半分妄想トルコ日記 彼の名は乾留液(カトラン)

乾留液(カトラン)と呼ばれる協力者は「手伝ってくれよ」と言った。ほとんど一日中狭いスペースに閉じ込められていたのだから無理もないが、あくびをしながらだるそうに手を伸ばす様子は4歳の息子が甘えるときの姿に重なってしまう。
手を貸して車から降ろすと、よろけることもなくきちんと自分の足で立っている。土砂降りに遭ったようなずぶ濡れだが脈拍は正常だ。顔色も悪くない。
鍵を渡して今夜は部屋で休むよう伝えると、なぜか彼は不服そうな顔をした。

翌朝、定刻に迎えに行くと乾留液は約束の時刻に駐車場に来ていなかった。念のため本部に簡潔に報告し、銃をいつでも抜けるようにして階段を上った。ドアをノックする。乾留液が水を要求したのと同じモールス信号のリズムで。
ドアが開いた。
素っ裸の乾留液が立っていた。
「出発の時間です。服を着てください」
「まだ乾いてなくて」

ムスリムは普通他人の前で全裸になることはない。だから他人の裸を見ることもない。ハマムの中でも腰にタオルを巻いたままだ。この男がそれを知らないとは思えない。過酷すぎる移送作戦に対する抗議のつもりなのだろうか。
両乳首、臍、性器。白い肌の上にピアスが輝いている。それを自慢したかったのか。驚かせたかったのか。なぜ私に。しかもわざわざ、今。

Maviの袋に新しい服があったでしょう? 3分待ちます」

ドアを閉めて駐車場に戻ると乾留液もすぐに階段を駆け下りてきた。シンプルな線でイスタンブルの観光名所が描かれたTシャツは彼にとてもよく似合っていたし、ジーンズのサイズもぴったりだ。部下の優秀さが誇らしい。

「悪かったよ」
「いいえ、問題ありません」
「ケレベッキ・ベイ(蝶さん)運転が丁寧だよな」
「乾留液。あなたが早く乗ってくれないととびきり乱暴な運転をしなければいけなくなります」

乾留液が握手を求めたので彼の手を握り、抱き寄せて、頬を合わせた。

彼はなぜか赤くなってそそくさとシートの下へ潜った。いまさら裸を恥じているのか。よくわからない男だ。