白髪オールバックの老人が枕元に立って、新聞のようなものを広げる。
ほら、これ、あげますよ。
なかなかいいでしょう。
その、新聞のようなもの。
表紙というか一面というか、大きく書いてある。
「ペーパー」と。
ああ、そりゃ。「紙」だわな。
紙に紙と書いてあるなんて、さすが私の夢だ。
シュルレアリスティックでアーティスティックだ。
internetでないことを、blogでないことを、強く主張してるんだ。
かさばるんだ。
紙、なんだ。
なるほどね、と、私は妙に納得する。
老人は、私の胸の上に広げた「ペーパー」を置いた。
4ページが開いてあるんだと、すぐにわかる。
君ね、いまさら慌てふためいて現代詩を読むようになっちゃって。
それで安心してるようじゃ駄目ですよ。
ぼやぼやしてるとすぐにおばさんになるんだからね。
無駄だ無駄だ。焦ったって。
前歩いてる人と同じ道が歩けるなんて思いなさんなよ。
ここが何かわかりますか。
ここだよ、ここ。
老人は自分の胸の辺りを指差す。
心、ですか?
違う。
お乳、だ。
老人が「お乳」と言うやいなや、指差した先から赤い物がこぼれ落ちた。
私の真っ平らなお乳を覆った、「ペーパー」の上に、落ちた。
そんなわけで私の「ペーパー」創刊号には赤いしみが付いている。
携帯するにはかさばるばかりか、少し物騒な代物なのである。