「阿部サダヲ」解説 鈴木さろ女
年下の夫に穿かす白タイツ
「年下の夫」が年上の妻の趣味で白タイツを穿かされている、という景。
ダンサーでもないおとなの男が白タイツなんて滑稽で無様。ほとんど虐待である。
白タイツから季感を受け取って、幼稚園児が穿くような分厚い防寒用の白タイツをイメージするのもいい。すると「年下の夫」とは幼い息子のメタファーとして読むことができる。
ユキオの彼氏はかわいそう、と彼女の作品を読んだ人は皆口にするけど、この句も相当にかわいそうだと思う。
闇鍋や阿部定を呼んだのは誰だ
エログロナンセンスってやつ? 闇鍋の席に阿部定さんがいるなんて、鍋の中身は想像するだに恐ろしい。
切れ字の「や」の前後でスッパリと切れていないところが、俳句の形態として美しくない。けどまぁ、その具もスッパリ切れずぐちゃぐちゃっとなってるんだろうから許します。
ところで「愛のコリーダ」観た? 腐女子向け美少年映画で大島渚を知ったつもりになっちゃあいけねぇよ。
涙目で火事を見ている阿部サダヲ
先日送られてきた「黒鳥」、「阿部サダヲは劇団大人計画の俳優でミュージシャン」ってちゃんと注が付いていて相当ウケた。
阿部サダヲが涙目で火事を見ている理由は、読者の想像に任されている。言わば、読者が脚本家・宮藤官九郎なのである。
私ならばどうするか? ウチが阿部サダヲ氏に客演してもらえる日までのお楽しみです。
ほっぺたのにきびをつぶす初鏡
お正月の朝に顔を洗って鏡を見て、ほっぺたにできたにきびをつぶす。たしかに年末年始は食事が不規則になって、肌荒れは起きやすいけれど。
めでたくもない、華やかでもない、日常の続きとしての正月風景。時代の気分には合ってるんじゃないかと思う。
初夢の母がガメラを噛み潰す
巨大化した母が、怪獣ガメラをこともなく指先でつまんで口に放り込む。母は偉大だ。巨大だ。被害甚大だ。苦虫を噛み潰したような顔がこっちを向いた瞬間、わあっと声を上げて飛び起きる。
どことなく息子が母を詠んだ句、という印象を受ける。
それにしてもユキオさん、あなた「つぶす」のが好きね。
恋愛に逃げ場はないぜ貼るカイロ
制服の下に貼られたカイロだ。授業中に温度が高くなりすぎて、なんとか位置をずらそうとするのだが上手くいかない。
付き合い始めたばかりの彼氏は一時間に二三通のペースでメールしてくる。うざい。
節分の赤信号に照らされる
真夜中の車道を歩く男。赤信号が点滅して男の顔を、Yシャツの襟を、おみやげしばりした寿司の箱を照らす。追い払われた鬼たちが、ビルの陰に逃げ込む夜だ。家の中に居場所が無いのは男とて同じこと。
赤信号は作中人物の不安や危機的状況の象徴だろう。
朗読会では、踊り子に手を引かれて舞台の上に上げられてしまった若い男の物語と組み合わせて読んだとか。
◆鈴木 さろ女 [Suzuki Sarojo]
岡山出身。近畿地方の某女子大五年生。(院生にあらず。)
暴力的なパフォーマンスで大学の演劇部を廃部に追い込んだ後、劇団「生首」を立ち上げ、半年に一回ペースで公演を行う。
俳句歴約三年。趣味は筋トレと生け花。
阿部サダヲ -2-