『岡大短歌3』から好きな歌を紹介します。
インスタントコーヒーを手にしばらくは終わりから剥がされる夜を見て 高岡晶美
連作の文脈からすると、「学生生活の終わり」から剥がされて「社会人生活」へ移行しなければいけなくなることを言っているのだと思うけど、「終わり」から「剥がされる」という捉え方が面白い。じんせいにはこういう時間がときどきありますね。終わった瞬間次の場所にいるのではないんだよね。
本業ニートで子供舌のわたしからすると「インスタントコーヒーなんてそんな、ワーカホリックみたいな飲み物まだ飲まなくていいのに……(ミロのほうが美味しいのに)」と思ってしまうが、この歌の人物はもう社会人生活に適応しはじめているのだ。
午後九時に半額になるスーパーに段ボールだけをもらいにゆく日 上本彩加
これも文脈から卒業→引越しのため、と推測される。いつもなら午後九時の半額を狙ってお惣菜を買いに行っていたスーパーで、その日は買い物をせず、段ボールだけをもらう。
たまったポイントはちゃんと商品と交換できただろうか。引越しの前に荷物を増やすわけにもいかないから諦めたかもしれないな。
通過する新幹線に引っ張られゆがんでしまったようだ、世界は 川上まなみ
新幹線で移動していったひとを見送ったあとの歌だろうか。ひらがなの「ゆがんでしまったようだ」のところが、上の句の漢字との対比で飴をひゅっと引っ張って伸ばしたように薄くなって見える。喪失感なんて言っていないのに喪失感の大きさを感じさせる。
夕焼けとあなたのからだをいっぺんに抱きしめたくて三歩下がった 山田成海
いい意味で変なところがある山田さん。ええ。わかります。映画の言葉で言うならマジックアワー。かっこいい背景に立ったかっこいいあなたを全部まとめて抱きしめたい。至近距離に立つと顔しか見えない。ちょっと下がる。ぎゃー!! めっちゃかっこいいー!! からのだいしゅきホールドです。三歩はだいしゅきホールドの助走にちょうどよい距離です。