ穴開けパンチが鎮座する前の話だ。リプレイス屋さんの落としていったものと思しきクリップで書類を挟んでかやこちゃんに渡したら、「私物の使わぁでもクリップのーなったらアスクルしてえーけん」と言われた。リプレイス屋さんの落とし物です、と言ったら「そーなん」といかにも興味なさげだった。今日のひらひらは、ミニスカートの上に少し長いすけすけのひらひらがかぶったみたいなデザインでちょいマーメイドめなラインが悩ましい。かやこちゃんはいいにおいがする。足を組み替える度に、資料の山に手を伸ばす度に、小さなお花の形をした分子が空気中をくるくる舞う。それがアルコールのにおいをごまかすためだと気付いているのは社内広しといえどもわたしひとり、だといいな、と、手渡しついでにかやこちゃんの指にちょっと触れてから自分の机に戻るわたしなのだった。
今日もかやこちゃんは。
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