先日、男同士の性愛を描いたらBL?という記事を書きました。
ざっくり言ってしまうと「ゲイ向けコンテンツと腐女子向けコンテンツは違いますよ」という話ではあるのですが、
少し別の方向でも議論が盛り上がり、いろんな方の意見が聞けてとても嬉しかったです。
たとえば、こんなご意見。
RTの問に対して私の回答は×。
このリンク先の文章にはおおよそ同意できる。ただし、言葉の定義の問題だが、この文章中の『BL』を『やおい』と言い換えれば。
BLとは、BLを標榜している作品、あるいはBLレーベルから出版されているものを指す、と考えている。
やおいはBLを包括する。 —ホンゴさん(@book_go)
非常にいいご指摘だと思います。
「BL」という言葉は商業出版から発生したもので、比較的新しい言葉です。(”商業”じゃないところに何があるかというと、”二次創作”や”オリジナルJune”といった同人誌の世界です)
ホンゴさんが書かれたように、狭義ではBLレーベルからリリースされた作品を「BL」と呼びます。ですからわたしが先日書いたように二次創作までBLと呼んでしまうのは少々強引。
しかし現在ではBLという言葉はより広い意味で使われるようにもなってきているようです。たとえば、2012年12月『ユリイカ』の特集は「BLオン・ザ・ラン!」。「やおい」「June」の歴史を踏まえて現在の「BL」の状況を捉えようとしている特集です。
「BL」という言葉は舌触りよく耳に心地よいので、わたしは「腐向けコンテンツの総称としてのBL」、つまり「広義のBL」としてこれを用いることが多いです。
また、これはまったくもって個人的な事情ですが、年下の友人の前で「やおい」という言葉を出して「やおい…?(´・ω・`)」というリアクションを頂戴してしまい、それ以来BL世代の彼女に合わせるためになんでもかんでも「BL」と呼んでいるという面も否めません。だって! 仲良くしてもらいたかったんだもの!
それから、実はこの理由が最も大きいのですが、BL俳句はBL短歌から派生したものなので、BL短歌の「BL」観(BL=広義のBL)を継承していると考えています。
『共有結晶vol.1』 『共有結晶vol.2』
平田有さんと実駒さんの会話を読むと名称の変遷の歴史や個々人の感覚のズレの問題がわかりやすいかと思います。
さて本題!
『共有結晶』vol.2でも少しだけ触れましたが、わたしが勝手に「擬人化系季語」と読んでいる季語があります。
佐保姫、炎帝、竜田姫、冬帝。
これらは、読者が積極的に擬人化するまでもなく、季語そのものが擬人化しているすぐれもの。
\甘栗むいちゃいました!/というノリで\季語あらかじめ擬人化しときました!/って差し出してくれてるわけです。
ありがとうございます。美味しくいただきます!
春の女神「佐保姫」と秋の女神「竜田姫」については百合クラスタの方におまかせして(もちろん”姫”は受けちゃんの愛称として全く違和感がないのでBL読みも可能ではありますが)今回は「炎帝」と「冬帝」をBL読みしてみました。
【炎帝】「夏」の漢語の異名。人身牛頭らしいです。
炎帝に組み伏せられているごとし 谷雅子『シリーズ俳句世界1エロチシズム』(金子兜太・夏石番矢・復本一郎編)より
炎帝、情熱的です。「夏バテ」とか「夏負け」とか言ってしまうと貧乏くさいのに「炎帝に組み伏せられ」るって表現すると急にセクシーでゴージャス! 組み伏せられているのは線の細い少年でもいいし、屈強なアスリートが熱中症で倒れているところを妄想するのもいいですね。
弟子になるなら炎帝の高弟に 能村登四郎『能村登四郎全句集』より
炎帝の弟子って何をするんだろう。
「エルニーニョ現象を起こしてまいれ」「ははッ!」
みたいな感じでしょうか。
中国風のお城で暮らして長い煙管でたばこを吸って積乱雲を作ったりしそう。楽しそう。
同じ作者に「腕撫して炎帝の寵ほしいまま」という句もあります。
炎帝に召し使はれて肥担ぐ 上田五千石『合本俳句歳時記新版』(角川書店編)より
肥(こえ)は厠から汲み上げてきた人間の排泄物です。暑さと臭気にうんざりしながらも力強く天秤棒を担ぐ百姓。実用のためだけについた筋肉、汗まみれの赤銅色の肌。「召し使はれて」に漂う服従の苦痛が百姓の肉体をよりエロティックに飾っています。三島由紀夫「仮面の告白」を連想するせいか、BLというよりはゲイっぽさを感じる句です。
【冬帝】「冬」の漢語の異名。
冬帝先づ日をなげかけて駒ヶ嶽 高浜虚子『虚子に学ぶ俳句365日』(週刊俳句編)より
冬帝×駒ヶ嶽です。
山肌に差す冬の朝日という景。気温を下げるだけではなく、冬の日差しを司るのも冬帝のお仕事。飴と鞭という言葉が脳裏をかすめずにはいられません。そうやってまず日を当てておいてまた吹雪で襲ったりするんでしょう!!(エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!)
冬帝や捕虜のごとくに壁に立ち 山田露結『ホームスウィートホーム』より
冬帝や、で切れています。つまり、捕虜のように立っているのは冬帝ではなく作中主体。
彼は、寒々しい壁に向かって立っている。あるいは、壁を背にして立っている。
壁際に並んでパチンコ屋の開店を待っているのかもしれないし、会社のIDカードに入れる顔写真を撮っているところかもしれないし、立ち小便をしているのかもしれない。
「捕虜のごとく」という言葉から、敗北、薄着、疲弊、空腹といった事柄が連想されます。
そして、壁に立つポーズは銃殺のイメージや壁に手をついて後ろから犯されるイメージをはらんでいます。
BLの世界では監禁・拷問は日常茶飯事。壁の向こうから冬帝という名の攻め様の靴音が聞こえてきます。
この他に、土用太郎、土用二郎、土用三郎の三兄弟や、白玉姫(霞の異名)も擬人化系季語と言えます。
(白玉姫は歳時記には載っているものの、例句に出会ったことがありません。和菓子の白玉の印象が強すぎて使いにくいからかな?)
また、冬の厳しい気候に妖怪の姿を与えた「雪女」や「鎌鼬」も一種の擬人化と考えられるかもしれません。
擬人化系季語で良い妄想を得たら、ぜひTwitterで #BL俳句 や #BL読みできる俳句 のタグをつけてご報告くださいね。