秋風のアラブ服 | 俳句さんに似合う香水を見つけてあげる(4)


Photo by Rumman Amin on Unsplash

詩歌のイメージに合う香水を探してくるのはちょっとしたトレンドですよ。なぜならNOSE SHOPマガジンに “百人一首” 夏の詩と香水と題して和歌のイメージに合う香水をセレクトする回があったから!
こんな僻地のブログだけどこの最新トレンドを牽引するつもりでいくわよ。よいしょ! よいしょ!(鼻フックでトラックをひっぱる絵文字)

さて、今回お招きする俳句さんはこちらです。

旅客機閉す秋風のアラブ服が最後 飯島晴子

ボーディングブリッジではなくタラップを使っているのだろう。そうだよね、風が吹いてるんだもの。
アラブ服(地域によりトーブとかカンドゥーラとか呼ぶ白い服のことだと思う)がその風になびく。
なんて絵になる情景でしょう!

言葉が並んでいる順番通りに想像するなら、アラブ服の人がタラップを降りてくるシーンということになる。
階段から降りてくる純白のアラブ服の男性。背後で閉まるドア。彼は空港ビルへと向かう。
増殖する俳句歳時記ではこちらの解釈を採っているようだ。

でも乗り込むところと考えたほうがドラマチックじゃない?
「旅客機閉す」で旅客機のドアが閉まるところを見るでしょ。それから「秋風のアラブ服が最後」だったなあ、と回想する。そして去っていく飛行機。

もうちょっと妄想を膨らませるとですね、彼は日本でひと仕事終えた後です。何か重大な任務を果たして中東に帰ってゆくところ。この俳句の視点の位置を決めるなら、人々が搭乗を待っている待合エリア内の最前列あたりがいい。ガラス越しに外を眺めていると悠々と飛行機へ向かう純白のトーブの美しさに釘付けになってしまう。彼はタラップを昇り(そうここで晴れ渡った秋空の下、頭の布が一層大きく風になびきその白はますます輝く、でも遠いからぎりぎり顔はわからない!)飛行機の中に消えていく。この句の語り手は、いや、読者であるわたしは、閉まったドアを見ながら何度もそのまぶしさを反芻せずにはいられない。

っていう雰囲気の香水を探そうというのが今回のテーマです。

ざっくり要素を抜き出すなら、空港。秋の光とさわやかな風。日本から旅立つアラブの男性。
せっかくだから中東の香水から探してみたい。

注1:本記事ではトップノート・ミドルノート・ベースノートに関してFragranticaを参考にしています。
注2:本記事では「石油王」という言葉をNGワードに設定します。中東地域の方、民族衣装着てるだけで「石油王」って呼ばれてうんざりしてるんじゃないかな、と思って。ステレオタイプよくないよね。いままで軽々しく石油王の存在を求めすぎていたと反省しています。油田の有無にかかわらず喜捨は歓迎です。

中東の地図

<登場する中東地域のざっくりした説明>
わたしのように地理が苦手な方は左上にイタリアのつま先が見えているのを手掛かりに場所をイメージしてください。
トルコは小さじ一杯分くらいヨーロッパにかかって残りはほぼ中東。トルコに拠点を置くフレグランスブランドは烏龍茶香水が日本で人気のNISHANEのほかALGHABRA、PEKJIなど。トルコ旅行記も読んでね。
UAE(アラブ首長国連邦)といえばドバイ。でも首都はアブダビ。フレグランスブランドは(前回小粋なダジャレのネタにした)AL HARAMAIN、SWISS ARABIAN、ANFASなど。
オマーンはあまりなじみのない国名だけど1930年代に日本女性と結婚して神戸に住んだ(元)王様がいたり、1970年代に皇太子がクーデターを起こして父親を追放したり、なかなかドラマチックなのでウィキペディアでご堪能ください。AMOUAGEは王様の命を受けて設立されたフレグランスブランドで、オマーンの観光名所の一つ(工場見学できる)。

アラブ服は蜜にまみれた薔薇を抱く – アントンス カフェ EDP –

INTENSE CAFÉ EDP
ブランド:Montale Paris(仏)

トップノート:フローラル
ミドルノート:コーヒー、ローズ
ベースノート:アンバー、ヴァニラ、ムスク

Montale Paris…? いきなりフランスじゃん。中東じゃないじゃん。
いやいやいやいやいや。モンタルっていうのは中東でキャリアを積んだ調香師によるブランドなんですよ!
調香師のピエール・モンタルは長年アラビアの王族の専属調香師として働いていたらしい。 モンタルの公式サイトの説明文に書いてある “Kingdom of Arabia” がサウジアラビア王国(Kingdom of Saudi Arabia)のことなのかどうかちょっとわからない。アラビア半島のどこかの王国という意味なのかもしれない。

ブランドの特徴としてよく言われるのは香りの持続性と拡散範囲の広さ。
サンプルを肌に吹いてみると、評判通りスプレーした箇所がいつまでもきらきらしている。蒸発しにくい。これがロングラスティングの秘密か。
とはいえ、このアントンスカフェはモンタルの中では比較的おとなしくて日本でも使いやすいほうではないかと思われる。

というのは、Oh My Pouchという通販サイトで試香紙を5種類同時に取り寄せた際に、アントンスカフェの香りが最初に消えていったからです。鼻を近づけて(とは言いつつきついので他のブランドよりは遠めから)嗅ぎ比べてみてもいちばんマイルド。残り4つはちょっと頭痛が起きちゃいそうなレベルで強かった。

さて、アントンスカフェの香りの感想ですが、激甘なローズから始まり、そのローズを濃厚に継続しながら杏仁豆腐の気配を秘めた生クリーム盛り盛りの激甘ヴァニラ・ラテに移行。
カフェと言われてイメージするブラックコーヒーの感じではないですね。
ほぼ薔薇とヴァニラ。コーヒーはほんの一口。終始一貫して甘いです。香水なのに太りそう。
正直なところ日本人がイメージするアラブ感はない。空港っぽさは……うーん、どうでしょう。空港で飛行機待つ間コーヒーと甘いもので一息いれることもあるし、非日常のハイカロリーな飲み物を頼んだりするのも空港っぽさといえば空港っぽさか。食欲の秋! と思えばなくはないな。
なお、この項のタイトルは例の単語をNGワードに設定した反動でBLっぽくなりました。
禁止はBL神経を刺激する。

旅するアラブ服とスパイスの微風 – ジャーニー マン EDP –

JOURNEY MAN EDP
ブランド:アムアージュ(オマーン)

トップノート:四川胡椒、カルダモン、ベルガモット、ネロリ
ミドルノート:ジュニパーベリー、インセンス、タバコ
ベースノート:トンカビーン、レザー、シプリオル、ムスク

Amouage Journey Man

Amouage Journey Man(画像は公式サイトより引用)

はい。こちらは中東で製造された中東の香水です。ただしLuckyscent(ラッキーセント)というアメリカの香水販売サイトから0.7mlサンプルを取り寄せました。
海外通販デビューおめでとうわたし!!!
海外通販は香水沼の深部で行われている禁断の秘儀と思い込んでいましたが、いざ自分で通販してみると香水沼の深部にたどり着いた気はしないのでまだまだ香水初心者を名乗らせていただきますよ。

それはさておき、肝心の香りです。

オーケストラパルファンのテ ダラブッカに似てる! というのが第一印象。
テ ダラブッカは「ダラブッカ」という中東の打楽器をイメージした香りなので似ているのは納得感ある。ただ、テ ダラブッカほど金属的な刺激を感じないような。思ったより親しみやすい香り。
トップがすごくみずみずしく涼やかな柑橘。この柑橘感はベルガモットと、ひょっとしたら四川胡椒の香りなんだろうか。涼やかという印象はカルダモンから来ているのかもしれない。
それと同時に土っぽい青い香りがする。これがシプリオルかな?
ゆっくりゆっくりフランキンセンスのウッディさが加わりお香っぽくなりやがてムスキーに和らいで……という、結構複雑な変化をします。
ところでベルガモットって面白い香料で、精油を単体で嗅いでも「あ、紅茶だ」って感じる。
アールグレイティーは茶葉にベルガモットで香りづけをするから、ベルガモットを嗅ぐと紅茶を感じてしまうということらしい。
テ(Thé = 茶)という名前を冠したテ ダラブッカは時間を置いたあとに黒糖入りの紅茶っぽくなることがあるのですが、ジャーニーはつけたての状態でアイスティーのような雰囲気を感じました。アイスティーの香りとまで言うと言い過ぎで、飽くまで雰囲気。
強めの香水ではあるけど、そこまで重くない。トップノートの清涼感は秋空を思わせる。名前も「旅」だし、なかなか似合うのではないかしら。

ルカの認めた砂漠の至宝 – フェイト ウーマン EDP –

FATE WOMAN EDP
ブランド:アムアージュ(オマーン)

トップノート:ベルガモット、レッドチリペッパー、ペッパー、シナモン
ミドルノート:ローズ、ジャスミン、水仙、インセンス、ラブダナム
ベースノート:ヴァニラ、パチュリ、ベンゾイン、カストリウム、インセンス、レザー、オークモス

嗅覚研究者で香水評論家のルカ・トゥリンというひとが『世界香水ガイドⅢ 1208』で五つ星(=傑作。五段階評価の最高点)をつけた(香水コミュニティでは)たいへん有名な逸品らしい。
嗅いだ瞬間、香りというよりも重低音を感じた。ズーーーーーーン……!
ごめん、ちょっとこの良さを感じ取るためには経験不足みたいだ。時間を置いて再挑戦します。

人工島のトロピカルジュース – グリーン ガイア EDP –

GREEN GAYA EDP
ブランド:ANFAS(アラブ首長国連邦)

トップノート:マンゴー、洋梨、アニス、カルダモン
ミドルノート:ミルク、リコリス、ウード、シダー
ベースノート:アンバー、オリス

ガツンとくるマンゴー。トロピカルフルーツのミックスジュース。フレッシュな果物からジャムやグミのような濃縮された甘さに変化していきます。健全なパリピの匂いがする。
これは成田空港でも羽田空港でも関西国際空港でもない。日本なら那覇。さもなくば東南アジア。むしろドバイの高級ホテルのプライベートビーチで傘のついたジュース(ノンアルコール)を飲んでるのかもしれない。旅客機は空を横切って、ビーチチェアに寝そべったままサングラス越しにそれを見上げてる。搭乗する気配なし。

結論

今回は、暫定的にJOURNEY MAN EDPをおすすめしたいと思います。
もっともっと似合うのがありそうな気がするのですが。空港の広い空や白い服をイメージするためには(雪のイメージや清潔さの演出に使われたりする)アルデハイドの入ったものを探すといいのかもしれない。ってかそもそも中東の香水手に入りにくいのに中東縛りにしてしまったのに無理があったかもしれない。いやしかし諦めないぞ。
今後ビシッとハマる香りが見つかったら更新します!

ほかに試した香りは?

今回の俳句さんのために取り寄せた中東地域の香水について一言ずつ感想メモを添えておきます。

Labyrinth Of Spices Extrait de Parfum – Alghabra Parfumes(トルコ)-
パイナップルと柑橘のフルーティな甘さ+ベチバーの土っぽさ。ドライダウンはヴァニラとわずかにコーヒー。個人的に懐かしい香りのような気がするけど懐かしさの正体がつきとめられない。明るくて心地よい香りだけにうっかりつけすぎて酔いそうでもある。

Fate Man EDP – Amouage(オマーン)-
概念としての朝鮮人参みたいな、根っこっぽい漢方薬の匂い。塩辛い。『世界香水ガイドⅢ 1208』でルカ・トゥリンにカレー呼ばわりされるのもわかる。わたしは嫌いじゃないよ。

Myths Man EDP – Amouage(オマーン)-
熟れすぎた蜜柑と苦い土。Lushの何かに似てる。重めのパウダリーになる。