2015年7月5日から12日にかけて「#マッドマックス怒りのデス吟行」と題して映画「マッドマックス怒りのデス・ロード」をモチーフにした詩歌を twitterにて募集しました。お寄せいただいた数々の熱い俳句・短歌・その他の中から、お気に入り作品のごく一部を紹介します!
◆イモータン・ジョー部門
疱瘡に鎧まといて螢狩(沼尻つた子` @numatsuta)
https://twitter.com/numatsuta/status/618327798839574528
イモータン・ジョーの背中に白い粉を吹きかけて透明な鎧を装備させるシーン。ジョーの背中は瘤だらけ(腫瘍?)でしたが、それを強引に「疱瘡」と呼んで古風にまとめたところが技あり。つた子さんは他の作品でも銀スプレーを「銀粉」と書いたり、フュリオサに芍薬の花を取り合わせたり、マッドマックスの世界観を短歌・俳句に馴染む言葉に置き換えて表現なさっていて、テレビゲームを浮世絵風に描いたファンアートみたいなかっこよさを感じました。
蛍は逃げた妻たち。あるいはフューリー・ロードで文字通り燃え尽きて死んでいくウォーボーイたちもまた蛍なのかもしれません。
◆ウォーボーイズ/ウォーパプス部門
燃え尽きるかがやきだけを教えられ声を揃えるしろき幼子(ミクニハレノ @mikuni_hareno)
http://privatter.net/p/889501
砦には幼い子たちがたくさん集められていました(ウォーパプスというらしい)。ニュークスやスリットもあんな小さいころから車の運転と殺すこと死ぬことだけを教えられてきたのでしょう。
ところで、砦の子供たちはニュークスやスリットと違って身体改造をしていないように見えました。一人前のウォーボーイになるときに通過儀礼として身体改造を行うのかも?
さて、次の三首はウォーボーイズの側に立って詠んだものです。
ノックなどすればゲートが閉じるからV8エンジンに注げハイオク(きりゆき @kiriyukiko)
https://twitter.com/kiriyukiko/status/617728378234212352
デス吟行であることを忘れて読めば「千載一遇のチャンスに向かってハイオク満タンで飛ばしていこう!」という何か楽しそうな歌のように見えます。が、ここでのゲートというのはヴァルハラの門。車を運転して前に進むことと死に向かって突き進むことが重ねられています。イモータン・ジョーの教えに忠実な模範的ウォーボーイ短歌です。
しろがねのスプレー噴けば魂はいとかろやかに肉叢(ししむら)を脱ぐ(いさな(タグ遊び用) @op_isana)
https://twitter.com/op_isana/status/617503357389778948
ウォーボーイズがスーサイドアタックする前に口に銀のスプレーをプシャーッとやる儀式ですね。「しろがね」「たましい」「ししむら」のshの音が多用され、音そのものもスプレーみたい。そしてそこから魂までも揮発していくようなイメージが喚起され、なんだかとても美しいです。爆発で派手にふっとぶウォーボーイズを見てこんなに静かな短歌が生まれるとは。
俺を見ろ他の誰でもない俺をどの俺でもない死にゆく俺を(もじほこり @saikasouko140)
https://twitter.com/saikasouko140/status/617709923661561858
“Witness me!(俺を見ろ!)”
上の句では他のウォーボーイではない「俺」、下の句では白塗り中の姿でも整備中の姿でもなくいままさに突撃していく「俺」を目に焼き付けろという切実な叫びが歌われています。ウォーボーイたちは、自分が出世していい車を運転できるか、自分がヴァルハラに行けるかどうかを非常に重要視しており、実は個人主義的とも言える。大儀のためには自分の命など惜しくないというようなスタンスではなくて、誉め称えられるから、また、その先によりよい世界があると信じているからこそ死んでいく。そういったことが「俺」の畳み掛けによって表現されていると思いました。
余談ですが、歌人の高柳蕗子さんの評論集『短歌の酵母』っぽい表現で言うなら、この短歌には「あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ(小野茂樹)」が背後霊として憑き、それとなく恋の気配を漂わせています。
吟行期間中もずっと考えていたんですが、勇ましく戦って死んでいくひとの側に立って詠まれた短歌は、映画モチーフということを知らずに読むと怖くなります。「マッドマックス怒りのデス・ロード」が一面的な暴力礼賛にならないように配慮して作られたアクション映画だけに、二次創作した詩歌の政治的配慮についても考えさせられました。(で、線引きは難しいのですが、あくまでもわたしの感覚で、映画モチーフのものとしてもこれは完全に駄目だろ、という作品は紹介しない方針です)
次回は、「これぞ吟行句!」という俳句を紹介します。