『里』2013年2月号から始まった佐藤文香選句欄「ハイクラブ」。
佐藤文香氏の選を受けて誌上に掲載された俳句をまとめました。
2月号
まえばりをゆっくり剥がす夏の山
衣装ではないほうの麦わら帽子
3月号
冬深きところに魚の生殖器
薄氷に触れて匿名希望です
丸餅のたのしく黴びておりにけり
日脚伸ぶきつねうどんのいと甘く
北窓を座敷童が開けてしまう
4月号
父母の岐路にぜんまい繁茂せり
春めくって寒がることかピンクのシュシュ
かんたんな日本家屋や水温む
春の水はじく素材で自警団
スポーツは身体に悪しふきのとう
腕章を桜の下に見失う
5月号
春深しキリマンジャロを粉々に
このひとのどこにふれてもよい蒲公英
動脈のいそがしくなる桜かな
わたしたち長男長女かざぐるま
誰にでも吹かせてあげるしゃぼん玉
6月号
蝦蛄むいた指をかがせてくれませんか
籐寝椅子マリオは崖へ加速せり
脱いだシャツ脱がしたズボン夏布団
香水やこの身に棘を刺すように
7月号
ひきこもるための外出葱坊主
花は葉に建築鳶若干名募集
緑陰のほかは全体的に池
廃校に長々と注ぐビールかな
夏の星同心円状に痒し
8月号
明け易き北半球や正露丸
硝煙やトマト畑の乾いた土
秋暑し演歌のようなナポリタン
蟻の行列一匹一匹皆ゆるキャラ
正夢かしら坂道に水を打つ
9月号
靴脱げば小さなひとや乱歩の忌
乳色の陶枕に脈あるような
牛乳石鹼夏のおなかを撫でまわす
夜の秋ゆでてあふれてさぬきうどん
10月号
滝壺を見ている美しい脳波
秋時雨ト書きみたいに話すなよ
名月や下着を踏んで父祖に会う
揺れている草の中なる草雲雀
11月号
睦み合う無音の鳥や野外劇
方舟の柱を食みて羽蟻は
秋の夜の大きなクリスチャン・ラッセン
ハンガーが束ねて置いてある無月
12月号
行く秋のヒエログリフに鳥整列
蔦紅葉玄関灯がついてますよ
ゴーレムを土に還して暮の秋
彫像の指は秋めくおとがいに
1月号
空也忌のスポーツジムで跳ねまわる
鯨の穴を塞ぎにいくという妹
店舗兼住居の外階段に蕪
丸眼鏡まるく拭かれぬ冬日和