半分妄想トルコ日記(5日目・前編)憧れのトルコ航空

アンカラ駅前のホテル。朝食ビュッフェがまたしてもすばらしかった。イスタンブルやカッパドキアでは屋上や上層階を朝食会場にして景色を見せることが多いようだけど、ここではよく手入れされた中庭が見える。そうよね、首都は風景では古都イスタンブルに敵わないもんね。
ギャルソンに声をかけて「朝ごはんおいしかったです!」と伝えた。少し話して、とてもいい笑顔で「ギュレギュレ(さようなら)」と送り出してくれた。「ギュレギュレ」は見送る側の挨拶で「ホシュチャカル」が旅立つ側の挨拶なんだけど、つられて「ギュレギュレ」と言ってしまった。「ギュレギュレ」って言いやすい。元々の意味は「笑って笑って」だそうです。笑顔でさようなら。

フレディはレンタカーでホテル前に現れた。もう返した後かと思ったけれど、今日これから空港に向かい、空港で返却するのだそうだ。レンタル期間の割に(自分でインターネットで調べた場合より)レンタカー代が安い。フレディ、交渉したのか。それとも割り勘にしてくれたのか。立て替えてもらっていたお金はキリのいい枚数にして返したけど案外すっと受け取ってもらえたのは彼の出費が実際もっと大きかったからだろう。
本日の予定は、わずか50分のフライトでアンカラのエセンボア空港からイスタンブルのサビハ・ギョクチェン空港に飛び、イスタンブルで1日過ごすこと。フレディは(プリンスィズ諸島)に行こうと言ったが、「日本にはオミヤゲと言って旅先で買ったギフトを友人や職場の人や親戚に配る習慣があるので今日はそれを手に入れねばならない」と説明してお土産購入を手伝ってもらうことになった。

エセンボア空港では機内持込手荷物の中に入れていた小型の鋏を没収された。トルコの国内線は鋏がだめなのだそう。髭剃り用の剃刀なんかは大丈夫。でも鋏は、どんなに小さくたってだめ。
中央アジア回ってトルコに来て、ウズベキスタン土産のきれいなコウノトリの鋏をうっかり機内持込手荷物に入れて没収されて泣いたひと絶対いると思う。そのひとよりはましだ。傷は浅いぞ。そうは思っても地味につらくて、あとでフレディに当たり散らした。

ところで、突然話は変わりますが、トルコの人は嫉妬深いという説があります。たしかに、自分の観測範囲でも友人関係に関してすら嫉妬心を表明することがあるし、トルコ料理店の主人がライバル店の話をするときに明らかに対抗心を見せることもある。でもそれは本当に嫉妬しているのか、「嫉妬してしまうほどあなたのことが好き!」「うちに毎日でも来店してほしい!」というポライト・フィクション(社交辞令。礼儀としての嘘)なのか、よくわからない。どちらにしても嫉妬を受け止める側としてはめんどくさい。そんなコミュニケーション普段しないからリアクションの仕方がわからない。
それゆえに、昨晩ルークに会ったことをフレディに報告するときはちょっとした決心とともに告白したのだが、嫉妬も何もなく普通に受け止められてしまった。
「MADOなら僕が連れて行ってあげたのに! なぜそんな危険な真似を?」
くらい言われるかと思ってた。
身構えただけに、ちょっとさびしい。

たった50分間の国内線とはいえ、ターキッシュエアラインズに乗ることができて幸せだ。切符はフレディが格安で見つけてくれた。さすがは地元民。自分では絶対に国内線を使うことは思いつかなかった。ターキッシュエアラインズの国際線はわたしには高級すぎる。東京からイスタンブルまでの直行便はあるけれども、航空券代だけでなく東京までの新幹線代が高い(と、ぼやいていたら2020年に関西国際空港からイスタンブルへの直行便が再開されるというニュースが)。

写真が微妙ですみません。ぬくぬくを察してください。

離陸して着陸するまで一瞬なのにちゃんと軽食がもらえた。しかもあったかい! 朝ごはんでお腹がいっぱいだったけど、せっかくなので半分くらいいただいた。めっちゃくちゃおいしい。

「おや、おしぼりが2つ付いてますね?」
「あれ? フレディのは1個なの?」
「彼(と、通り過ぎたCAの方にさっと視線を向けて)きっと日本人が好きなんですね」

ここでの「好き」はルークのようなイエローフィーバーという意味ではなく、客として扱いやすいから好き、というニュアンスだろう。日本人は記念に追加のおしぼりを欲しがるので予め二つ渡しておく、という作戦かもしれない。それならわたしに対しても大正解だ。日本のおしぼりは無香料のものが多いけれどターキッシュエアラインズのおしぼりは香料のいい匂いがする。トルコの香りだ。なんなら20個パックにして売ってほしい。(日本に帰ってから、職場のペン立てにこのおしぼりの空き袋だけを置いておいて疲れた時にスニッフィングしている。)
トルコ語と英語で書かれた機内誌 Sky life は東京・京都で開催される「トルコ至宝展」が特集されていて、フレディがCAさんに「もらっていいですか?」と声をかけて、ふたりとも持ち帰った。
「トルコ語を勉強してください。わたしも英語を勉強します」
いやいや、大学の授業は英語で受けてたくせに何をおっしゃいますやら。

サビハ・ギョクチェン空港に着いたらタラップを降りてバスに乗って空港の建物まで移動する方式だった。
季節も情景も違うけれど、

旅客機閉す秋風のアラブ服が最後  飯島晴子

という俳句を思い出した。

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