お菓子が好きです。
洋菓子店に併設された喫茶でいただく見目麗しいケーキから、手軽なコンビニスイーツ、お茶席の練り切り、温泉饅頭、ドライフルーツや砂糖漬、ホットケーキミックスで作る簡単なおやつまで、甘いものは一通り好きです。
脳がお菓子化しているため、なにを見てもお菓子のことを考えてしまう。たとえば絵画を鑑賞しているときも、ふと気づくとその絵がどんなお菓子でできているかを想像しています。大岩オスカールは果肉入りゼリーとムースの層。ブリューゲルが描く帽子はマカロン。平山郁夫は落雁(らくがん)。大きいし食べがいがあると思う。
さて。わたしは憑依系俳人という職業柄ひとの俳句をよく読むのですが、句集にはお菓子の俳句が結構な頻度で登場します。今回はその中から、おいしそうなものを中心に(多少の珍味も含む)好きな俳句を選んでみました。さっそく見ていきましょう。まずは和菓子系から。
鯛焼のやきたてといふ面がまへ 津川絵理子
『俳コレ』「週刊俳句」編集部 編/二〇一一年/邑書林
焼きたての鯛焼きは皮が乾燥していますが、時間が経つと湿気でやわらかくなってしまいます。この句ではその焼きたてのかりかり感を「面がまへ」と表現しています。キリッとした鯛が好きか、ほにゃっとした鯛が好きかは好みがわかれるところでしょう。わたしは持ち帰った鯛焼きを紙袋から出した際の切ないようなやわらかさを愛する派です。
カステラで腹いつぱいに子供の日 松本てふこ
『俳コレ』「週刊俳句」編集部 編/二〇一一年/邑書林
大人にとっては単なる休日である五月五日、カステラを食べながら子供時代を思い出している、と解釈しました。
幼い頃、子供の日には、お寿司屋さんのお子様セット、デザートのゼリー、ちまき、柏餅とテーブルの上の食べ物を食べ尽くしていたけれど、いまはたった一切れのカステラとお茶だけでお腹がいっぱいになってしまう。年取ったなあ、という感慨。
もしかしたらカステラが美味しすぎて一切れではなく一本まるまる食べてしまったのかもしれませんが。
草餅の濃きも淡きも母つくる 山口青邨
『改訂版 新歳時記(春)』平井照敏 編/二〇〇三年/河出書房新社
意図的にそうしたのではなく、混ぜる際にむらが生じて深緑色の草餅と薄緑色の草餅ができてしまったのではないでしょうか。大好きなお母さんが目の前で作ってくれているのが嬉しくて、大きさの違いや色むらさえもなんだか楽しい。子供時代の幸せな情景を描いたノスタルジックな句です。……
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この他、山口優夢・高山れおな・上田信治など、現在活躍中の俳人の作品を中心にお菓子俳句を紹介しています。
続きは『線と情事』第二号で。
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