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食と性

小川糸の「食堂かたつむり」を読んだ。
 
お婆ちゃんが死んで、主人公が料理が好きで、ということで「キッチン」を思い出したけど、「キッチン」よりもやや深く生きるということに触れている小説だと思った。
キッチンはたしか「料理研究家」で食堂かたつむりは「料理人」なんだよね。
 
食堂かたつむりで描かれるのは、食べることと再生産。
人間は他の生き物の命をいただいて生きているということ。
生殖するということ。
人間もまた死ぬということ。
 
濡れ場を全然書かずに、手触りのある性を描いてるとこがすごい。
おっさんの下品さが結構生々しくて、ウッとなった。
 
「ショコラ」にも似たところがあるし、
「へばの」のことも思い出した。
 

「花と姫君と悪魔のヴィヴィアン」

私の敬愛して止まない友人、月崗ヤスコ女史の受賞後第一作、「花と姫君と悪魔のヴィヴィアン」がLaLaDX11月号(白泉社)に掲載されています。

森の奥に棲む悪魔ヴィヴィアンは、その長い髪に魔力の全てを宿しています。
ある日、南の城の第三王女がヴィヴィアンの森にやってきます。
王女様はなんと、悪魔のヴィヴィアンの「お友達になりに行くの」と言うのです……。
 
髪に魔力を宿しているというアイデアは「サムソンとデリラ」、少女が自分の持ち物を分け与えていく様子はグリム童話「星の金貨」を思わせます。
途中で登場する悪いお妃様の造形も極めて童話的。
しかしながら、古い物語の単純な翻案ではなく、聖書のエピソードや童話の要素でストーリーの大枠を構築しながらも、現代的な閉塞感・孤立感・居場所のなさが描かれているように思います。(ヴィヴィアン、ひきこもり気味だしw)
 
デビュー作も、デビュー前に描かれていたものもそうですが、衣装がとにかく可愛い。
小さな女の子が本当に愛らしい。(次は小憎らしい腹黒少女キャラも是非!)
あと、細かいところで気に入ったところをあげるならば、「禁断の崖に咲く花」がとても地味な単色のパンジーみたいな姿に描かれているところがとてもよかったです。
これが薔薇や百合みたいな派手な花では陳腐だと思う。
崖に咲く花って温室に咲く花とは違うもの。
 
月崗先生、これからも応援してます★

MANO第十三号より

空席にくうせきさんがうづくまる  佐藤みさ子
 
くうせきさん。なんて存在感のあるくうせきさん。
私、くうせきさんの顔描けると思う。
くうせきさんはちょっと困り顔です。空色です。
そう言えば「Nobodyがいるよ」っていうフレーズが出てくる詩があったなぁ、と思うのですが、どこで読んだのか思い出せません。
 
 
梱包のまず手足からほどかれる  石部明
 
運ばれてきた球体間接人形だと思った。それから、仏像をイメージした。
にんげんかもしれない。
にんげんが梱包されていたのかもしれない。
いや、手で足を、あるいは足で手を、手と足を、縛った状態を梱包と呼んでいるのかもしれない。
固い手足が柔らかいもので梱包されていたのか、柔らかすぎる手足が紐のかわりに何かを縛っていたのか。どっちにしても不気味でゴスっぽくてかわいい。

おそるおそる

妊娠とか堕胎とかっぽい、内臓の奥の方が痛い気分になりそうなことが書いてあるっぽかったのでおそるおそる読んでいた「グッドモーニング」(最果タヒ氏)。中原中也賞を受賞なされたっぽい。
おそるおそる続きを読もう……。

第2次未定87号の感想 <2>

◆ 経絡/玉川 満

1ページに、たった4句。
何かの絵札が並べて置いてあるみたい。
4句しかないと、自然と同じ句を何度も繰り返し読んでしまう。
この間の取り方は結構目立つ。
mixiのプロフ写真のようにキャラが立っている。

経絡や

昼の進軍
夜の交配

経絡って、人体図にツボを描き込んだものが思い出されて、一行あきのあと、「昼の進軍」「夜の交配」という対句。
経絡という言葉も、対句という技法も中国をイメージさせる。
何が進軍し、交配してるんだろう。
とりあえず小さい玉川さんの群を想像してみる。

頭蓋の恍惚

滝の上に滝
滝の上に滝

オーガズムトロンが欲しい。
 
 

◆ 不死の扉/富永 隆一

アヌスからサドルへ、コミュニケーション不全症候群

サドルからアヌスへ振動が伝わることはある。
アヌスからサドルへ何かが伝わるものなのだろうか。
サドルはアヌスから何かを感じ取ってくれるのだろうか。
アヌスとサドルはコミュニケーション不全で全然かまわないと思う。
以前、ヴァギナと激しくコミュニケートしているサドルの動画を見た。
女優さんは笑っていたが、ものすっごく恐ろしかった。
 
 

◆ 遠近法/服部 智恵子

万有引力手首はかたいのです

朝顔はかゆいところに増やしました

火曜日は漢字をつかいすぎます

放物線を通るときの花子

傷口は走りたいこともある

ポケットという美しい前夜

やわっこくてシュルレアリスティックでちょいポップでかわいい。
好きです。
岡山人はよく「傷がはしる」と言う。
汗が目に入ってしみるとき、傷口に消毒薬がしみるとき。
そういうのが、「はしる」。
蚊に刺されたところにヨードチンキを塗ってもらった。
ちょっと掻いた後だったので、たいそうはしった。
いてもたってもいられなくなって走り回った3歳の私。

第2次未定87号の感想 <1>

◆ 未定の二の首の歌/泉 史

晴れたデパートの屋上から天へ引き上げるクローン人間の静かな目尻

デパートの屋上に立っている無表情なひと(ヒト?)。
目尻が糸で引き上げられるように釣り上がって、切れ長の目がますます鋭くなる。
私は向かい側のビルの少し下の階からそれを見上げている。
「デパートの屋上」からの連想かもしれないが、研究所で作られたヒーローの孤独、みたいなものを感じてしまう。

◆ 対応宇宙/海と暗黒物質編/伊東 聖子

タイトルは「対応宇宙/海と暗黒物質編」と書いて「パラレルユニバース/海とダークマター編」と読みます。「対応宇宙」と「暗黒物質」のところにルビが振ってあるの。

落下傘部隊地面に吸われたる

落下傘部隊がヘリコプターから飛び出して、滑空して、落下傘が開いて、地面に着地……すると思いきや地面を突き抜けて消えてしまう。
着地した落下傘部隊が着地して敵にやられて流れた血と腐った肉が地面に吸い込まれていく超早回し、だとか、落下傘部隊が着地して任務を終えて後の人生を送って死ぬまでの超超早回しだとか、そういうのも考えれるかも。
いずれにしても吸われたるっていう五文字は超早い。すっごいスピードで吸われてるのが見える。

びよううんびよおん眼球は街を散策し

びよううんびよおんっていう音はメカっぽい。
これはきっと自走式監視カメラ、むしろ浮いてる。

◆ 四獣門/高原 耕治

掌に
ふりふる蓮華
掌を
とびとぶ金粉

平和な極楽浄土の風景だろうか。
いや、絢爛たる滅びの詩と考えたい。
崩壊した天上から落ちてくる蓮華。
掌にぶつかるや、金粉を吹き散らして消滅する。
いつまでもいつまでも蓮華が降りしきる。

二首
刎ねられて
生首に
吸ひつく生首

二人の人間が首を刎ねられ、片方の首がもう一方へ飛んでいった。
唇を尖らせて生首に吸い付く生首。
生前は恋人同士だったのか。
落武者ヘアがなびく。
死者の怨念で吸い付いたというより、首を刎ねられてもまだ意識が残っていて吸い付いてる感じがして、そこが余計に怖い。夢に出そうで嫌だ。

で、デジタルビスケットを読んでるわけです。

荻原裕幸氏の短歌に繰り返し登場する「虹」「犀」「麒麟」といった言葉はぺたんと貼られたシールみたいで、そこを剥がしたら下になんか書いてあるような気がして、その下の字を読もうとすることが卒論になりそうだって、でもかわいいからシール剥がしたくなくて、それでぎりぎりまで卒論テーマが決まらなかったのだった。そうだった。

若い頃の妹萌えの歌とか美少女にフェラさせるやつとかがエロくて好きだ。
恋人に暴言を吐くあたりでM心が揉みしだかれてしまう。
▼の絨毯爆撃に痺れる。
30代以降の、会社がでてくるらへんのはもう本気でやばい。
ネクタイが好きだ。
オフィスワークで疲弊した男の人が好きだ。
虹も犀も麒麟もカナリアも象も星もきょとんとしててかわいい。

好き。