半分妄想トルコ日記(1日目・前編)武蔵坊弁慶イスタンブルに参上

「ホシュゲルディニス!」
「ホシュゲルディニス!!」
「アンカラ? アンカラ?」

空港からのバスを降りた瞬間、タクシードライバーたちが口々に叫びながら追いかけてきた。スーツケースを引きずりながら無視して逃げる。無視しているのについてくる。ノーサンキューと言っても諦めないひとりには「マイフレンドが迎えに来るから」と言ってみた。通じたらしくようやく引き下がった。

エセンレル・オトガル。イスタンブルの主要なバスターミナルのひとつだ。
『地球の歩き方』およびインターネットで読めるいくつかのトルコ旅行記によるとここから地下鉄に乗り換えられるはずなのだ。
なのにいちばん近い階段には「○○商店街。メトロはこちらではありません」みたいなことが書いてある(ような気がする)。わたしのトルコ語レベルは2歳児ほどだ。「こんにちは」「ありがとう」「みず」「りんごジュース」「さびしかった」などが言える。1年勉強して2歳児ぐらい話せるのだから偉いと思う。普通2歳児は字が読めないはずだ。わたしはほんの少し読める。3歳かもしれない。ともかく地下鉄がここじゃないことは察した。偉い。偉いぞ。

ギラついた視線のおっちゃんたちに関わりたくないので女性の集団に声をかけて「メトロはどこですか」と聞いてみるものの、地方から遊びに来た若い女の子たちだったようで「キャハハ! うちらも旅行できてるからわかんないんだよね!」という反応で、楽しそうに通り過ぎて行った。
なんだかもう、声をかける相手を決めるだけで体力を消耗してしまう。
初夏とは思えない本気の日差しに腕も首筋もじりじりと炙られている。食堂の店先で焼かれるドネルケバブの気持ちがわかる。オトガルのドネルケバブ屋が「いらっしゃいませどうぞ!」とわたしに向かって叫んでいるような気がするが全て無視する。喉乾いたな。なんとか日陰に入って手持ちのストールを被った。なんだよヒジャブ(イスラム教の女性が頭に巻くヘッドスカーフ)って実用品じゃないか。楽だ。これで砂漠でも戦える。

(のちに知ったことだがトルコは乾燥しているものの “砂漠” はないらしい。むしろ中東にあって緑豊かな土地である)

一旦落ち着いたので、荷物貼り付けられていた「イスタンブル新空港行き」のタグとシールをむしり取った。そうだ。これが「いま飛行機から降りてまいりました!」というアピールになってしまうのだ。空港から来たばかりの客は物価を知らない格好の鴨と判断されてしまう。ところで鴨ってハラールだろうか。

トルコには連絡を取り合っている相手がふたりいて、ひとりは午後から合流する旅のパートナー、会計士のフレディ、もうひとりはゲーム会社勤務のルーク。彼らの名前がヨーロッパ風なのはこの日記がプライバシーに配慮しているからで、本名はちゃんとトルコの名前だ。予定ではフレディはいまバスでイスタンブルに向かっていることになる。ルークには今回の旅で会う予定はなかったのだが、いつも異様に返信が早いので試しにメールしてみた。

「ハーイ、ルーク。げんき? いまエセンレル・オトガルに着いたんだけど、地下鉄の入り口が見つからないんだ。知ってる?」

10分ほど待ったが返信がない。
諦めて、目を皿のようにしてロータリーになったバスターミナルをぐるりと取り囲む建物に取り付けられた看板を端から端から読んでみようと試みた。
馬蹄型になった建物のいちばん端に「メトロ」「イスタシヨン(駅)」と書いてあった。

地下鉄でホテルへ向かう。
トルコの公共交通機関は、基本的に運賃先払いだ。地下鉄の改札でイスタンブルカード(イスタンブル地域限定ICカード)をタッチして、ロックが解除されたバーをぐるっと回しながら改札を通過する。スーツケースの持ち手がバーにひっかかって外れなくなり「まじかよ…」とつぶやいていたら後ろからきた初老のベーシスト風男性が「大丈夫大丈夫」というジェスチャーをして同じゲートにタッチしてくれた。やさしい。
コロコロ付きスーツケースは空港内の移動には便利だけれど、石畳や段差の多いトルコの街ではなかなか過酷だった。即席ヒジャブ(無印良品のストール)の中で汗をだらだら流しながらしばらく歩き回っているうちに、事前にGoogleのストリートビューで予習しておいた景色に出会った。服や靴の店が多いにぎやかな通りだ。
まずはトルコ旅行の必需品、スカーフを手に入れなければならない。いつなんどき素敵なモスクに出会ってもいいように。モスクでは女性はヒジャブを被るのがマナーなのだ。(ちなみに、主要な観光地のモスクではスカーフの無料貸し出しを行っているので持参しなくても問題はない)
いま頭にのせているストールはヘッドスカーフとして身につけるには大きすぎるのだ。まるっとボリューミーで武蔵坊弁慶ぽさが出てしまっている。

ストリートビューで目をつけていたスカーフショップ、スタッフは若い女性たちだった。彼女たち自身もヒジャブを巻いて長袖の服を着ている。綿か麻を出してと伝えたかったが、麻という単語を知らない。綿はノーベル賞作家の苗字と同じだから覚えていた。一枚だけ選んでレジをお願いしたら、ちょっとがっかりさせてしまったようだ。ええ、わかります。せっかく遠くから来たんだからいっぱい買うと思うよね。ごめん、今日はまだ1日目だから買い物は様子見なんだ。

ホテルに到着し、予約してくれたフレディの名前を言ってチェックインした。聞き取ってもらえるまで3回くらい言わねばならなかった。まだ正午にもなっていないが、追加料金もかからずチェックインできてしまうらしい。さすがホスピタリティの国トルコである。
カードキーとWi-Fiパスワードをもらい、ポーターに荷物を運んでもらう。
誰かが荷物を運んでくれるホテルというものに普段泊まらないので緊張してしまいエレベータの中で「いまチェックインできると思わなかったです!だってチェックインの開始時刻よりだいぶ早いでしょう?」と英語で言ったつもりだったけど、いまいち通じなかった。英語が苦手なひとなのかわたしの英語が下手なのか。たぶん両方だ。
ポーターはざっくりと(いちおう英語で)部屋の説明をしてくれた。チップは渡しそびれた。

荷物を簡単に詰め替え、武蔵坊弁慶を巻き直して散歩に出た。日傘や帽子を持ってきていないわけではない。こんなに燦々と降り注ぐ日差しの中で帽子や日傘を使うひとにひとりも遭遇しなかったので、なんとなく使いたくなくなったのだ。せっかくのトルコなのだし、ヒジャブを活用しましょうヒジャブを。トルコ人たちは突然の武蔵坊弁慶出現に全然落ち着かないかもしれないが、いい。太陽が眩しかったから仕方がない。

1日目・後編へつづきます)

この日記の中にあるリンクを経由してamazonでお買い物していただくと筆者が最新のガイドブックや日焼け止めなどを購入する手助けになります。

活動記録(2018年)

第1回「ビバ!ユキオ俳句賞」を開催(応募者81名・計405句)

第2回「スイーツ句会」を開催(岡山市)

●手作り句集『香水とフラフープ』を制作

俳句同人「傍点」主催「タイマン句会ワールドカップ2018」で優勝

●フード性悪説アンソロジー『燦々たる食卓』(2018年11月25日発行)に俳句連作「風味Z佳」10句とショートエッセイ「わたしのおいしい肉」を寄稿

●『野性時代』の野性俳壇で特選3回(うち1回はダブル特選)、佳作3回、野性歌壇で入選1回、選外佳作1回
〈特選は以下の3句〉
資材部は土筆ゆがいているそうです
火のような魚のようなチューリップ
運動会のあといろいろとたたむなり

●やすたけまり版「ぺったん詩」(いきもにあ2018)に俳句3句を提供
刃物より火山がいいわ猫の恋
春の夜の濾紙ごとはこぶプラナリア
なめくじと東灘区をぬめりあう

1/27(日)常夏ハワイ句会のおしらせ


 
 
お申し込み・お問い合わせはTwitterもしくはEメールからお願いします。
 

完全に自慢だがLOOPY!の服を見てくれ

ショッパー持ってご満悦

台湾のゆるゆる雑貨ブランドLOOPY!鹿皮のスエットを買ったので見てください。

口下手でも上手にケンカを売れるスエットなのです

象の顔のところがマジックテープでバリッと剥がせるようになっております。
中国語ではケンカを始めるときに「てめえの面の皮剥がしやがれ」みたいな言い方をするらしく、この象さんをバリッとすることにより!なんと!口下手なわたしも!簡単にケンカが始められる便利なスエットなんですよ!!!

LOOPY!のGAGAさん&LUCKYさん、今度大阪にいらっしゃるみたい〜。
大阪のみなさん会いに行ってみてね〜!

タイマン句会W杯 投句一覧 #taiman_kukai

トルココーヒー

俳句同人「傍点」主催タイマン句会ワールドカップ2018
我がトルコチームの投句一覧です。
祝勝会の様子はこちら

水タバコの水を人魚の泳ぐ音
7/20 題「シーシャ(水タバコ)」

姉妹来てチェリータルトを鈍角に
7/9 題「角」

ギュレギュレとみんな手をふる避暑の荘
7/31 題「拗音が3つ以上ある句」

城傾く箱庭の木を抜けば
7/13 題「抜」

蓴菜をちいさく掬う接続詞
7/26 題「接」

口中に骨片のある夏の月
7/26 題「骨」

夜のプールにかぶとがに連れてきて
7/13 題「カブトガニ」

袋いっぱい金魚をくれるココ・シャネル
7/20 題「人名しばり」

避難所に寝かされているエレキング
7/9 題「安全しばり」

五号室に夏は果てたり面格子
7/31 題「格子」

(得点順)

 

【祝優勝】タイマン句会W杯2018 #taiman_kukai

 

俳句同人「傍点」主催「タイマン句会ワールドカップ2018」
トルコ代表監督として出場し、優勝しました!
やったー!
(は? なんぞそれ? という方、石原監督の勇姿をtogetterからご覧ください)

そんなわけで8月某日、祝勝会を開催すべく地元の句友である古本斑猫軒店主ミコシさんを強引にお誘いしターキッシュレストランへ。
トルコの優勝を祝っていただくとともに、惜しくも勝利を逃したチームの作品について語ってもらいました。

石 原「今日はどうぞよろしくお願いします。シェレフェ(乾杯)!」
ミコシ「おめでとうございます。シェレフェ!」

Efes

トルコビールEfesで乾杯。

石 原「ではさっそくタイマン句会W杯に投句された全作品の中から3句取り上げていただき簡単な感想をいただければと思います」

炎昼超能力バトル反る少女  凡コバ夫(ブラジル)

7/31 決勝 題「拗音を3つ以上含む句」

ミコシ「文句なくよかったですね」
石 原「うん、これはやられましたね」
ミコシ「“バトル” “反る” の韻を踏んだたたみかけもうまいし “反る” という音から “sol(ポルトガル語などで太陽の意)” を連想させて南米の感じも出てる」
石 原「そこ……!? いやでもブラジルのサックー(タイマン句会W杯では作句をこう呼ぶ)はもう一定の評価を得ているのでスルーしてこれ以外で3句いきましょう」
ミコシ「えー……(野性俳壇でなかなか選んでもらえない※から拗ねてるのかな……)」

古本斑猫軒店主ミコシさん

古本斑猫軒ミコシさん。シーシャ初体験とのことだが毎日吸ってるひとにしか見えない。

トルコ代表監督 石原

監督らしくしようとスーツを着てみた石原。監督というよりはやさぐれた保険外交員だ。

ガードレール灼けて漁村の道に縄  黒木理津子(クロアチア)

7/10 B1 題「海沿いしばり」

 

ミコシ「句もいいんだけど、この試合自体がよかったんですよね。クロアチアチームの “正統派” 的な句に対してポルデヴィアからは実験的な句が出てきたわけで、この試合は双方が持ち味を出しておもしろい句が揃った。ここからどうしてもひとつ選びたかったんです。
その中でもクロアチアの “ガードレール灼けて漁村の道に縄”。漁村というひなびたものとして描かれがちですが、ガードレールを出すことで近現代の漁村になっている」

石 原「なるほど。たとえば灼けているのがガードレールじゃなくて石とかただの道だったら前近代の雰囲気になってしまうかも」

ミコシ「そうそう。漁村ということばに近代以前のイメージがつきまといがちなんだけど、そこへガードレールを持ってくることで現代的なリアリティが与えられている。
きっと人はそう多くない漁村で、灼けて真っ白な情景というのがそれにとてもよく合ってる。非常に夏らしい句だと思います。海のそば、人がほとんどいない中、道にぽつんと縄がある」

石 原「情景がしっかり見えますね」

ミコシ「叙情性もあるし、よくまとまってますよね」

夕菅にゆるい手綱の馬と行く  トオイダイスケ(スコットランド)

7/9 A1 題「安全しばり」

 

ミコシ「タイマン句会に出たものに限って言えば、トオイさんは全体にゆったりとした雰囲気の句が多くて、カメラワークで言うならば引きの画なんですよね。詠まれているものがはじめからひとつの画のなかに入っていて、カメラがパンしない。二物衝撃って要するにカメラがパンすることだと思うんですけど、そういうものをあまり感じさせない。
ゆったりとした時間の流れを引きの画で、なおかつカメラを動かさずに表現している。情報量としては多くないし情景として角の立ったものではないんだけど、空気感というのをよく伝えている、というのが今回トオイさんの句を読んで全体に受けた印象です。
その中でも “夕菅にゆるい手綱の馬と行く” は見事に言ってきたな! っていう。 “に” をどう解釈するかという問題はもちろんあるんですが、せっかくのロングショットなので細かい文字遣い以前にこの空気感を堪能したいですね」

石 原「“ゆるい手綱” は自分の語彙の中からは絶対出てこないフレーズなので痺れました」

内接円に半径とハンモック  ネル山ネル子(クロアチア)

7/26 準決勝1 題「接」

 

ミコシ「意外と点が伸びなくてもったいないな、ということもあって選びました。これたしか、しばりが “接” ですよね。そこからの句の連想の流れがスムーズで後を追いやすかった。
“接” から “内接円” を連想し、“内接円” から “半径” も連想しやすい。で、今度は単純なイメージの連想ではなく “半” という音から “ハンモック” に飛躍している。一回意味で連想を飛ばし、その次は音で飛ばしましたっていう。読者が連想の軌跡をたどりやすく、なおかつおもしろさもあるんです。結果的に、ひとつの抽象的な情景ができあがっている。そういうそつのなさがあったので、もうちょっと点が伸びてもよかったのかなと思います」

石 原「“半径と” までは実体のないもの、数学的なものなんですよね」

ミコシ「そう、形而上というか、概念」

石 原「それがハンモックでいきなり実体のあるモノが出てくる。そこがおもしろいですね」

タイマン句会得点一覧表

得点一覧表を見ながら語り倒す。たのしい。

石 原「それでは最後に斑猫軒からお知らせやおすすめ商品があればお願いします」

ミコシ「うーん、そうですねえ。俳句関連の在庫から具体的に何かおすすめしたいところなのですが、たぶんこのページをご覧になる皆さんのほうがよほど目も肥えていらっしゃると思うので、弊店ウェブショップの「短歌・俳句」カテゴリーページをご覧ください、という程度に留めておきましょうか。
つい先だって、『増補 現代俳句大系 全15巻揃』ほか、俳句の本を少し仕入れたんですが、すみません、まだウェブに掲載する作業を進めてない……。近日中にとりあえず何点かは載せますので。
他のジャンルでしたら、幻想文学妖怪関連書籍に力を入れていますので、ご興味ございましたら是非!」

俳句関連書籍入荷してます

店舗を持たない幻の書店古本斑猫軒へぜひお越しください。

古本斑猫軒(はんみょうけん)
〜幻想文学・人文書から絵本・暮しの本まで、古書買取販売いたします〜

「野性俳壇」「小説 野性時代」の俳句投稿欄。長嶋有(=ブルボン小林)夏井いつき両氏が選者をつとめており石原は毎月投句しているが長嶋さんに選んでもらえることは激レア。

スイーツ句会 ワッフルと珈琲

ワッフル、チーズケーキなど

4月14日(土)は2回目のスイーツ句会でした。
前回(2018年1月6日)は特に名前のない新年句会だったのですが、生クリーム山盛りのパンケーキを囲んだため「スイーツ句会」と呼ぶことになったのでした。

参加者募集はこんな感じ。

スイーツ句会の告知画像

進行役の自分を入れて4名(欠席投句2名)でこぢんまりと実施しました。
この句会では進行役はゲームマスター的な存在です。
通常の句会では出席者の俳句を無記名で並べて選句や合評を行う、場合によっては投句のみ参加の「欠席投句(不在出句)」も混ぜて行うのですが、ここにゲームマスター権限で手元の句集や入門書からピックアップしたお気に入りの俳句を加えます。
いわば部分的な「借り物句会」(別称「つくらない句会」)。

お借りした俳句はつぎの6句。

しやぼん玉ことばにふれて失明す  小津夜景『フラワーズ・カンフー』
死者生者こみ合ふ春の回転扉  はるのみなと/大井恒行著『俳句 作る楽しむ発表する』
▶︎「死者」と「生者」の語順はこれでいいのか、逆だとどうなるのか、と検討したのが面白かった。
抽斗につかはぬ音叉春の虹  菅原鬨也(大型俳句/俳句関連文書検索エンジン)
▶︎ひきだしにあるってことは使ってないんだから「つかはぬ」は説明的では? という意見あり。
しんじてもかぜはさくらを書きくだす  宮﨑莉々香/佐藤文香編著『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』
葉桜や空は疎にして鳴らせば葉  田島健一/佐藤文香編著『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』
つばくらや小さき髷の力士たち  津川絵理子/佐藤文香編著『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』
▶︎つばめのかわいさと力士のかわいさ。

以下、わたしの出した句。

蕗味噌トーストねむいとき怒るのね   石原ユキオ
宗教につかう音叉や暮の春
春日傘KGBに狙われたい

次回は5月下旬か6月にできるといい……かな?
開催地は岡山・倉敷・総社あたりのどこかの予定です。

実は『野性時代』4月号にも載ってました

3月号に続き、2ヶ月連続で入選。

夏井いつき・特選
火のような魚のようなチューリップ  石原ユキオ

1月のスイーツ句会にも来てくださったトートバッグ職人にして敏腕デザイナー中原ポール氏が長嶋有さんの選外佳作に入ってる。

ポールさん発案の #ロードサイド俳句 シリーズ、Twitterでもっと盛り上がるといいな。

発表☆第1回ビバ!ユキオ俳句賞(7/7)

第1回ビバ!ユキオ俳句賞の連載最終回です。全体の所感と選外の作品へのコメントなど。

1)連作が豊作でした!

募集要項に(1句単位での審査となるため連作的要素は考慮しなくてもいいと思う)と書いていたにも関わらず、連作が豊作でした。
20句とか100句とかをまとめて応募するタイプの賞に出さなかったボツ句を送ってもらえたら、あるいは雑誌の投稿欄に送らなかったストックを送ってもらえたらいいな、お気軽にどうぞ! というような意図がありましたが、ビバ!のために腰を据えて5句作ってくれた方が何人もいらっしゃったということが嬉しいです。もちろんバラエティ豊かな5句を送ってくださった方も、いろんな可能性を見せていただけて楽しかったです。ありがとうございました。

2)麺類の件!

募集要項には「ついでに、好きな麺類を教えてください。」という項目がありました。聞きたいから聞きました。書かなかったひとは会ったとき教えてね。

・尼崎武さん一押し、大阪の「らーめん香澄」はわたしもおすすめです。おとなになってから食べたラーメンの中で一番おいしかった。お店の居心地もいいです。
・亀山朧さん「ちゃんぽんめん(音が好きです)」という回答がいかにも言葉フェチで共感。
・長めにこだわりを書いてくれて面白かった2名。
藤幹子さん「料理としてなら冷麺(スイカ必須)麺のみの魅力ならば中華麺を愛する。愛ゆえに、子供の頃は、焼きそばのソースをかける直前の、味なし焼きそばを好んで食した。」
味なし焼きそば……わかる!
西川火尖さん「担々麺、その答を書いた瞬間に答は問に変わる。俺でいいのかと担々麺自身が問いかける。」
麺類好きすぎるんですね。でも「全部好き」とは書かずに一つを選ぶ姿勢に俳句魂を感じました。
麺類

3)俺は下ネタには厳しいぞ!

いたんだよね。昭和のおっさんのような下ネタの俳句を送ってきてたひとが。何人も。

選考委員ユキオ氏、夜、自室に帰ってくる?
俳句とは別にシノギがあるので、それなりに疲れている。
パソコンの電源を入れてネットに繋ぎAOLのアドレスに来たメールを開く。
なんか……下ネタが書いてある……。
はい、この時点でそのメールを見なかったことにするのは想像に難くないでしょう。

たとえば、わたしが俳句を取りまとめて選考委員に渡す立場にあるなら下ネタだろうと犯罪予告だろうと何も考えず印刷するなりエクセルにまとめるなりして選考委員に回すでしょう。複数名の審査員が会議室に集まって審査するなら「手垢のついた下ネタだね」「しょうもねえな」「いやこの句はちょっと面白いですよ」ということはあるかもしれない。

でも、ひとりだからねえ。気持ち悪さを他者と分かち合えないんですよ。

ねえ、冷静に考えて。
面識のない個人のメールボックスに卑猥なジョークを送りつけていいかどうか考えてみましょう。

そういうのは、会ってする句会に出してボコボコにされた方が浮かばれるのではないかな。

ZAZEN

こころおだやかなかんじの画像を貼っておきますね。

4)選外の作品にひとことコメント!

ほんとうは応募者全員ひとことコメントがやりたかったのですが、あまりにも多くの方にご応募いただいたので少しだけ。

初雪やライカ犬から返事なく   みずほ
2016年に半年間「まいにちロシア語」を聞いていたのですが4月号のテキストの表紙がにこにこ笑っているライカ犬で「おそロシア……」とつぶやかずにはいられませんでした。ライカ犬を乗せたスプートニク2号の打ち上げは11月3日なので地域によっては初雪のころ。


はしやぎ疲るゝ怪談の夜も猥談の夜も   ゆなな子
若さがみなぎってる。寮生活っぽくていいですね。前書きの「夏」は必要ないのでは。

じつと見るとうもろこしを削ぐ歯列   竹内くるは
「じつと見る」と言わなくても、ぎっしり並んだとうもろこしの粒と歯列を描いているだけで凝視していることは伝わりそう。とうもろこしの粒と前歯の形が似ているので絵として面白い。

大寒やボディーソープは空っぽに   雪李
大寒が動く(=他の季語と置き換えても成立する)ような気がしたのですよ。
俳句の内容とは別問題ですが冬は固形石鹸の方が洗うとき寒くないような気がしない? わたしだけ?

ままごとのきゅうりうずもる糠床や   知己凛
ままごとのきゅうりが本物の糠床に入ってる句、もうすこし整理して上手に言えそうです。逆に、ままごとの糠床に本物のきゅうりの句を作ってみても面白いかも。下五に「や」をつけると文字数が足りなくて適当にくっつけた感が出てしまいがちなのでわたしはあまり使いません。

白帝を彼氏にしたく眉を描く   花咲凜
白帝は秋の異称。白帝の彼女(ないしは彼氏)になりたい、ではなく、白帝を自分の彼氏にしたいと詠んだところがいい。自分の側に引き寄せるポジティブな図々しさ。でももしかしたら逆に「恋人にしたい芸能人」みたいな遠さなのかもしれない。

跳び蹴りの低みの映えて春の泥   何居主水
ジェット・リーか、ドニー・イェン。ちょっと古ければジャッキー・チェン。もっと遡るとブルース・リー。上品な服装をしている方が汚れていく様がより映えるかもしれないのでここはドニー・イェンのイップ・マンがベストかな……。5句の中にはスタートレックっぽい句もあって楽しかったです。

棺桶を豆腐で満たして針祭る   桜電子
針供養の句ではなく棺桶を豆腐で満たすだけの句ならば選んでいたと思います。

セルカ棒向日葵畑から伸びて   若林哲哉
(以前に比べるとセルカ棒を見かけなくなってはいるものの)新しい事物を果敢に取り入れている。いいロングショット。いまという時間をノスタルジックに見るような句ですよね。予選では取っていました。

発表☆第1回ビバ!ユキオ俳句賞(6/7)

心配部門の受賞作を発表します。
「大丈夫?」
「背中とんとんしようか?」
「専門家に相談したほうがいいのでは……」

と、登場人物※1が心配になった句を選びました。

めっちゃ心配

【心配部門】

★シェルター賞
麦酒ケース買ふDV夫のため   市川綿帽子

「麦酒ケース」は絶妙な道具立てだ。
ケース単位でビールを買うというよりは、文字通りビールケースそのものを買ったように思える。ケース単位で買う場合には「1箱買う」「2ケース買う」「ビールをケースで買う」というような表現が一般的だから。
ビールケースの句と言えば

炎天のビールケースにバット挿す  榮猿丸『点滅』

を思いつくが、この夫はそういう健康的な暑さ・熱さからはほど遠い。
「麦酒」と「DV」が一句の中に共存していることで、夫はアルコール依存症なのではないかという連想が働く。
「DV夫のため」は「夫が私を殴るためのビールケースを私が買う」という意味かもしれないし「夫の暴力に対抗するために防具あるいは武器としてビールケースを買う」のかもしれない。あるいは単に(妻はそんなもの必要ないと思っているのに)どうしてもビールケースが欲しいと夫が言うので買わざるを得ないのかもしれない。
全体としては字余りになる破調の句なのだが、575のリズムに当てはめて読もうとしたとき、
麦酒ケース/買ふ◯DV/夫のため
というように1音足りない中七部分の◯のところに息を飲むような欠落感が生じる。
どうか依存を断ち切って無事に逃げてください、と祈るような気持ちになってしまう。

★厚生労働賞
白菜をブラック企業の前に置き帰る   八鍬爽風

梶井基次郎「檸檬」の主人公は、檸檬を丸善に置いて去っていった。
このひとは白菜をブラック企業の社屋の前に置いていったようである。玄関の自動ドアの前にぽつんと置かれた白い塊。そこを行き交う社員たち。
ブラック企業の元社員が、抗議のつもりで行ったことなのではないかと思うけれど、ブラック企業はブラックだから白菜が置かれてたって誰も疑問に思わない。痛くも痒くもない。やがて清掃業者が回ってきて片付けていくだけ。こんなのなんの意味もない。この冬白菜高かったのに。大事な白菜を、こんな使い方して。もったいない。しかしそんな意味のない、もったいないことをせずにはいられないほどこのひとは病んでいたのだろう。
どうせなら眠っている経営者の布団の中に愛馬の生首を入れておくとか、わかりやすい復讐をしてもよかったのではないか。そういえば白菜は人間の頭くらいの大きさだ。そういう意味では人参や大根に比べるとどこか不吉な雰囲気が漂う。
ところで「白菜をブラック企業の前に置く」としてしまえば下五が5音におさまる。最後の「帰る」3音が定型からはみ出しているのだ。このはみ出した3音が妙に生真面目じゃないですか。「帰る」があるからこそ白菜はそこに置いたまま人物が立ち去ったことがはっきりするし、それが「檸檬」の連想にも繋がるのだ。

★花冷え賞
花花花花トイレはどこだ花   吉田どんぐり

お花見の景と読みました。
川沿いに植えられた桜並木。土手に敷かれたレジャーシート。企業名のぼんぼり。屋台。焼肉の煙。ビールサーバーを背負ってナンパするサラリーマン。
お花見は下腹部に負担のかかりやすいイベントだと思います。まだまだ肌寒いし、冷たいビールやチューハイを飲むし。突然襲いかかるはげしい尿意。悪くすると腹痛とのコンボ。しかし、慣れない土地の場合、トイレがどこにあるかすぐにはわからない。かくしてひとはトイレを探して花見会場をさまようのであります。百メートル歩いた先にトイレがあればいいが、もしこれが間違っていたらどうなるのか。真剣な面持ちで、そのひとは歩く。桜吹雪にまみれながら。

★経理課困惑賞
星冴ゆる鞭は経費で落ちますか   田島ハル

高額な物品を購入する際は事前にご相談いただきたいと申し上げていたはずなんですが、困りましたね。もうご購入済みなんですよね。「鞭」? 鞭を買ったんですか……。業務に必要なんですよね。ええ、まあそうですよね。ちなみに今日はその領収書お持ちですか。但し書きは。は?「お仕置き用品として」?

たぶん、経理のひとは鞭を経費で落とすのは不可能という結論を出すだろう。鞭といえば本革で手作り。それなりの出費になるはず。しかしこの句の語り手からしてみたら、それも全部込みでプレイなのかもしれない。迷惑な話である。
「星冴ゆる」である。夜なのだろう。残業中だろうか。残業中に人気のないオフィスで鞭の領収書を見せられたら、怖い。

★ショコラ賞
ココア溶く明日も明後日も休む   嫉妬林檎

ダジャレをスルーされそうなので言っておくと「ショコラショー(ホットチョコレート)」と「賞」をかけました。ショコラショーとココアは別物という説もあるようですが目をつぶってほしい。
さて、漫画など創作物の中では温かいココアは傷ついた心を癒すものとして登場するという指摘があります。(『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』福田里香 いま手元になくて正確な引用ができなくてごめんなさい! 面白いのでぜひ読んで!)
この句は連休でココアを飲みながら日頃の心身の疲れを癒している句なのだろうか。いや、もうちょっと引っ掛かりがある。
まず、ココアを飲む前の段階が描かれている。「ココア飲む」や「ココア吹く」ではなく、粉末のココアを熱湯でどろどろに溶いている。ダマにならないように少量の熱湯を加えて溶くその初期の状態は溶岩のようにも血溜まりのようにも見える。
それから、「明日も明後日も休み」ではなく「明日も明後日も休む」と本人の意志が入っている。どうやらあらかじめ決められていた休日ではなく、「もう休む! うちは休むけんね!」と決めて休んでいるようなのだ。
ココアはもちろん癒されるものだけど、癒さなければいけないのは疲れているからだ。ココアの熱いどろどろには憤りや不満が表れている。単純に「癒し」としてのココアではなく、その前提となる痛みを描いた点を評価したい。

<類想について>
嫉妬林檎さんの上記の句について、類想句があったとの報告を受けました。

ホットココア明日も明後日も休み   香野さとみ

嫉妬林檎さん、香野さとみさん、どちらの句が先に発表されているかの調査は行っておりません。
ここまで似てしまった例は少ないかもしれませんが「ココア」が「心を癒す」「ほっとする」というイメージと結びつきやすい以上、「休日」と取り合わせられた句は他にも見つかるかもしれません。

今回、作品の審査にあたり類想句のチェックについては一切行っていなかったことを反省し、今後は類想感のある句に関しては慎重に検討したいと思います。
ただ、書籍の確認や、データベース検索ができる範囲には限界があります。
作る側の問題としても完全に類想句を避けることはできません。俳句というとても短い詩型には常に付いて回る問題です。
なおビバ!ユキオ俳句賞の趣旨から言って類想句があったために受賞を取り消すというのはナンセンスですので、ご報告のみにとどめておきます。
(4月18日追記)

★サスペンス賞
枯野来て「もしも」を多用する男   香野さとみ

もしも旦那さんが転勤決まったらどうする?」
もしもあのとき俺が好きだって言ったら俺とつきあってた?」
「俺たちやっと二人きりになれたね」
「え? 帰りたいって? もしもその鞄の中に携帯も財布も入ってなかったらどうする?」

人気のない枯野に一緒に来てしまったことを全力で後悔するシチュエーションです。火曜サスペンス劇場的な展開になってしまうのか。
後のことは何も考えず金的をくらわして走って逃げてください。

★パンデミック賞
恋愛セミナーまずはマスクを外しましょ   シシオ澤ガイ

このセミナーは、あやしい。
風邪をうつしたくないから、あるいはうつされたくないからマスクをしているのである。顔を隠したくてマスクをしているわけではない。
なぜなら、ここは俳句の国でマスクは冬の季語で本来冬場の風邪の感染を防ぐもの、あるいは防寒のために身につけるものだからだ。室内ならばマスクをする理由はひとつ。感染予防だ。
マスクを外すように言ったのはセミナー講師やスタッフだろう。

「まずはマスクを外してあなたの素顔を見せてくださいね〜」

セミナー参加者の間で風邪が蔓延したらどうするのか。インフルエンザに罹っているひとがいるかもしれないのに。そういうことは一切考慮せず、マスクを心の壁の比喩のように扱って主導権を握ろうとしているのだ。言っている内容に加えて語尾の軽さ、語呂の良さがあやしさに拍車をかけている。

マスク

★嚥下賞
春眠の口にねじ込むチョコレート   実駒

眠っているひとの口にチョコレートをねじ込む。反射的に飲み込んでしまい、喉に詰まったらどうしよう……と心配になりました。
いや、口を開けて寝ているひとの口の中に放り込んだのなら誤飲の危険性が高まるけど「ねじ込む」だから大丈夫なのかもしれない。唇は閉じているわけで、前歯で止まるような気もする。ちょっと溶けた状態で口からぽろっと落ちたら服が汚れそう。
春は馬鹿なことやしょうもないいたずらをしたくなる時期です。チョコレートをねじ込むなとは言わない。ねじ込んだままその場を離れてはいけない。ねじ込んだひとは責任を持ってチョコレートを回収していくべき。BL読みをおすすめしたい句です。

★心配ない賞
石鹸玉 日々見える私は 頭がおかしい   高橋あずさ

高橋さんは俳句に興味を持ち始めたばかりなのではないかと思います。
なぜそう思ったかというと上五・中七・下五の間に一字分のスペースを入れているから。一句だけではなく、応募作がすべてこの形式だったから。
俳句や短歌ではスペースを入れずに続けて書くのが一般的です。(もし、意図的にこのスタイルで書いているのならごめんなさい。その場合はあなたのトリックにわたしが完全に騙されているということなのでガッツポーズ!)
たぶん、筆で書いていたころはどこにスペースを入れるかなんて気にする必要がなかったわけで、スペースという概念は印刷機のせいでできちゃったのでしょう。印刷物やデジタルデバイスで作品を発表するわたしたちは、スペースを表現技法として使うことができる。入れる、入れないが選択できるわけです。
「すべての句の五七五それぞれの間にスペースを入れる」を自分のルールとして選択するのなら、それも面白いのかもしれない。それによってたとえば使える言葉は制約を受けて「スリジャヤワルダナプラコッテ春の雨」※2みたいな句は書けなくなります。このルールだと「句またがり」や「破調」の句が書きにくく、五七五の枠にきっちりおさまった作品になりがち。
で、本来だったらここまでで説明を終えて「まあ、次からはスペース入れずに続けて書けば?」と言ってしまうのですが、高橋さんの句が面白いのは、間にスペースを入れるルールを採用しながらも字余りの句になっているところ。

しゃぼんだま(5音)ひびみえるわたしは(9音)あたまがおかしい(8音)

リズムからしたら「自由律」と言っていいと思います。
つまり、自由律の音を記述する際に五七五の定型を強く意識させるようなスペースの入れ方をしている。そう考えると興味深い試みです。

生きていたら視界に石鹸玉がふわふわする時期もあるでしょう。だいじょうぶ、あなただけがおかしいわけではありません。あまり気になるようならお医者様に相談を。

※1 作者=俳句の作中主体(作中人物)と解釈する方も結構いらっしゃるようなのですが、わたしはそういうふうには読みません。他人の人生に土足で踏み込みたくないからです。たとえ作者自身から「わたしの人生の物語として読んでね」と差し出されたものだったとしても、そこにはクッションを挟みたい。

※2 いま適当につくった句なので品質についてはご了承ください。スリジャヤワルダナプラコッテはスリランカの首都。言葉の塊ごとに分けると「スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ」となるようです。