後妻未満

後妻未満

後妻未満

永き日のテトラポッドによじのぼる
花種を蒔きたいような頭頂部
白魚のうごくかたちの胃痛かな
指先で乳化してゆく春の月
弁当のすき間につめておく寄居虫
初夏や子ら口々に「ふね」と叫ぶ
ざらめ舞いわたあめとなる温度かな
わたくしに遠慮している水鉄砲
手をつながねばお花畑は消えますよ
前妻の体温計や梅雨に入る
五月雨にすきとおるおみくじは凶
梅雨寒しパーマがかかるまで眠る
短夜は腕立て伏せをかねて愛
くちなわに吐き戻されしねずみかな
青葉若葉あけ方のわからない窓
健康サンダルはくか金魚に足あれば
涼風や本の数だけ無人島
冷房の真下でいつまでも謝罪
民法に定められたる薔薇の赤
さらやまへ毛虫を轢きにゆきましょう

逸 30号

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以前休刊のおしらせをした『逸』が帰ってきました。
目次はこちら。

逸30号目次

30号の目玉は、石原明さんの句集『ハイド氏の庭』特集。
榮猿丸さんらの鑑賞文と一緒に、gucaブログに書いた妄想掌編も掲載していただいてます♡

あ、そうそう!
憑依俳句「後妻未満」20句を寄稿してますよ!
関悦史さんによる逸30号レビューはこちら★
グロ可愛いって言われるのうれしいです!

通信販売のご案内です。

『逸』30号 頒価1000円(送料込)

(1)件名を「逸30号購入希望」としてishiharayukio@gmail.comにメールお願いします。本文にお届け先のご住所・お名前をご記入ください。

(2)ご自宅に『逸』が届きます。振込先ゆうちょ口座を書いたものを同封しておりますので、ATMなどからお振込をお願いします。
メールから一週間経っても届かなかった場合には、お手数ですが再度ご連絡ください。

ちなみに、今回の売上げは石原が逸発行人のお膝元:大阪に遊びに行く際の旅費になります。
石原に大阪の美味しいたこやきを食べさせてあげたい。
そしてまるい顔をもっとまるまるとさせてあげたい。
そんな心やさしいみなさんからのお申し込みをお待ちしております。

豚仮面

河馬の仮面の男のつぎは、豚の仮面の男が来た。
本屋へ入っていき、ガラス越しにこちらを見る。
詰め物ではなく自前の脂肪ででっぷりと肥えているようだ。
 
目が覚めて、歯を食いしばっていたことに気づく。毎朝。

バジル(動詞)

ATMのところで小学校時代の友人に会って、一緒にいた俳人Aを紹介する。
イタリアンの店に入ると、中学校時代の友人ふたりがいる。
Pちゃんが金髪になっていたのはちょっとした驚きだった。
みんなで食卓を囲む。
骨付き鳥の生ハムのピッツァってなんだろう。
財布の中には三千円ぐらいしかないけど、大丈夫かしら。
さっきATMでお金を下ろしてたのは、ここで食事するためだったのね。
もう20時だからATM使えない。
ろくに話してもいないのに時間が経つのが早い。
 
詩人のHさんたちと病院の大部屋みたいな大部屋のホテルに泊まる。
朝、カーテンを開けたらまぶしくてHさんを起こしてしまった。
クリーム色のカーテン。
外はベランダだと思うけど、明るくて真っ白で何も見えなかった。

RELOAD

ちかごろはほんとうにしょっちゅう高校の制服を着ていて目の前に本物の高校生が歩いていたりするとひやりとするものだが、他人はわたしの格好などさして気に留めてもいないものなのかもしれず。
 
河馬の仮面をかぶった恰幅のいい男。着物を着ている。近寄ってみると、恰幅がいいと見えたのはお腹まわりに詰め物をしているためらしい。手を突っ込む。掻き出す。砂がざらざらと落ちる。アスファルト色の砂だ。粒子が均一で細かいが砂鉄よりは粗い。
 
河馬男と一緒に走って逃げる。追いかけられる。なぜ追いかけられるのかよくわからない。なぜ逃げているのかわからない。物陰に身を潜めて、さっきの続きをする。残った砂をさらに掻き出すのだ。このあたりで、体型から周星馳だと気づく。
 
着いた先はバスセンター。香港へ飛べるだろうか。

ひとを殺しました

恋人に車を出してもらって、後部座席に死体。
 
当初わたしは名古屋まで、彼はさらに遠くまで行く予定だったが、わたしは高校の制服姿のままだったから、とても目立つ。殺害した女子高校生のものとカーディガンを取り替えてみるが、目立つことには大差ない。死後硬直によって彼女の腕がわたしの首にふれて動揺。そこらへんに捨てれば捕まる時期が早まるし、乗せたままでは腐り始める。結局わたしは死体を彼に押しつけ、ひとりで逃げる。
 
街角に、チンドン屋のような外国人パフォーマー。国籍も人種もさまざまであるようだ。はだけ気味の胸にいろいろな人物の顔をボタン状にペイントしてある。近隣に住む日本人の男から、この辺りにはいつも芸人がいるので、胸に描いてあるなかから気に入った顔を見つめてみるといい、と言われる。ボタン状のひとつ、歌舞伎のような顔を見つめてみると、「しらざあいってきかせやしょう――」流暢とは言いがたい日本語で語り始める。「どれも昔この国にあったものです」と日本人の男。選んだボタンによって「あかまきがみあおまきがみきまきがみ」「月月火水木金金」「はじめちょろちょろなかぱっぱ」誰も投げ銭をしないが、どうやって生計を立てているのだろう。
 
目立たない服装に着替え、ボストンバッグひとつ抱えて乗った特急列車。どこまで逃げても胸が苦しい。時効まで、あるいは残りの人生すべてを、こんな思いで過ごすのだろうか。隣の席に坊主頭の男が乗ってきて、いきなりわたしの膝に頭を乗せる。男はわたしの恋人だった。肩まであった髪をばっさり落としてきたのだ。名前を呼ぶとひとに知れるから、「おにいちゃん」と呼びかける。ごめんね、おにいちゃん、寝てていいよ、疲れたでしょう。わたしは恋人の頭を撫で、肩を撫で、巻き込んでしまったことを申し訳なく思う。
 
車掌が切符を確認するためにやってくる。手元には、昔風のパチンパチンやる鋏。前の席の家族連れの分とわたしたちの切符が混ざってしまって、分けようとしているうちにボストンバッグの中にそれが落ちた。中を見られた。乱雑に詰め込んだ衣類の間に不自然に札束が押し込んであったのだ。わたしはひとりで席を立って進行方向と逆に車両の中を移動。風呂、トイレなどがならんでいる。
 
突然甲板に出て、列車ではなく船に乗っていたことに気づく。
 

スティッキーかつディスガスティングなサムシング

 
そふとおんでまんどの世界にわたしという異物が紛れ込んでしまったのではないか。ならば申し訳ない。軽薄男にもまわりの男たちにも若いお嬢さんにも。こどもたちは死人のような顔色、土塀にうがたれた穴のような目、学校の中を走り回っている。人形劇、身体検査、賭場。非常口から外を見れば螺旋階段、たこ焼き屋やクレープ屋の雑居ビル、緑したたる山。試しに男の袖を引いてみる。現実さながらにいとも容易く手に入る。抱きしめる力はあるのに首から上になにも感じないのはなにゆえか。
 
顔が、ない。

晩夏の雪

被曝した初老の軍人ふたりが切腹する。
白い軍服だから海軍だ。
見守っていたのはそれぞれの妻。
妻たちの証言によってわたしはその様子を想像している。
これはわたしが見ている光景ではない、見たくないものは見ないことができる、腹圧ではみ出す腸や下血の様子をできるだけ見ないように、窓の方を向いている。
 
目の大きい、茶髪の、いかにも軽薄な、しかしいまどきのしゅっとしたギャル男などにはほど遠い一昔前のタイプの、温泉地にとどまっていろいろな商売に手を出している男。近頃ではJ党とK党のイベントを請け負ったりしているが、どうも虫が好かない。
男友達と温泉に行った日、たまたま軽薄男も来ており、混浴風呂が混み合っているのをいいことに手を伸ばしてくるので、はっきりした態度をとらねばと思い、局部をつかんで湯から引き上げる。それにしてもこの混浴風呂は男ばかりだ。わたし以外に来ている女といえば小さいタオルで下だけ隠した若いお嬢さん。まるでそふとおんでまんどのようだ。