「フレディ、わたし困っている」
「どうしましたか」
「ごめんなさい。あなたに言う、失礼かもしれない。わたしピリオドある。始まった。女の子の日。スーパーマーケットかドラッグストアに行く必要ある」
period(月経)か。妻にしか、それも限られたシチュエーションでしか言われたことのない言葉に面食らってしまったが、彼女には他に頼れる相手はいないのだ。仕方がない。
「歩いてすぐの場所にミグロスというスーパーマーケットがあります。歩けますか」
「ゆっくり歩ける」
衛生用品の棚まで案内して、買い物の間すぐそこで待っていると伝えた。ユキサンは何度も頷いて棚の間に消えていった。レジの店員が「面倒くさそうな客置いていかないで!」というような目で睨みつけてきた。
大丈夫。その外国人は少し英語が話せるし、2歳児程度にトルコ語がわかる。
フレディというのは自分で考えた偽名ではない。ユキサンと知り合った頃は現場の人間ではなかったから、正直に本名を伝えた。ところが彼女は日本語に存在しない母音から始まり日本語に存在しない子音で終わるその名前を全く発音できなかった。発音するたびに「全然違います」「少し違います」「惜しい」「遠くなった」と感想を述べていたらついに諦めて、
「フレディはどう?」
と言ったのだ。由来は聞いていない。
しばらくしてユキサンはにこにこしながらスーパーから出てきた。青ざめているようにも見えるが、相変わらず笑顔だ。