白髪も増えてるしおでこは広くなってるし、成田先生、ちょっと見ないうちに随分老け込んだ。
偶然お会いした女性俳人のTSさんに成田先生を紹介する。
TSさんはアンソロジーではポートレートのかわりに花の写真を載せていたが、おとなしそうなショートヘアの美少女であった。
成田先生の勤務先を「愛媛大学」と言い間違えてしまう。
愛媛大学はSAさんの御父上の勤務先である。
投稿者「yukioi」のアーカイブ
一階は本屋だが、
地下に呪術的な煙管屋がある。
あなたわたしをじたばたしてくださいましたね
ほんの少ししか悪気はなかったのに、上着を脱いだことであなたを欲情させてしまった。いまはもう決まった相手のいるあなたを。申し訳ないが、これは夢だ。はやく覚めてください。近頃のわたしの夢は生々しい身体感覚をともなうのに、あなたの唇はまったく何の感触もない。お互いにこんなことは望んでいないからでしょう。やめよう。はやく覚めてください。
快適さについて
女性アイドルグループの一員として合宿に参加している。外国のリゾート地、海辺、ホテルは東京のサクラフルールにすこし似ていて、いかにも女の子の好みそうな雰囲気。ファンの方へのプレゼント用に十二星座にちなんだクッションを作るため、手芸店に買い物に行こうとリーダーが言う。階段を下りながらどんなクッションにするか相談している。ピンクのベロア地に、星座の記号を刺繍し、まわりにはフリルをつけるのがいい。コンサートは明日だ。十二個も作れるかしら。十二星座モチーフはやめて七曜にしませんかと進言する。目を離した隙にリーダーは現地の男性をナンパしていちゃついた上に殴られている。どうしようもない。
実際に服を脱いで入浴するアーケードゲームを試すが、泥水なので不快。
屋根をわずかに見せてダムの底に沈みゆく村、急斜面に建てられた別荘、ゾンビが徘徊する建物に住むパンク少女にはじめての恋人ができて、彼と彼女はスカルとチェッカー柄とヘアワックスだらけの部屋で息をひそめる。
ホールケーキにナイフを入れてこの場所にコインパーキングを作ります
旅の終わりに友人二名(男女)が川に入って、川底に沈んでしまった。浅いのに。わたしも川に入ってみるが動かない二人は確実に死んでおり触りたくない。「無駄だよ、死んでるよ」と他の友人が言っている。わかっている。しかしあなたと違ってわたしは世間のひとたちから薄情者だと思われたくないのだ。引き上げる努力をしめさなければ。それにしても触りたくない。肩のあたりに手をかけてみたが、顔なんてもう、ふたりとものっぺらぼうになってしまって、パーツの全部取れたぬいぐるみみたいにぬべっとしている。
クピドのごとき巻き毛の美少年にフランス語で愛をささやかれたのでおごそかにキスをした。十二時キックオフです。
Cube
仰向けになって、天井を見ている。天井には白い結晶のような繊維のようなものが規則正しく並んでいて、わたしの顔の上にもそれと同じ性質のものが降ってくる。たとえるならば作りかけの綿飴のごくごく細い糸のような、たんぽぽの綿毛が粘性を帯びて大きくひきのばされたような、そういったものだ。ふわふわのぱりぱりである。ふわふわのぱりぱりにおおわれていくのは心地よい。寝かされているこの床もふわふわのぱりぱりの積み重なったものである。Paris…Paris…と耳元で声が。麹なのだと教えてくれる。麹がこんなにきもちよいものだとは知りませんでした。なるほど塩麹が流行るはずです。ぱりす、ぱりす。
裳裾
美輪明宏から「黒蜥蜴」に出演してくれと言われる。
「稽古はいつからですか」と訊いたら、「2026年までよ」と。
つまり、いまの瞬間から千秋楽までが長い長い稽古なのだ。
収入が安定するなぁ、と思ってぼんやりと嬉しい。
いんへるの
元彼ビルディングの三階にあるD氏のオフィスで仕事の打合せをしていたところ、五階の学習塾のN氏から電話があり、地下のギャラリーに誰か来ていたと言われる。四階の自動販売機で二人分の紅茶を買うと中から「お買い上げありがとうございます」と声がして、これはおそらくO氏、元彼の身の振り方にはいろいろあるものだ。階段ですれ違うU氏は二階をダンススタジオにしているひとだが新年度からの移転をほのめかすような腰のくねらせ方でじっと目を見ながら遠ざかってゆき、一階はとばして、地下のギャラリーの鍵を開けるやいなや、鍵穴から細く登場したS氏はきみに捨てられました、だからというわけではないが痩せました、いまこそオブジェになりましょう、などと殊勝なことを。いいのだよ気をつかわなくても、ここは元彼が好き勝手に暮らす場所なのだ、もうすぐ二階が空くようだからそこを好きに使ってくれていい、二階が空くまでは誰か別のひとの元彼でもやっていればよいのではないだろうか。ポケットの中で二本の紅茶が二丁の拳銃に変わっている。
見るな。
こっちを見るな。
頼むから。
ほっぺたに正しく転写するためにノートは鏡文字でとること
<左へ曲がりますご注意くださいピピピピ><左へ曲がりますご注意くださいピピピピ><左へ曲がりますご注意くださいピピピピ><左へ曲がりますご注意くださいピピピピ>と、聞こえているからトラックだろう。しかし姿は見えないのだ。郵便受けに入っているのではないかと思う。どの郵便受けだろう。うちには郵便受けが三つある。
「酒臭い男に対する殺意」という意味の一単語がどうしても思い出せなくて辞書を繰っている。