半分妄想トルコ日記(3日目・後編)レンタカーでカッパドキアへ



旅程を考えた当初は、夜行バスでカッパドキアに向かおうと思っていた。ラマダン後の休暇に帰省するひとたちがチケットを買うらしく、すべて売り切れで予約できなかった。その代わりにフレディが提案してくれたのがレンタカーだった。バスより早く、カッパドキアに着いてからの移動にも便利だ。

車に乗った途端、フレディは話しかけても答えてくれなくなった。

なんだ、これは、まずいやつか。
もしかして、だけど。夜行バスを取る方法だって本当はあったのに、敢えて二人きりになるレンタカーを選んだのではないか。
もしもわたしのからだが目当てなら。いままでいくらでもチャンスはあった。イスタンブルでは同じホテルに泊まったわけだし、何かと理由をつけてアンカラの自分の家に誘うこともできただろう。
どこかへ連れて行く必要があるのではないか。取引。人身売買。このままドナドナと海沿いまで運ばれて港湾倉庫で取引され石油産出国の富豪のドラ息子が寝転がって見るアジア人専門スナッフムービーに出演させられ最終的には地中海の魚の餌になるのではないか。え。でも地中海の魚の餌になるのよくない? なんておしゃれな最期……!
どうせ死ぬのなら奨学金を返済しなければよかった。あれはわたしが死んだらチャラになるはずだ。損をしてしまった。旅行保険の受取人、誰にしたんだっけ。殺人の場合は適用されるのか。いやこの場合きっと行方不明だから何年も支払われないのか。むしろ今ほしい。リラで払ってほしい。もうちょっと遊びたい。こんなことならハマム(トルコ式岩盤浴&垢すり)も体験すればよかった。最高級と名高いヒュッレム・スルタン・ハマムに行けるのなら成仏できる気がする。

などと想像を膨らませながら、カーステレオとiPhoneをBluetoothで繋いでお気に入りのターキッシュポップスをかけ、流れていく風景を楽しんだ。
フレディは運転が久しぶりだから無口になっているのだ。空港の駐車場を抜けたあたりで「集中させてくださいね」と切羽詰まった顔で言ったのでほんとうはわかっている。


İrem Dericiは”Ben tek siz hepiniz” っていう曲もすごく好きです。アゲアゲでなおかつめっちゃ中東っぽい!

それにしてもトルコは大きい。なんにもない大平原があるのがすごい。昭和時代の抗鬱剤の広告みたいな、だだっぴろい牧草地とそこにぽつんといる羊。そういう風景が実在する場所なのだ。
ガソリンスタンドに寄り、お祈りのためにモスクに寄り、また走った。標識には80という数字が見えたのだが、速度は120キロ出ていた。80というのは制限速度ではないのだろうか。周りの車も120キロか、もしくはもっと速い。

黄色い岩山が見えてくると興奮した。
「カッパドキア? もうカッパドキアなの?! 超かっこいい!」

ショッピングモールに入っているPide by Pideというピデ(トルコのピザ)やさん。一人分がでかい。

ショッピングモールで食事をしてからギョレメの町へ向かい、宿に到着した。いかにもカッパドキア! みたいな洞窟ホテルは満室だったので簡素なホステルだ(でも人気の観光地なのでそれなりのお値段がしてしまう)。駐車場らしい駐車場はなくて塀沿いギリギリに車をつけたけど、宿のスタッフが運転を代わってさらにギリッギリまで寄せた。まじかよ。他人の車なのにそんな思い切った真似を! みんな運転が下手なわけじゃなくて、単に荒いんだな、きっと。
(ところでカッパドキアと言ったりギョレメと言ったりしていますが、カッパドキアというのが奇岩地帯の名前、ギョレメはそのエリアの中にある町のひとつです)

「わたしは疲れているので休みますが、ひとりで出かけても大丈夫ですよ。この町は君の国と同じくらい安全です。明日の昼には再び車でアンカラに帰るので、夜のカッパドキアが見られるのはいまだけです」

水煙草の吸えるバーがあり、ライブハウスのようなところがあり、中華料理店まである。リゾート地だからなのか、なんとなくうきうきとした雰囲気が漂っていて祭の夜のようだ。断食月の夜だしそれが終われば祝日だし、すでにみんなお祭り気分なのかもしれない。少し散歩したら満足してしまって、部屋に帰って温度調節の難しいシャワーを浴びた。トイレは紙を流せないタイプ。角度の変わらないウォシュレットみたいなやつで洗い、紙で拭いて、拭いた紙は大きなゴミ箱に捨てる。洗面所の鏡に映る自分の顔がものすごく青く見えて、カッパドキアで殺された日本人女性がいたことを思い出した。

この日記の中にあるリンクを経由してamazonでお買い物していただくと筆者がターキッシュポップスを聴いてごきげんになります