吹きっさらしのプラットホーム

高橋千波『プラットホーム』

高橋千波(@_hushabye)さんの小さな歌集『プラットホーム』(2014.2.11発行)から好きな歌を。

そのひとを思い出すときホームではひときわ圧を増すあぶらぜみ  高橋千波

間違えてばかりの僕にぽたぽたと修正液の花びらが降る

かみころされたあくびたちふかふかとふりつもる百貨店のフロアに

一首目。油蝉の声が急に大きくなったように感じることを「圧を増す」と表現してる。そのひとは別れた恋人かもしれないし、亡くなった友人かもしれない。学生時代の部活のライバルかもしれない。山がすぐ側にある新神戸のホームを思い出す。
二首目。花びらの形と大きさ、わずかな厚み。修正液とそっくりっていう発見。
三首目。やなぎみわのエレベーターガールのシリーズみたい。

プラットホームはどこかへ行くために一時的に立つ場所。その心もとない感じ。
中綴じの冊子を手に取ったときの薄さやわらかさが、繊細な歌の佇まいによく合っている。

行間からフェロモン

 
榮猿丸さんの句集『点滅』からいい匂いがするような気がして、鼻を近づけていっしょうけんめい嗅いでみたのですが、気のせいでした。
 
こんばんは、石原です。
 
ちょっと前に掲載していただいたものの報告ですが、週刊俳句第351号(2014年1月12日)「それでも愛し愛されて生きるのさ 小津夜景「ほんのささやかな喪失を旅するディスクール」について」という文章が載ってます。
 
ロラン・バルトってよくわからないけど、天ぷらをレースにたとえたのはとても素敵なことだと思います。

『冬夕焼』のお菓子俳句について

『線と情事』第二号の「SWEET HAIKU REPLAY」では紹介できなかったのですが、金子敦さんの『冬夕焼』(2008年、ふらんす堂)はお菓子俳句的にかなり熱い句集です。

如月のざらめびつしりリーフパイ  金子敦

二月の寒さと乾燥がリーフパイのかさかさした感じとよく合っていて美味しそう。
(もし六月ならリーフパイは湿気でべちゃっとしてると思う。)

かき氷ひかりをこぼしつつ運ぶ  〃

運びながら崩れて落ちていくかき氷の粒を「ひかり」と言っています。
手元も濡れてきらきらして、運んでいるひとの汗も光ってます。
少女漫画っぽい。

飴を切る音の幽かに寒牡丹  〃

庭で寒牡丹を見ていると、どこからか、かすかに飴を切る音がする。柔らかい飴をバチンと鋏で切る音なのか、硬い飴を包丁で叩き切る音なのか。なんとなく前者の飴細工のような気がします。老舗の和菓子屋さんっぽい。冬のさびしい庭に一点だけ咲いた寒の牡丹と、口の中にほんのりと甘味を感じさせるような飴の音。抑制のきいた華やぎがかっこいいです。

行く春やロールケーキの緩き渦  〃

「SWEET HAIKU REPLAY」では相子智恵さんの「ロールケーキ切ればのの字やうららなる」(『新撰21』より)について書きました。
この二本のロールケーキを比較すると、パティスリー・アイコのロールケーキはスポンジにもクリームにも弾力が感じられるのに対し、パティスリー・カネコのロールケーキは生クリーム多めで全体的にとろけるような柔らかさが感じられます。
この印象がどこから来るかというと、「行く春」「緩き」の「ゆ」音から導かれる柔らかさ。そして、春の終わり頃であることから、気温が高め、よってクリームが溶けやすい、という連想だと思います。
(どちらもすごく美味しそうです。ううう。食べてみたい……)

水たまり跳び越えバレンタインデー  〃

これはすごくかわいらしい句。好きな人にチョコレートを渡したったぞ! 笑顔で受け取ってもらえたぞ! という喜びなのか、好きな人からチョコレートもらったぞ! という喜びなのか。それともこれから意気揚々と渡しに行こうとしているところなのか。冷たい冬の雨のあと、あるいは雪がとけたあとにできた「水たまり」が、幸せな未来を予感させます。

お菓子俳句とBL俳句

saint

『線と情事』第二号はお菓子特集。「SWEET HAIKU REPLAY」と題してお菓子俳句を紹介してます。『俳コレ』『新撰21』といったアンソロジーや個人句集、同人誌などから引用させていただいております。
前号に続いて、今回も挿絵自分で描いたよ♪

これ全部釈迦の鼻糞途方に暮れ  山口優夢(『新撰21』より)

にちなんで寝釈迦です。(意図したわけではありませんが、優夢さんにちょっと似てます)
同人誌専門店サッシのほか、中野のタコシェ、京都のYUY BOOKSなどの実店舗でもお求めいただけます。

* * * *

そして、BL短歌合同誌『共有結晶』vol.2

kyks

こちらはAmazonでの販売です。
「BL短歌クラスタに俳人能村登四郎をお薦めする3つの理由」という文章を書きました。
くどいようですが、これは「BL短歌」の本です。

\短歌のBL読みでつちかった技術を使えば俳句も萌えの宝庫だよ!/

と、涙ぐましいまでに俳句を売り込もうとしています。
そのうちどこかの俳句団体の方が感謝状をくださると思うので、スーツにアイロンかけて待ってます。

BL-TANKA PRESENTATION

日時: 2014年1月12日(日) 18:00~21:45
入場料:2000円(軽食・ドリンク付き)
場所:
場所:文学カフェ&バー「リズール」 大阪市中央区南船場4-11-9コムズビルB1F 地下鉄心斎橋駅③出口より徒歩2分
http://www7b.biglobe.ne.jp/~liseur/contact.html#tenpo

トークショー&BL読みプレゼン。
わたしは「能村登四郎 僧侶に萌える」と題して此岸と彼岸のあわいで桜にさらわれそうになっている僧侶俳句を紹介します。

能村登四郎がエロすぎるんでみんなに読んでもらおうと思って

 
BL短歌誌『共有結晶』vol.2 に、
「BL短歌クラスタに俳人能村登四郎をお薦めする3つの理由」という評論を書きました。

としろうは本当にエロくてかわいいんですよ。
 

シヤワー浴ぶ若き火照りの身をもがき   能村登四郎
潮焼を撫しつ叩きつ男同志   〃
腕撫して炎帝の寵ほしいまま   〃

一句目、シャワー浴びるひとをなんでそんなに見つめてるんでしょう!
二句目、日焼けの肌をべたべた触り合っててたいへん仲が良さそうです!
三句目、受け感覚。帝に愛されるお稚児さんとしての我、みたいな!

どうだ。どうだ。うちのとしろうは最高だろう!(←うちのって言うな。)
こんな感じでとしろうの野郎っぽい句から耽美な句までいろいろ紹介してます。
ハァハァしすぎてちょっと頭おかしい感じの仕上がりになっていると自負しておりますのでぜひお手に取っておたしかめください。
 
11月4日(月・祝)
第十七回文学フリマ (ブース番号: ウ-37) と、J.GARDEN35(ブース番号: け12b)にて頒布開始です。
文フリのウェブカタログはこちら

リカ、お前はあきらめろ。

猫は踏まずに
 
本多真弓(本多響乃)さんの歌集『猫は踏まずに』から好きな歌と、その感想を。

わたくしは
けふも会社へまゐります
一匹たりとも猫は踏まずに

猫を踏まないのは普通のことだ。
猫を踏まないことをなぜわざわざ言うのだろう。
このひとは猫を踏むことを考えながら通勤しているんじゃないかしら。
猫を踏んだときの「フギャッ!」という激しいリアクション。
「一匹たりとも」と強調されることによって、
目に入る猫をかたっぱしから踏んでしまうことも
彼女の頭の中にはあるんだろうなという気がする。
「フギャッ!」「フギャッ!」「フギャッ!」
たいへんな騒ぎになるにちがいない。
しかしこのひとはそれを頭の中だけにとどめて
淡々と日常的な仕事をこなすのである。
こんなひとは絶対に怒らせたくない。

半年の通勤定期ちやんと買ふ
わたくしはいつも長女ですから

この歌も、当たり前のことをわざわざ言っている。
敢えて言うのは、「ちやんと買」わないという選択肢が存在するからだ。
区間や通勤手段を偽って申請すれば、
交通費として手に入れたお金をお小遣いにしてしまうこともできるのだろう。
だけどこのひとは「ちやんと買ふ」と言う。
したら得することはわかっていて、
けれど、してはいけないことになっているから、それをしない。
その理由を「わたくしはいつも長女」だからだと言う。
弟妹に規範を示せるように、長女としていつも親の期待通りに行動してきた。
おとなになってもそのことをひきずってしまう不器用さが、
「わたくし」「長女ですから」という真面目そうな口調にも現れている。
ただ、油断してはならない。
このひとは、悪事の可能性も、ちゃんと念頭に置いているのだ。

リカへ
 
 
ありがたう
教へてくれて
ケンちゃんの
キスの仕方は知つてゐたけど

最後の一行が衝撃的で、
急に人間関係が明らかになりドラマが生まれる。
リカさんはこのひとに対して
最近付き合いはじめたケンちゃんのキスの仕方などを
楽しそうに話したのだろう。
しかし、このひとは、
すでにケンちゃんのキスの仕方を知っている。
ケンちゃんと、キスしたことがあるから。
そして、ケンちゃんのことを憎からず思っているのだ。
この歌、とくに後ろの二行は、
リカに対して話しかけた言葉や
送られたメールではなくて、
心の中の独白のように思える。

悪いことは言わない。
逃げろ、リカさん。
ケンちゃんのことはあきらめた方が身のためだ。

このひとは、敵に回してはいけないひとだ。

「BLな俳句」のこと

 
腐女子なの?

と聞かれると返答に困る。

たとえば、いま現在「TIGER&BUNNY」「黒子のバスケ」「進撃の巨人」、といった特定のジャンルが好きで同人誌を集めたりイベントに参加したりしているわけではないから。

かといって、ボーイズラブのカテゴリに入るものに興味がないかというとそんなことはなくて、美しい男性二人が主演の映画があったりするととりあえず観ておこうかという気になるし、李博士やピンクフラミンゴを知るきっかけになったのは小野塚カホリだし、愛用のトートバッグは高畠華宵プリントだ(残念ながら女性像だが)。

微妙な感じが説明しづらくて「腐女子です」と言ってしまうこともあるが、心の中でなんとなく謝りながら使っている。
わたしなんかが腐女子を名乗るのはおこがましいと思ってるんです。でも便利だから使っちゃう。ごめんなさい。夜道で突然コピックを嗅がされて意識失ってるうちに簀巻きにされてお台場のへんから海に投げ込まれても仕方がない。
たとえば熱心な腐女子が艶やかに腐乱したロメロゾンビだとしたら、わたしは「28日後…」に登場するレイジウイルス感染者みたいな半チクである。
(こういう、腐っているようないないような、中途半端な状態が15年ほど続いている)

ところで、昨年、Twitterで#BL短歌というタグが流行した。※

BL短歌ブームは俳句クラスタにも波及し、#BL俳句というタグが登場したが、BL短歌タグが実作メインなのに対し、BL俳句タグには「この俳句がBL読みできる」という既存の俳句が多く寄せられた(このあたりの経緯は松本てふこさんの俳句時評をご覧ください)。おそらくはこのTwitter上の盛り上がりがきっかけになって、ふらんす堂通信で関悦史氏の「BLな俳句」という連載が始まった。

『ふらんす堂通信』136号に掲載された「BLな俳句」第一回では、

怒らぬから青野でしめる友の首  島津亮『記録』
かたつむりつるめば肉の食ひ入るや  永田耕衣『驢鳴集』
抱かねば水仙の揺れやまざるよ 岡本眸『十指』

といった俳句が紹介されている。

「怒らぬから…」の評を一部引用してみよう。

「青野」は夏の季語。両者の若々しさをいやが上にも暗示しますが、それだけではありません。この語があるから、二人は正面から向かい合って立っているのではなく、語り手が友を組み伏せているのだとのイメージが強まるのです。
草いきれに包まれつつの激情と密着。それは深い交歓の図以外の何ものでもありません。

おお。そうだったのか関さん!
ちなみにわたしは、俳句の入門書でこの句を知って、夏草の茂った河川敷みたいなところで学生服の少年Aが少年Bの首をふざける感じで絞めてるところを想像してたよ。歩きながら。じゃれ合う感じで。「怒れよ〜」っつって。そうか、萩原朔太郎の「愛憐」みたいなところまでいってよかったのか。いっていいもなにもないけど。
「それは深い交歓の図以外の何ものでもありません」っていうのは、意識としてはもうほとんどセックスと等しいということですよね! おおお……。

「BLな俳句」では(批評としては当たり前のことかもしれないけど)なぜそれがBLとして読めるのか、厳密に俳句の中の言葉に根拠を求めて指し示す、という方針があるようだ。

かたつむりの句では「雌雄同体という特徴」があること、水仙の句では水仙の学名「Narcissus」が自己愛の果てに命を落とした美少年ナルキッソスに由来することが根拠となっている。
これは男性同士に違いない、理由などない、敢えて言うならそのほうがわたしは萌えるからだ! という強引な突っ走り方を決してしない。
この姿勢は真っ当で健全で、読むほうとしたらすごくありがたい。
俳句の批評って、「ここ強引すぎんじゃね……?」っていうのに度々出会うので。

ただ、第二回以降で、関さんのテンションが上がりすぎて、BLの匂いが微塵も感じられない句を強引にBL化して読んでいくようになったらそれはそれで面白いのではないかとも思っている。理路整然とした冷静な関さんもいいけど、荒ぶる関さんも見てみたいのだ。

共有結晶×ふらんす堂通信

※ BL短歌
@AyahSakiさん曰く、BL短歌とは「五七五七七に萌えをぶっこむこと!」
2012年11月『共有結晶』という作品集がリリースされた。
まだ手元にないひとはアマゾンでも売ってるので、買いましょう。短歌作品も対談も漫画も入ってて読み応えあります。

ロココごころ

rokokogokoro

ロココごころ

BABY,THE STARS SHINE BRIGHT 初詣
初夢を執事に聞かせたく目覚む
仏蘭西刺繍の仔猫をそつと押し洗ひ
つまさきのほのあたたかくミシン踏む
蛍火で焦がしてしまふドロワーズ
炎昼の庭師をじつと見るあそび
尺蠖や夢見ざる日の夢日記
薔薇を噛んでも悪い子になれません
少年はにかむ毒瓶をかたはらに
民草にティッシュを配る西日かな
バルコンに出て民草に手を振らず
月のつく名前着信してをりぬ
天蓋や桃は産毛を許さるる
どんぐり降る絵本の外の王国に
頬骨にオペラグラスの冷たかり
奨学金返還できず草紅葉
かつら梳くマリー・アントワネットの忌
遠火事にして革命と無関係
暖房やあなたは紐の多い服
闇汁にブーケガルニを投げ入れな

 

かりかり日記

かりかり日記

かりかり日記

うららかや尻尾の先が焦げておる
のどもとをじたじたとおる蛙かな
夏めくや変なにおいのする首輪
六月の革靴かすかなる浮力
梅雨寒し角の毛羽立つ紙袋
夏の港みんな荷物を持っている
地蔵盆舗道の染みを嗅ぐことも
厭世や蘭鋳の瘤たわわなる
野に放れり秋七草に囲まれて

線と情事