日記」カテゴリーアーカイブ

初夢の母がガメラを噛み潰す

水滴のひとつひとつが笑っている顔だ    顕信

 この句を見ていると、太宰を思い出す。「葉」の最後の部分だ。

生活。

よい仕事をしたあとで
一杯のお茶をすする
お茶のあぶくに
きれいな私の顔が
いくつもいくつも
うつっているのさ

どうにか、なる。

 顕信の描いた「笑っている顔」は擬人化された水滴の顔なのだろうか。それとも、太宰の様に、映り込んだ自分の顔を見ているのだろうか。
 スパークリングワインはたいして冷えてもいないし、外気は冷えまくっているから、ボトルは結露しない。街灯にボトルをかざしてあぶくを観察しようとするけれど、私の顔を映すにはあまりにも小さな泡だ。
 乾杯のつもりで句碑にボトルをぶつけて、残りを一気に飲み干した。

 初詣に向かう酔客の間から、懐かしい都々逸が聞こえてくる。

渡る京橋中橋小橋
ほんに切ない恋の橋

阿部サダヲ -5-

コトバラジオのブログ

先日出演させていただいたコトバラジオ。
※収録の様子その1 [1] その2 [2]
いつの間にかブログができたようです。

http://kotobaradio.blog99.fc2.com/ [3]

昌美ちゃんはいいとして(っつかマジかわいいな昌美ちゃん!!)、スギさん、その写真は。。。いや、カッコいいのはいいけどさぁぁぁ。。。

私はある時期までスギさんは貴族だと思ってたんですよ。(←太宰治的な意味で。)
その次は、ある人から吹き込まれたガセネタで、八百屋なんだと思ってました。
でも本当は建築屋さんの社員さん。

見 え ま せ ん 。

[1] http://www.d-mc.ne.jp/blog/575/?p=70
[2] http://www.d-mc.ne.jp/blog/575/?p=77
[3] http://kotobaradio.blog99.fc2.com/

ほっぺたのにきびをつぶす初鏡

 十二月三十一日。プレミアムビールの推奨販売(いわゆるマネキンさん)のバイトを終えた後、倉敷のライブハウスへ向かった。
 幼馴染みにベース弾きの彼氏ができたというので、さーてお手並み拝見という多少意地の悪いノリで聴きに行ったのである。
 彼氏さんは上手だったような気もするし、リズム感が悪かったような気もする。とりあえず人口密度の高さと音のデカさは格別で、空きっ腹にZIMAを叩き込んで、機嫌良く頭を振った。
 ライブハウスを出て、電車に乗って、岡山駅で降りて、桃太郎大通りを歩いたのだったか。路面電車の線路に沿って進み、コンビニでスパークリングワインを一本買った。どこかで除夜の鐘が響いている、と思ったのは気のせいで轟音の後遺症かもしれなかった。県庁から妙にクリアに流れてきた「蛍の光」で、年が変わったことを知った。
 アルコールの作用で、頬が熱い。夜風を額に心地よく受けて、そのまま京橋まで歩く。
阿部サダヲ -4-

涙目で火事を見ている阿部サダヲ

お坊さんになりたい。
お医者さんになりたい。
宝塚の男役になりたい。
幼稚園の先生になりたい。
漫画家になりたい。
イラストレーターになりたい。
コピーライターになりたい。
お嫁さんになりたい。
お嫁さんになるぐらいなら風俗嬢になりたい。

うだうだ考えている内に、何者かにならざるを得ない歳になったわけだが、私はまだ何者にもなっていない。
「大きくなったら何になりたいの」
と訊ねられた幼稚園児が、
「フリーターっすかね」
と半笑いで答えたら面白い。
阿部サダヲ -3-

闇鍋や阿部定を呼んだのは誰だ

「阿部サダヲ」解説       鈴木さろ女
年下の夫に穿かす白タイツ

「年下の夫」が年上の妻の趣味で白タイツを穿かされている、という景。
 ダンサーでもないおとなの男が白タイツなんて滑稽で無様。ほとんど虐待である。
 白タイツから季感を受け取って、幼稚園児が穿くような分厚い防寒用の白タイツをイメージするのもいい。すると「年下の夫」とは幼い息子のメタファーとして読むことができる。
 ユキオの彼氏はかわいそう、と彼女の作品を読んだ人は皆口にするけど、この句も相当にかわいそうだと思う。

闇鍋や阿部定を呼んだのは誰だ

 エログロナンセンスってやつ? 闇鍋の席に阿部定さんがいるなんて、鍋の中身は想像するだに恐ろしい。
 切れ字の「や」の前後でスッパリと切れていないところが、俳句の形態として美しくない。けどまぁ、その具もスッパリ切れずぐちゃぐちゃっとなってるんだろうから許します。
 ところで「愛のコリーダ」観た? 腐女子向け美少年映画で大島渚を知ったつもりになっちゃあいけねぇよ。

涙目で火事を見ている阿部サダヲ

 先日送られてきた「黒鳥」、「阿部サダヲは劇団大人計画の俳優でミュージシャン」ってちゃんと注が付いていて相当ウケた。
 阿部サダヲが涙目で火事を見ている理由は、読者の想像に任されている。言わば、読者が脚本家・宮藤官九郎なのである。
 私ならばどうするか? ウチが阿部サダヲ氏に客演してもらえる日までのお楽しみです。

ほっぺたのにきびをつぶす初鏡

 お正月の朝に顔を洗って鏡を見て、ほっぺたにできたにきびをつぶす。たしかに年末年始は食事が不規則になって、肌荒れは起きやすいけれど。
 めでたくもない、華やかでもない、日常の続きとしての正月風景。時代の気分には合ってるんじゃないかと思う。

初夢の母がガメラを噛み潰す

 巨大化した母が、怪獣ガメラをこともなく指先でつまんで口に放り込む。母は偉大だ。巨大だ。被害甚大だ。苦虫を噛み潰したような顔がこっちを向いた瞬間、わあっと声を上げて飛び起きる。
 どことなく息子が母を詠んだ句、という印象を受ける。
 それにしてもユキオさん、あなた「つぶす」のが好きね。

恋愛に逃げ場はないぜ貼るカイロ

 制服の下に貼られたカイロだ。授業中に温度が高くなりすぎて、なんとか位置をずらそうとするのだが上手くいかない。
 付き合い始めたばかりの彼氏は一時間に二三通のペースでメールしてくる。うざい。

節分の赤信号に照らされる

 真夜中の車道を歩く男。赤信号が点滅して男の顔を、Yシャツの襟を、おみやげしばりした寿司の箱を照らす。追い払われた鬼たちが、ビルの陰に逃げ込む夜だ。家の中に居場所が無いのは男とて同じこと。
 赤信号は作中人物の不安や危機的状況の象徴だろう。
 朗読会では、踊り子に手を引かれて舞台の上に上げられてしまった若い男の物語と組み合わせて読んだとか。

 

◆鈴木 さろ女 [Suzuki Sarojo]
岡山出身。近畿地方の某女子大五年生。(院生にあらず。)
暴力的なパフォーマンスで大学の演劇部を廃部に追い込んだ後、劇団「生首」を立ち上げ、半年に一回ペースで公演を行う。
俳句歴約三年。趣味は筋トレと生け花。
阿部サダヲ -2-

年下の夫に穿かす白タイツ

 高校の制服を着るなら必ずどこか一カ所はEAST BOYを入れたいし、EAST BOYのセーターを着るとなったら、ルーズソックスは絶対に外せない。いまどきの女子高生はルーズソックスなんか履かないんじゃ? って言う人。ルーソの女子高生全然います。残念ながら数は減ってるけど。疑問系にねじ上げる語尾が販売員と販売員の真似をする芸人の間に生きのこっている程度には健在ですって言えば感じつかめる?

 私が本物の女子高生だった頃から、校長先生は「東京ではもうルーズソックスのブームは終わっています」というデマを吹聴していた。そりゃあ先生の行った観光地では見かけなかっただろう。雷門の風神雷神がルーズソックスを履いてるって話はあまり聞かない。つか二十年前の卒業写真と同じ背広を着続けているおっさんに流行の何がわかんの。変わったのはカツラの毛の量だけ(注:先輩の先輩曰く三年前急激に増えた)じゃねえか。それより何より流行遅れだからやめろって理屈は教育者としていかがなものかと生徒たちは普通に思ってました。こっちの論理に合わせたつもりかもしれないけど、それならおっさんの論理に擦り寄ってわかりやすくお返事して差し上げよっか。あたしらは流行に流されない確固たる我を持ってるんです。だから東京で終わったルーズだからって簡単に捨てたりはできないのです、と。実際にはその当時、流行はまだ終わってなかった。下火になったと言えば下火になったのかもしれないが、定着と言ったほうがより適切だろう。紺のハイソが主流になったのは、私の高校卒業後の話である。

「実録!なでしこ学園ルーズソックス闘争」という小説を書いたことがある。原稿用紙換算で五十枚程の短編だ。ルーズソックスを禁止された女子高生たちが学園紛争を経験した女性(パン屋のおばちゃん)と出会って高校をバリケード封鎖し、教師たちに様々な要求を突きつける、というもの。未発表。教科書類と一緒に土蔵にぶち込んだんだったか。結末が、どうしても思い出せない。

阿部サダヲ -1-