『冬夕焼』のお菓子俳句について

『線と情事』第二号の「SWEET HAIKU REPLAY」では紹介できなかったのですが、金子敦さんの『冬夕焼』(2008年、ふらんす堂)はお菓子俳句的にかなり熱い句集です。

如月のざらめびつしりリーフパイ  金子敦

二月の寒さと乾燥がリーフパイのかさかさした感じとよく合っていて美味しそう。
(もし六月ならリーフパイは湿気でべちゃっとしてると思う。)

かき氷ひかりをこぼしつつ運ぶ  〃

運びながら崩れて落ちていくかき氷の粒を「ひかり」と言っています。
手元も濡れてきらきらして、運んでいるひとの汗も光ってます。
少女漫画っぽい。

飴を切る音の幽かに寒牡丹  〃

庭で寒牡丹を見ていると、どこからか、かすかに飴を切る音がする。柔らかい飴をバチンと鋏で切る音なのか、硬い飴を包丁で叩き切る音なのか。なんとなく前者の飴細工のような気がします。老舗の和菓子屋さんっぽい。冬のさびしい庭に一点だけ咲いた寒の牡丹と、口の中にほんのりと甘味を感じさせるような飴の音。抑制のきいた華やぎがかっこいいです。

行く春やロールケーキの緩き渦  〃

「SWEET HAIKU REPLAY」では相子智恵さんの「ロールケーキ切ればのの字やうららなる」(『新撰21』より)について書きました。
この二本のロールケーキを比較すると、パティスリー・アイコのロールケーキはスポンジにもクリームにも弾力が感じられるのに対し、パティスリー・カネコのロールケーキは生クリーム多めで全体的にとろけるような柔らかさが感じられます。
この印象がどこから来るかというと、「行く春」「緩き」の「ゆ」音から導かれる柔らかさ。そして、春の終わり頃であることから、気温が高め、よってクリームが溶けやすい、という連想だと思います。
(どちらもすごく美味しそうです。ううう。食べてみたい……)

水たまり跳び越えバレンタインデー  〃

これはすごくかわいらしい句。好きな人にチョコレートを渡したったぞ! 笑顔で受け取ってもらえたぞ! という喜びなのか、好きな人からチョコレートもらったぞ! という喜びなのか。それともこれから意気揚々と渡しに行こうとしているところなのか。冷たい冬の雨のあと、あるいは雪がとけたあとにできた「水たまり」が、幸せな未来を予感させます。