日記」カテゴリーアーカイブ

はからずもデトックス

 

上司のちょっとした一言に憤りを覚え怒りにまかせてミックスナッツを一抱えイッキ食いした夜中に嘔吐を繰り返し発熱し、そのまま数日間寝込んだ。おそらく感染性胃腸炎である。上司の言い方は悪かったが上司のせいばかりではないと思う。もともと体調がよくなかったからいつもならスルーできる言葉に苛立ったのだ。

ものが食べられないと何もできない、まともに歩けない、考えられない、本が読めない、あんなに入り浸っていたツイッターに何も書き込む気にならない。階段は座ったままお尻歩きで三段ごとに休み、ジョージ・A・ロメロの熱心な演技指導を受けたゾンビのような緩慢な動きでゲロ袋を蓋付きゴミ箱に捨て、冷蔵庫から経口補水液を取り出して水で薄めながら飲んだ。

ずっと座っているのはつらいが寝転ぶと背中が痛い。全身が痛い。正岡子規の苦しさがちょっとだけ理解できた気がする。台所から経口補水液を持ってくるだけでこんなに疲れるんだからへちまの水を取る気力なんてないだろうそうだろう。

で、そんな数日を経て徐々に体力は回復したのだが、胃腸炎の前と後ではっきりと変化したことがある。

回復後、おなかの調子が妙にいいのである。

たとえて言うなら以前は駅員が一枚一枚切符に鋏を入れる古式ゆかしい改札口。ラッシュ時は混乱を極めしばしば暴動が起きていた。現在は自動改札が導入されマナーのいい乗客たちが自動改札にICカードをかざしてスルッと通過していく。おわかりいただけるでしょうかこの感じ。サニーナおしりふきに頼らなくても平気になりました。

ちなみに高熱が出たせいか上司に何を言われたのかはすっかり忘れてしまいました。

 

往復

 

つばめたちが巣立ったあとの玄関にデッキブラシを往復させる

ホステスがいつも吐いてる電柱の根元に生えたひょろひょろの草

デス吟行が俳句の本で紹介されたぞ!

 

「マッドマックス怒りのデス吟行」が『都市』2015年10月号の「新・俳句月評」というコーナーで取り上げられました!

結社誌『都市』/撮影地:農村

書いてくれたのは栗山心さん。
栗山さんは、映画や舞台を観てその感想代わりに俳句を作ってみる、ということを以前からなさっていたそうです。

すごく共感したのは次のところ。

不思議なことに、歳時記を読んでいて、この映画のことを詠んだに違いない、と思えるほどピッタリとはまる句に出会うのも楽しく、勉強になる経験であった。

わーかーるー!
ありますよね。「この俳句はこのシーンのためにあるに違いない!!」っていうの。(わたしの場合はこれ

そして三句を挙げていらっしゃるのですが、そのうち一句が……

熱砂駆け行くは恋する者ならん  三好 曲

ニュクサブル……!! うおおお!!!!(号泣)
あと2句はぜひ、『都市』10月号(600円)をお取り寄せして読んでみてください!

また、デス吟行参加者の作品から、
固有名詞ありの句の例としてるいべえさんの、

固有名詞はないが映画を観た人には誰のことを詠んだかわかるタイプの例として松本てふこさんの、


が引用されています。

縦書きで活字になった句を読むと、ブラウザで読むのとはまたちょっと雰囲気が違いますね。
るいべえさんの句は、長音の縦棒が茎のように屹立していて、苗を一本ずつ指差していっている印象が強くなる。
てふこさんの句は、句のエレガントさが際立つように感じました。

栗山さんはこの夏、デス・ロードを一ヶ月に三往復したそうです。

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文化部の活動に協力しているおとな(外部講師)からお願いしたいこと

最近、出身高校の文芸部の活動に協力する機会がありました。
高校生と接するのは刺激的でとても勉強になるのですが、「ここは改善できるよなぁ……」と思った点もあります。
お互い楽しく活動するために外部講師の立場からお願いしたいことを3つ書いておきます。
自分の体験に即して文芸部を例に出していますが、文化部全般にあてはまるような内容です。
会話はすべてフィクションです。

【1.できるだけ名札をつけよう】
初対面の日は必ず名札をつけてほしいです。さらに余裕があれば、学年と名前と自己紹介がひとこと入った名簿をもらえたらとーっても助かります。顔と名前を一瞬で覚えられる講師ばかりではありません。

【2.誰かがまとめて連絡しよう】
・たいていの場合、生徒は複数人で講師はひとりです。質問がある際には、ひとりずつ思いついたときに連絡するのではなく、全員分をとりまとめて代表(顧問の先生や部長など)から連絡(電話・メールetc.)するようにしましょう。メールの末尾には名前を記入しましょう。
・顧問の先生と生徒の代表の両方から同じ内容の連絡が届いたことがあります。「先生がもう連絡してるかも? でも万が一まだだったら連絡しなきゃだめだなぁ……」というときにはまずは顧問の先生に確認してみてください。

(例)
生徒「来週、石原ユキオさんが教えに来てくれるそうですが、質問したいことがいっぱいあります。先にメールで送っておこうかと思うのですが」
顧問「それはいい考えだね。部員全員に紙を配るから質問したいことを書いて明日の朝礼までにわたしの机に提出してください。そうしたらわたしがまとめてメールしておくよ」

【3.保護者の方に話そう】
・どんな講師がどのように指導しているのか、保護者の方に報告しましょう。保護者の立場からすれば、見知らぬ大人が自分の子供と親しくなるのはとっても不安です。

(例)
生徒「今日部活に来たの石原ユキオって先生で、たぶん30代くらいで、普段はデザインの仕事しながら俳句を作ってるんだ。顧問のH先生の教え子なんだよ。これから一ヶ月に一度俳句教えに来てくれるんだって」
保護者「そうなの。変わった名前だね。Twitterやってるかなあ」
生徒「それは見ないであげて!」

 

糸山饅頭

このあたりは寺院の門前町にあたるので、寺にちなんだ名物がある。
仏頭のかたちにふっくらと蒸し上げたあんまん。
宝珠を模した黒糖風味の今川焼。
「糸山饅頭」と書かれた提灯が町のあちこちに掲げられている。

砂浜の私娼窟

学校で、中国のある地方の性風俗産業がテーマの映画を観る。
曇天。
浜辺。
女性がスポンジ状のものを股に挟んで横たわり、半ば砂に埋まって男性を待つ。
男性がそこに性器を挿入する。
何組もの男女がそのようにして粛々と(擬似的に)交わっている。
服を脱ぎ、男女でペアを組んで映像と同じ姿勢で鑑賞するように言われる。
ある種の参加型インスタレーションであるらしい。
しかし、男女ペアで映像の真似をしてみたところで、女子生徒が売る側の、男子生徒が買う側の役割をなぞるだけで、ともに一面的な不快感しか得られないだろう。
作品について下級生の女子と激しい議論になり、レポートを提出することを教師に約束して上映が続く教室を出る。
 

レアンドロ・エルリッヒほどの深さ

港に停泊している豪華客船。
母が白い水着を着ている。
わたしは小学生の頃買ってもらった蛍光オレンジの水着。
船のプールは思いのほか深い。おとなの背丈よりもまだ深い。
色とりどりの水着を身に着けたひとが泳いでいる。
潜ったり泳いだりしてプールから上がり、階段状になった甲板を歩いていると、突然人々が逃げ始める。
船が沈みかけているらしい。
わたしはベンチに腰掛けていた祖母を背負って船から脱出する。
母の姿は見当たらないが、母ならひとりで逃げられるだろう。
真夏の日差しがまぶしい。気温が上がる。祖母は脱水症状を起こしかけている。
周りにはわたしと同じように船から逃げてきたひとがいる。みんな女性だ。
日陰を選んで休憩し、しばらく歩くと寺院の石段、その上に蛇口が見える。
祖母を背負ったまま倒れそうになりながら石段を上ると、住職が立っていて中へ入りなさいと言ってくれる。

仄暗い池の底から

 
引用の誤りや不正確な記述が指摘されて「炎上マーケティングかよ!」と話題になった稲泉真紀氏の「俳句評 短歌の穴からのぞいてみれば・・・」、突っ込みたいところもいろいろあるが、おおいに同意できる点がある。

俳句の方へ目をむけた時、短歌の世界の住人である私には、俳句の新しい世代やスタイルの提案が見えにくいのか、情報が思うように手に入らないのだ。

俳句関係のサイトや出版物に、俳句に興味を持ちはじめた若者にとって役立つ内容、楽しめる内容が少ない、ということは7〜8年前から感じ続けている。いま何が熱いのか。句集を手に取って選べる場所はないか。俳人の○○さんと××さんの関係には萌えを禁じ得ないけどこんなこと考えてるのはひょっとして自分だけなのか……!? そういった情報に手軽にアクセスできるものは少ない。

(定年後に俳句をはじめる層に向けられたものや、ハウツーは多い)
(情報はあるのにサイトのデザインや装丁が渋すぎて気づかずスルーしちゃうことよくある)

俳句は、コツをつかめば上達がはやいから、初心者感覚はすぐ消え失せ、オンラインやオフラインの句会に参加してるうちに情報を共有できる仲間もすぐにでき、いつの間にか感性がベテランになっていくのかもしれない。
だから、初心者向けの情報の必要性が感じられなくなるんじゃないのかしら。

わたしは地方で孤立気味、しかも知能がおっとりしているので、初心者向け情報いまだにほしいし、深く詳しく論じた評論だけじゃなくて肩のこらない文章も読みたい。

『線と情事』の「SWEET HAIKU REPLAY」や『共有結晶』の「BL短歌クラスタに俳人能村登四郎をお薦めする3つの理由」は、俳句をはじめたばかりのひとにも楽しんでもらいたいと思って書きました。
届け、届け、と祈るような、呪うような気持ちで。

(炎上マーケティングに便乗して自分の載ってる本を宣伝する作戦)

ついでに、どうしても突っ込みたかったところを書いておきます。

・「時評」枠の記事のわりに論じる時間の幅がかなり広い。
・「若者」というときに、50歳未満を指しているような気配。(それは俳人の一般的な感覚である。短歌の穴から覗いているんだからそこは短歌ルールで書いてくれていい)
・この記事には直接関係ないけど、詩客ってかなり迷路だ。(週刊俳句は記事を遡りやすい)

吹きっさらしのプラットホーム

高橋千波『プラットホーム』

高橋千波(@_hushabye)さんの小さな歌集『プラットホーム』(2014.2.11発行)から好きな歌を。

そのひとを思い出すときホームではひときわ圧を増すあぶらぜみ  高橋千波

間違えてばかりの僕にぽたぽたと修正液の花びらが降る

かみころされたあくびたちふかふかとふりつもる百貨店のフロアに

一首目。油蝉の声が急に大きくなったように感じることを「圧を増す」と表現してる。そのひとは別れた恋人かもしれないし、亡くなった友人かもしれない。学生時代の部活のライバルかもしれない。山がすぐ側にある新神戸のホームを思い出す。
二首目。花びらの形と大きさ、わずかな厚み。修正液とそっくりっていう発見。
三首目。やなぎみわのエレベーターガールのシリーズみたい。

プラットホームはどこかへ行くために一時的に立つ場所。その心もとない感じ。
中綴じの冊子を手に取ったときの薄さやわらかさが、繊細な歌の佇まいによく合っている。