第1回ビバ!ユキオ俳句賞では81名の方からご応募いただきました。計405句。
本日から7回に分けて選考結果の発表を行いたいと思います。
受賞作を7部門に分けました。
VR部門
どうぶつ部門
ホラー部門
小太郎部門
BL部門
心配部門
珍部門
大賞はありません。
わたしが優柔不断でどれをいちばんにするか決めようとすると何年かかるかわからないので!
大賞はどれがいいか考えてみてね! と皆様に丸投げしていくスタイルです。
(句会のときはどうやって特選を決めるのかって? 並選の中から鉛筆を転がすんだぜ……)
ちなみに上記の7部門合わせて受賞作は49句です。
一通り発表した後で選外佳作にもツッコミを入れるかも……。
それではまずは、VR部門の発表から!
【VR部門】
「景色がくっきり見える」「臨場感がある」など読者である自分が一瞬でその世界に立たされるような句をVR部門として選びました。
★大きい賞
熱気球そっと潰されゆく枯野 ミコシ
景色が大きい! 熱気を送り込んでいるバーナーを止めれば熱気球はしぼむ。その姿を「潰されゆく」という受身で表現しています。
日常言語では「そっと潰す」と言われて想像するのは、たとえば浮き輪や紙風船の空気を抜く動作でしょう。それが熱気球のような大きなものに使われたことでスケール感が狂い、巨大な神の手が現れて気球を潰す様子が見えてしまう。「神」という言葉を使わず「大気圧」と言ってもいい。ふだんそこに働いていると意識させない大きな力がふと姿を表す長い一瞬を捉えたところがぐっときました。
しぼんだ熱気球を受け止める地面が「枯野」となっていることで気球の布の極彩色が際立ちます。
★百合賞
葉酸を摂るべき君や春の海 ショージサキ
「春の海」に取り合わせるものとしてまったく予想外の「葉酸」。
ところでわたしは葉酸のサプリメントを飲んだことがありません。それがどんな感じのものかよくわかりません。しかしながら文字列を目に入れると各パーツからいろんなイメージを受信するもので、葉酸の「酸」という字から漂ってくるツンとした刺激は「春の海」のまだ冷たい潮風と相まって、なんだか妙に目鼻を刺してきます。このひとたちは非常にセンチメンタルな気持ちになっているのではないか。
検索して得られた知識だと葉酸のサプリメントは妊娠を望む人が飲んだりするようなので、ひとまず「君」は女性として読みたい。
で、もうこういうのは俳句の読みを超えて完全に妄想ですが、「妊活」に疲れたA子さん(既婚者)を連れてB子さん(独身)が数日間の短い旅に出るわけですよ。「リラックスしたほうが妊娠しやすくなるって言うからさ」って。春の海に。そしたら旅の最終日、A子さんは靴と靴下脱いで海に足を浸そうとするの。B子さんは慌てて「やめなよ! あんた冷えは大敵って言ってたじゃん!」って怒るんだけど「あはは。そうだっけ」とか言って波打際を歩き始める。波がきてスカートが濡れてもおかまいなし。「ちょ、待って、どうしたの、ねえA子……!」B子さんはA子さんのことが好きだから幸せになってもらいたい。妊娠したいと言うならその望みがかなってほしい。しかしそれがA子の本心からの望みではないとしたら……? A子、A子、あんた本当はどうしたい? ねえ、このままあたしとずっと一緒にいたらどうかな。あたしぜったい泣かせない。あの男みたいにあんたを泣かせない。一生大事にするから。ねえ。ねえ。その言葉は声にならなくてB子はただただA子の姿を目で追うしかないのです。うわーん!
★ほんとにいたんだもん賞
みな蜥蜴消えたところを指差せり 笠井亞子
俳句のような短い詩型では「◯◯がない」と書くことは「◯◯がある」と書くことと本質的には変わらないのではないか。「◯◯」という言葉を読んだ瞬間、一度は◯◯を強烈に想像してしまうからです。
この俳句では「蜥蜴」は「消えた」けど「みな」はあたかもそこにいま蜥蜴がいるかのように蜥蜴の消えた場所を指差している。「みな」の頭のなかにはその場所に蜥蜴のいた映像がくっきりと残っている。「消えたところを指差」す行為は、俳句における在と不在の関係そのものを示しているかのようです。
★ふは賞
けふ春の雪にいくばくかの浮力 西原天気
スローモーション映像のように非常にゆっくりと舞い降りてくる春の雪を想像しました。
「けふ」とか余計じゃね? と思わないでもなかったのですが、いや、やっぱり余計じゃないんだよこれは!
歴史的仮名遣いを選んだときに使えるマジックのひとつに「は」行でふわふわ感(ふはふは感)を増幅させる技があります。(あるよね? たぶんあると思う。例:ふはふはのふくろふの子のふかれをり/小澤實)この句は「けふ」が浮力を増幅させてる。
「春の雪」という季語が上五から中七にまたがっているところもお洒落。何も大げさなことを言っていないのになぜかちょっぴりロマンティック。なんだよ……イケメンかよ……。
★落ち着け賞
バレンタインデーばらばらの単語帳 松本てふこ
BL部門に入れようかどうしようか非常に悩みました。リングで留められた小さいカード式の単語帳。それがばらばらになってるだけ。その日はバレンタインデー。たったそれだけしか書かれていないのに青春の甘酸っぱさ、そしてほろ苦さ、みじめさ、滑稽さが押し寄せて我が胸の奥深くに封印せし黒歴史まで蘇ってきそうです。
単語帳と言えばイメージするのは中学校か高校。書いたり並べ替えたりするためにばらばらにしたというよりはうっかりばらばらにしてしまった感じがしますよね。何に動揺してるんだ君は!
★症例賞
耳薬耳から出でてあたたかし 豊永裕美
点眼薬、点鼻薬とおなじように点耳薬というものがあるんですね。知らなかった。
わたしはみみぐすり、点耳薬というものを使ったことがないけれど、この句を読むと耳からあたたかいものが出てくる感覚が蘇ってきます。たぶんプールで耳に水が入ったとき、頭を傾けて耳から水を出す、そのときに感じる熱さが記憶にあるからだよね。
「あたたか」は春の季語ですから、「耳薬が耳から出てくること」と「外の気温のあたたかさ」を取り合わせたと考えることもできるでしょう。でもわたしは耳からあたたかいものが流れ出る生々しい身体感覚のほうを取りたいと思います。ここは敢えての「無季」っぽい読み方で。